肥後系 新水色獅子 公演情報 あやめ十八番「肥後系 新水色獅子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    音楽が牽引する美しい劇。
    今回の楽隊は吉田能さん率いる「花掘レ」+。前回公演ではオールディーズや昭和歌謡のアレンジが殆どでしたので彼の真の実力は発揮されていなかったと思うのですが、今回はそれが十二分に炸裂。花掘レ独自の魅力とともに、堀越涼さん率いる「あやめ十八番」の魅力を余すことなく表現した可憐かつ壮麗なオリジナルサウンドトラックを聴いていると、今でも美しい照明に彩られた光景がありありと目の前に再現されて。終演しても物語をなお愛しく、透明感のある記憶にと昇華してくれるのです。今回、全て楽隊のアクションが観られる席(特にピアノを弾く能さんの表情が見える、中央よりは外れた席が一番のお気に入り。)で拝見しましたが、私には楽隊が視界に入らない観方は在り得ませんでした。音楽劇という総合芸術としてのあやめ十八番が最高に輝いた作品だと思います。幸福な、この上なく幸福な公演でした。ありがとうございました。

    ネタバレBOX

    舞台は、女子高演劇部。顧問の男性教師・塚田(和知龍範さん)は元々脚本家志望で、「教師なんて仕事には興味が無くつまらない」という厭世観で女生徒を喰い散らかすクズ野郎。遊ぶなら大人の女にすればいいのに、その後禊で謝りに行くとかほんとどうしようもないな、と結局最後まで彼を好きになることは出来ませんでしたが(笑) 思うのは、このクズ野郎を主人公に据えて、言い訳も美化もせずに描ききった堀越さんの物書きとしての姿勢。森鴎外にその爪の垢を煎じて飲ませたいくらいの潔さ。これは私の経験則なのですが、物語を紡ぐときはどこかしら自分を登場人物に投影するもので、読む人は少なからず登場人物=書き手と思いこんでしまう。だから今回も、沢山のフェイクに塗れた堀越さん像を塚田に見出す人が多いはず。それを臆することなく舞台に載せた器の大きさ。感服です。

    そして、物語の冒頭・枕部分で堀越さんのお話を聞いていて、「嘘」と「真実」の境界線を曖昧にされたまま物語へと引き込まれていく・・・。音楽やダンス等SHOW的要素も多く、脚本も多重構造で構成されているため、一回観ただけでは複雑で難解だと思う方も多いかもしれません。しかし物語は、実はいたってシンプル。「ヤリ○ン教師が本気の恋をして、やはり本気で好きだった昔の恋人に天国に連れて行かれちゃった」というお話。しかしその輪郭を曖昧にしてぼやかした表現で全体を彩る堀越さんの手法は、まだまだ「好きな人は好き」というコアな魅力に思われますが、きっとこれから回を重ねることで(18回まで続くとのこと)驚くほど研ぎ澄まされていくことでしょう。

    なお、私は田山の正体はやはり千香だと踏んでいます。今回のテーマは「嘘」とのことですが、「千香ではない」と田山が答えたことがこの物語最大の「嘘」。そして、お祭りであの世から千香に会いに来た塚田を待ちぼうけさせることが、20年も待たせた彼への、彼女のささやかな復讐なのではと思います。

    この、塚田を演じた和知くん。今までに何度か拝見していますが、今回は突出して素晴らしかったです。初めて観たときはまだまだ若くて、童顔に似合わない低音ボイスで魅せてくれていましたが、男性として安定感を醸しだしてきた現在、クズ野郎でも憎めない不思議な魅力を堪能。これも堀越さんの演出の妙。素敵でした。

    そして、私は金子侑加ちゃんという女優さんが大好きになってしまったみたいです。凛とした瞳。美しい鼻筋の横顔。彼女が演じた「美鈴絢子」の、年齢に似合わない「耐える女」っぷりが心にしっとりと残っていて。どんな風に彼女が塚田に思いを寄せたか。どのように高まる気持ちを抑えて愛に身を沈めたか。きっと、自分を押し殺して押し殺して、そのうち押し殺したという事実さえ忘れるほど塚田を深く愛していたのだと、そう思います。塚田が彼女の深い愛に気付いたなら、あんな悲劇は起こらなかったのではないかな・・・。また、前回公演に続きタイトルロールの「水色獅子」の舞を任されるあたり、堀越さんに絶大な信頼を得ているんだなと実感させられます。これからも要注目の女優さんです。

    今回からあやめ十八番の副代表となり、ヒロイン・仁美を演じた大森茉利子さんは、壮絶な美しさで魅せてくれました。純潔の象徴である白百合を手に、自分のもとへと塚田を連れて行くクライマックスは、音楽の美しさと相乗効果で天に向かい螺旋を描くように昇華されて。このシーンを演じることができるのは、あやめ十八番の代表である堀越さんが演劇の世界を共に生き抜くパートナーとして選んだ大森さん以外にあり得ません。あらすじを読んだときから「この物語は堀越さんの大森さんへの壮大なラブレターになる」と思っていましたが、どうやらそれは当たったようです。

    一つだけ難を言いますと、物語の核となった「百合の花の中で眠ると死ぬ。最も美しい死に方」というファクターは、Twitterでは結構昔から出回っていてRTされまくっている情報だったりして・・・。なので、耳にしたときに「Twitterで得た着想なのかな」と思ってしまってちょっと冷めてしまいました、、新鮮な、未知の感覚を望むのは贅沢なものかなのかなと思いつつ。2回目以降はそんな感覚も忘れて楽しめたのも事実。

    そして・・・今回の物語は、個人的な恋愛事情と絡んで非常に美しく切ない物語として私の心に刻み込まれました。この辺りは誰にも言いたくないし文章に残したくない。あとでひっそりと、私の心を振るわせてくれる人に伝えられるときが来たらいいなと思います。女子高生の年齢はもうとっくに過ぎてますので彼女達のように白百合を散らすことはないけれど。人生のひとときに彩を添えてくれる恋の気持ちはいつでも大切な宝物です。それを抱きしめて日常を生きることの妙。そんな儚い幸せをも、演劇は私に優しく教えてくれます。

    0

    2014/08/03 13:41

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大