荒野の家 公演情報 水素74%「荒野の家」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    バイアスがかかってはいるけれど
    初こそ少々違和感を感じたものの、
    自分を信じる登場人物それぞれの視座から紡がれる
    あからさまな言葉や態度が重なりに、
    ぐいぐいと引き込まれて・・・。

    三鷹で観た「半透明のオアシス」や前回のアゴラでの「謎の球体X」の登場人物達の貫きが、さらに歩みを進めておりました。

    ネタバレBOX

    冒頭から三十路男の母への駄々を見せられるとちょっと戸惑ってしまうのですが、世界に父と嫁いだ娘が加わり、表層の家族の関係のなかに4人家族の態が置かれ、さらにそれぞれの抱えるものがあからさまになるころには、シーンたちがちゃんと居場所と理をもった日常の時間の断片であることに気付く。すると登場人物の一人ずつが自らが信じ自分を愛でるように語る台詞や、態度が舞台に貫かれることや、やがてその表裏がその舞台上に重なっていくことが、ぐいぐいと面白くなっていきます。

    ひとつずつのロールに役者が組み上げていくものが強くデフォルメされ歪み突き抜けてはいるのですが、だからといって見失うほどに突飛ではなく、ありえる話のボーダーの内側にちゃんと収まり、さらには表層の家族の態にしっかりと繋がれていく。

    やりたいことが定まらず、30歳になっても引きこもる息子や、
    その息子を心配しつつも一方で依存している母、
    仕事をして家族を養いながらも、家庭内ではなにもしようとしない父親や、
    嫁いだ先の夫を従属させつつ実家に戻ると母の良い子になりたい娘。

    様々な軋みを抱えながらも、その家族がいる家には屋根があり壁があり、時折風音の聞こえる中で家は建っている。
    母を訪れ相談と称して、自分の義理の父の介護を当たり前のように頼みにくる隣人の理屈とそれが臆面もなく語られることも凄いなぁとおもうのですが、でも、その理不尽さも、家族とその家が隣人にも見えているからこそのことだと思うのです。

    その状況が崩れていく後半は圧巻でした。
    息子の引きこもりを快く思わない父が娘と共謀してスパルタ式の登山スクールに息子を預けようとする。そこからのドミノの倒れ方に息を呑む。塩焼きソバで母親を家から釣り出すというアイデアのチープさや、釣られかけても再び戻ってきてしまう母親の執着が凄い。
    家を訪れた校長が押し付ける時代錯誤な価値観が父親の薄っぺらなプライドを引き出し、箍をはずし、積もっていたものを噴出させる刹那の身体を絶妙に使った演技には、凄みをもった切なくなるような可笑しさがあり、校長の生徒だったという男の従順の先の抑圧された感にも目を瞠る。
    息子が登山スクールへ行くことを了承することの裏側での戻ってきて父親をぶっ殺すという感情がとてもナチュラルに感じられることにも驚愕。

    役者達も、バイアスがかかったロールを、繊細さと太さを織り交ぜながら演じ上げていきます。息子がいなくなった状況できっぱりと離婚を決意する母親の決断にも、父親の当惑にも観る側を納得させうる構図があって。娘と夫の関係性も、隣人のある意味の変わらなさや揺るがなさも、しっかりと足を踏ん張ってそこにある。
    そこには、笑えなさを突き抜けてしまう、行き場のなさが残って。

    終演間近の吹きすさぶ風の音に「荒野の家」というタイトルを思い出し、なるほどなぁと思う。
    かくて家族が崩れたあとの娘を見ながら、デフォルメされた舞台の状況の不思議な現実味に捉えられる。
    なにか、とてつもない、でもありふれた物語を観たような感覚から暫く抜け出すことができませんでした。

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    2014/02/18 17:12

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