幻想時代劇『天守物語綺譚』 公演情報 東方守護-EAST GUARDIAN-「幻想時代劇『天守物語綺譚』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    純粋を通して見る美
     舞台は花道を真ん中にとってT字型。中央舞台中ほどから奥は段差を付けて高くしてあり、そのセンターには、姫の玉座、玉座のやや後方上部に獅子頭が据えてあり、その下は逆Uの字の通路が、更に奥へ通じている。この部分全体が天主閣である。Tの字の翼の端には、天井から、銀色の細い紐が天井から床まで届き、途中、ピンクの蝶が止まっている。原作が余りにも有名な作品なので、筋等は省く。(2014.7.13午前4時50分ネタバレ追記)

    ネタバレBOX

      今作に特徴と思われる点を以下に記しておこう。始めに登場する“嘘語り”は、無論、この幻想的な物語のシチュエイションを、現実世界から、劇場空間へ入って来た観客に自然なものと感じさせる為の仕掛けである。即ち、日常から舞台のリアリティーへ移行する為に設定されたキャラクターである。だから、観客は、彼を原作者、鏡花の分身ととってもいいし、脚本・演出家の分身ととっても構わない。要は、メタ化されていることが分かりさえすれば良いのだ。
     結果からみて、この導入部は、大きな成功を収めたと考える。主人公は魔性或いは化生のものである。従って、物語にリアルな感じを与える為には、観客を夢幻の世界にそれと気付かれずに誘いこむ必要があるのである。それなしには、観客は白けてしまうだけであるから。まして、本作は、鏡花の耽美的な側面が最も良く出た作品の一つであり、最も有名な作品の一つであるから、その独特の世界観に観客を引き込むことは、作品そのものが発する要請でもある。為にこそ、主人公は、一種のエーテルのような存在であらねばならず、為に実相とされる我らの世界全体に対しての鏡と化すのである。
     言い換えれば、所謂魔物である富姫とその眷族がかく迄美しいのは、人間の持つ厭らしさ、狡さ、汚さが対比されるからである。而も、ここに、図書之助を配することにより、人間を一面的に見ていないことを示し、而も大多数の人間が、今作で描かれたように、利害の為には、親友も恩ある人も平気で裏切り、あまつさえ殺害を図ろうとする身勝手な存在であることを描いている点も見逃せまい。これらのアウフヘーベンされた形こそ、苦い美であると示唆することは、何と辛く超人的な努力であろうか? 謂わば、夢幻の世界を描きつつ返す刀でエゴの持つグロテスクをアイロニカルに描いているのだが、この複雑な情景を過不足なく息づいたものにしているのは、細部のリアリティーである。
     一、二、例を挙げるなら、亀姫の乳母役がお歯黒をしている点や、武士が敵意の無い時には、刀を右手に持っていることなどである。この辺り、剣術をやった人間にとって常識とはいえ、知らない人間が多過ぎる現代にあって、貴重な注意力である。無論、腰に差す場合は、左に差す。これは、いつ何時、非常事態に会わないとも限らないと考えるのが武士である以上当然のことである。
     衣裳の工夫や、キャスティングの妙も気に入った。また花道を真ん中に据えたT字型の舞台も上手に使われている。何より、純粋な愛と信義、それらを前提として花開く美は、下界の苦みを超越するポテンシャルを内包し、異形の世界故に、逆に純度を高め、独自のcristallisationを形成している点が良い。

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    2014/07/11 16:03

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  •  良い作品です。今後ともよろしく。
                     ハンダラ 拝

    2014/07/13 03:54

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