ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました! 公演情報 おぼんろ「ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ジョウキゲンの孤独
    “ゆる~い感じでやってます”と自称する劇団もある中で、
    観客動員を明確な数字で目指すハングリーな姿勢は新鮮であり賭けでもある。
    作品に自信があるから何としても観に来て欲しい、そのためには何が必要か
    考え抜いた末に出来ることは全てやった、それがビシバシ伝わってくる公演である。
    観客動員2718人、行くんじゃないか?行くでしょ、行けー!という気持ちにさせる。
    もう一度行けたら、次は末原さんのラストの慟哭を間近で感じたい。

    ネタバレBOX

    日暮里d倉庫がどんな劇場だったか、一瞬思い出せないような景観だった。
    いつも入口は2階のはずだが、正面1階に入口、入るともうそこは客席であり舞台だった。
    奥の階段状になった席に座る。
    「ゴベリンドンの沼」の廃工場で見たような
    段ボールやペットボトル、ボロ布を使ったゴミアートが下がっている。
    温かい色のランプもぶら下がっている。
    役者達がリラックスした表情で客に声をかけ席を勧め、ぷちぷちでくるんだ座布団を配る。
    いつものおぼんろの雰囲気だ。

    主宰の末原さんが役者の紹介をしてから物語は始まる。
    ビョードロというのは、血液からウイルスを作り出すことが出来る一族のことだ。
    一世を風靡した後、あまりに危険だということで抹殺された歴史を持つ。
    たまたま村から外へ出ていて2人のビョードロが生き残っていた。
    ひとりはタクモ(末原拓馬)、もう一人はユスカ(林勇輔)で、
    ユスカは人間とビョードロとのハーフだ。
    彼らは人間のリペン(高橋倫平)と友達になるが
    リペンの父ジュペン(さひがしジュンペイ)は、実はユスカの父でもあった。

    夢見ていた父と出会い、ユスカは父に認められたい一心で彼の危険な頼みを引き受ける。
    “もう一度クグル(ウイルス)を作ってくれないか”
    ユスカとタクモは最強の細菌兵器“ジョウキゲン”(わかばやしめぐみ)を造り出すが
    軍にジョウキゲンを提供して成功したいジュペンは次第に本性を現す。
    ユスカの哀しい運命、自分のした事を悟ったリペンの行動、
    そしてタクモの悲壮な決意と、コントロール不能なまでに強くなってしまった
    ジョウキゲンの行く末は…。

    この公演で一時も目を離せないのはジョウキゲンを演じるわかばやしめぐみさんだ。
    登場の場面から、その天真爛漫なキャラクターが観る者の心をわしづかみにする。
    末原拓馬さんの創り出したこの主人公は
    ゴベリンドン同様、“存在の矛盾に苦悩する”キャラクターであり
    その陰影の深さが実に魅力的だ。
    わかばやしさんは、隙のないテンションでありながら台詞にメリハリがあり、
    タクモの喜ぶ顔が見たくて命令に従いあちこちに赴きながら、
    次第に疑問を抱くようになる繊細な変化を見事に表現している。
    可愛くてひたむきで強くてひとりぽっちで哀しい。
    ジョウキゲン、これはもうわかばやしさんの当り役だろう。

    脇を固める人物がまたハマっている。
    小狡いジュペンの二面性を鮮やかに演じ分けるさひがしジュンペイさん、
    温かい言葉を口にしながらも巧みにウソ臭さを漂わせる台詞が上手い。
    “最後の良心”ともいうべきリペンを演じる高橋倫平さん、
    知ってしまった悲しみに打ちひしがれながら責任をとると宣言するところ
    きれいな声が少年役にぴったりだし台詞に説得力がある。
    今回初めて林勇輔さんを拝見したが
    その声と立ち姿、動きの美しさに魅了された。
    妖精のような容姿が哀しみをいっそう際立たせる。

    役者たちが縦横無尽に走り回ると風が起き、傍らの段ボールが揺れる。
    ゴミアートが単なる苦肉の策やテイストの表現だけでなく
    ぶつかっても安全な極めて機能的なセットだということがわかる。

    おぼんろの公演を観る度に感心するのは、プロのチームワークだ。
    今回もフライヤー、美術、音楽、衣装、照明と一つひとつが充実して素晴らしい。
    おぼんろの世界観を共有した上で、それぞれがプロの仕事をしている。
    特に今回は照明と音楽の素晴らしさに圧倒された。
    そして衣装、シンボリックなジョウキゲンの衣装といったら!

    この舞台、コンパクトにして全国ツアーすればいいのに。
    関東一円、あちこちの小劇場でやってもいいし
    学校、体育館、公民館、どこでもできそうな気がするのは素人考えかしら?

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    2013/06/06 13:00

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