ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる 公演情報 風姿花伝プロデュース「ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    深読みのできる舞台
     終始、アンダーな光の下で上演される。大方が家族劇と取るだろうが、自分は敢えて、その見方を採らない。

    ネタバレBOX

     家族等、とっくの昔に崩壊していると考えるからである。寧ろ、その崩壊こそ現代社会の進展の度合いを測る指標の一つと考えた方が良かろう。無論、エマニュエル・トッドのような分析が正鵠を射る社会は世界中にまだまだ沢山あることは承知しているが、欧米先進国と日本に於いてはこの定式は崩れつつあると考えるのだ。
     原作者、ラーシュ・ノーレンはスウェーデンの劇作家だが、ヨーロッパは、その高い経済力を世界中から収奪することで築いてきた。それは、アメリカ、日本も変わらない。無論、第一次大戦後、ヨーロッパの力は相対的に衰え、アメリカがその経済力を継承した。アメリカ経済も既に陰りが見えるとはいえ、未だ、最後のあがきの真っ最中であり、そのあがきを長引かせる為に、奴隷以下の身分に甘んじているのが、日本という名の植民地である。安倍という阿保は、その植民地に於ける最も無能なピエロだ。
     世界はどうあるか? と問うことは、我々はどんな世界に生きているかを問うことでもある。こんなことを問わざるを得ないのは、大多数の人々が、力を持たないからである。身も蓋も無いことを言ってしまえば、世界を統べるものは、力である。だが、自分自身は、力が無い。殆どの人がこう考えざるを得ないのは自分が最強ではないことを知っており、同時に力が世界を統べることを知っているからだ。一方、人々は最強でないのに生きている。生きている以上、意味が欲しい。だから、力の前では、屈せざるを得ないことを承知しつつ、様々なエクスキューズを編み出すのである。透視図法ではこのように描かれるのだが、このエクスキューズが、様々に煙幕の役割を果たし、自己欺瞞を許す。そして、この自己欺瞞無しでは殆どの人が自殺を選ぶしかない。神? だと! 何を下らない幻想を! そんなものは、ヒトが宇宙と絶対的に向き合うことを恐れるが故に発明した逃避に過ぎない。ヒトは裸形に耐え得る程に強くは無いのだ。
     ところで、人間は社会を形成する動物の一つである。だから、神など無くとも、上記で挙げた様々な要素の多様な関係の中で、して良いこと、悪いことが経験則として決まってくる。之を定式化したものが、道徳である。そして、知恵とは、この法則を正しく類推し身を処してゆく力である。ところが、先進文明国は、そうでない地域・国々からの富を収奪することで自国の富を増やし、豊かな生活を育んできた。先進国の中でも、大国と言われる国々が常に、その時代で最も破壊力の大きな武器を持って来たことは注目しておいて良い。現在は、それが、核戦力である。そして、対外的には核の破壊力で恫喝を掛け、国内的には、「敵」の恐怖を煽ることで、残虐極まる核兵器の保有を正当化している。その際、民心操作に使われるのは恐怖である。だから、イスラエルを始め、北朝鮮迄もが核武装に走っているのだ。アメリカも北朝鮮が核武装していなければ(無論、ミサイル技術などを含む)本気に相手にしはすまい。今、アメリカが狙っているのは、宇宙の軍事基地化である。それが可能になれば、唯一の超パワーとして好き勝手ができるからであり、それを狙っているのだ。だが、そんなことをする為には莫大な開発費が必要だ。現在迄、散々収奪してきた中南米諸国は、結束してアメリカに対抗し、露西亜も再び、アメリカの喉元、キューバで、軍事に直結する動きを活発化している。バーチャル経済で凌ぐしかない現在の弱体化した米経済を再活性化する為に、彼らは、亜細亜にシフトしたのだ。当然、中国は黙って居られない。彼らは、アヘン戦争の被害、日本による侵略など、一旦、資本主義が暴走すれば、どんなことをするか歴史的に学んでいるから、坐してはいられないのは普通だろう。現在の指導者、習氏がそんなに優秀だとは思わないが、BRICSで立ち上げることにした新開発銀行は、無論、アメリカを中心とする世銀、IMFの影響力を低下させる為であるのは、言を俟たない。本部が上海に置かれることも無論、重要な点である。さて、此処まで大きな力を持たないが、豊かな国々はどのようにしてその富を蓄えてきたのか? そこが問題である。本作に登場する過程の父親は、警備会社の社長である。警備である以上、軍、警察と関連が深いのは無論の事だ。そして、現在、アメリカやイギリス、イスラエルなどの軍・警備会社は深く連関している。アメリカなどでは、軍事の民営化が大々的に行われていることは周知の事実であろう。イスラエルは、植民者がイスラエル軍より酷いことをパレスチナ人に対して行ってきたし、現在も行っているのは、パレスチナ問題に詳しい人間には常識である。あらゆる意味で違法な入植者を守るという屁理屈を掲げて、イスラエル軍が、パレスチナ人の土地を収奪し、女。子供を含むパレスチナ人を虐殺してきたこと、今もしていることを問題化しないのが、西側先進国の「正義」なのである。この家族の父は、このようなことが直ぐイメージできるような警備会社の社長なのである。姉は、できの良い模範的な学生だった、頭の切れも良い。だから、気付いてしまったのだ。自分の父のしていることに。その社会的位置と意味・道徳的問題に。母は、それらを充分推測できる能力を持ちながら、表面を取り繕うことにも汲々としているので、姉からも感受性の鋭い弟からもその欺瞞を見抜かれている。そして弟は、その心優しさから、精神を病んでしまう。その結果は、互いが、互いを傷つけあうしかなくなる地獄だ。その有り様をかなりブラックでアイロニカルに描いて見せた作品と言えよう。舞台を終始暗く保ち、姉のアルコール依存症表現に凄みを持たせ、観客の想像力を最大化する演出が効果的である。同時に、舞台美術や配置転換も物語の進展に邪魔にならぬもので、役者達の演技を更に深いものにしていた。照明・音響効果もグー。

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    2014/07/19 15:31

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