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籠島 丈一郎は音大で音楽史を学んだベートーベンの研究家、妻は作曲家を目指していたが、卒業後、直ぐに結婚、音楽の道は諦めた。二人とも、実家が決して裕福ではなかったので、無理をして音大に通ったクチである。
因みに、音大など芸術関係に進む人達の実家は、裕福な家庭が多い。ピアノが自宅にあるのは、当然として、レッスンに個人教授を雇う。ピアノもスタンドではなくグランドピアノ、音が漏れる関係で練習室には、特別の防音装備が施してある。グランドピアノを置くスペースだけでも、都心部であれば、下手をすると1平方メートル当たり億単位の地価である。
少し、付け加えておくならば、このような環境でレッスンを受けながら育ち、実際に現在作曲家をしている友人が語ってくれたことである。仮にAさんとしておこう。彼女が、或る時、音大の友人と一緒に旅行にでたのだが、ホテルの近くにあった山間の展望台のような所で寛いでいた時、彼女の友人が言った「あら、救急車かしら?」その時、自分の友人Aには、その音が聞こえなかった。プロの音楽家を目指していた彼女にとってこのことは、聞こえる友人を殺したい、とまで思いつめさせる事件であった、という。無論、その時、どんな位置に居て、耳はどの方向を向いていたか等、条件を考えることはできたであろう。友人は、頗るつきで頭の良い女性なので落ち着けば無論、その程度のことを考えることができる。然し、そんな事実より早く、彼女の心に浮かんだのは、殺したいほど憎い、という嫉妬の感情であったのだ。音楽家にとっての耳とはそれほどのものである。(寝不足で書いているので後ほど手直しの可能性あり)