月の岬 公演情報 SPIRAL MOON「月の岬」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★


     詩的なシナリオに見合った質の高い、演出、演技。舞台美術や小道具に至るまでの物が、多くを語る。緻密で奥行きのある優れた作品。舞台上で微妙な情緒を表現するのに用いられるスモークの焚き方、照明も絶妙。

    ネタバレBOX

     オープニング、下手奥から登場した長女は、襖を開け、直ぐ奥に消えてしまう。間もなくチーンと仏壇にまいる様子を伝える音が聞こえてくる。
     一瞬、存在した者が、非在の相へ転位すると、短い間を置いて、音という位相で存在を露わにする見事さ。観客は、先ず、この手際に驚かされる。
     舞台美術も単に手が込んでいるというより、気の利いた使い方をされている。舞台正面にちゃぶ台を置いた居間があり、ここで、話が展開するのだが、この部屋の手前、観客席側に濡れ縁があり、上がり框には、靴脱ぎ石が置かれているのだが、この石の上に置かれる履き物の位置や履き物同志の距離などによって、舞台上の登場人物の親疎まで照応して表現されている。無論、靴脱ぎ石に載る履き物の数は限られているから、それ以外の場所に置かれた時には、履き物石の上の履き物とそれ以外の場所の履き物との関係を見れば良い。
     シナリオは、基本的に長崎辺りの九州弁。舞台は、フェリーで渡る大島という離島である。この島には満潮になると島からも切り離されてしまう京が崎というエリアがあるが、大潮の時は殊に潮流も激しく、流れに浚われ、行方不明になる者も後を絶たない。悲恋の末に波に浚われた美姫の伝説もある。更には、この海で命を落とした者達の霊が、ここで泳ぐ者を、海の底に引きずり込むという話もまことしやかに語られ続けているのである。
     海と月光に照り映える水面の美しさばかりが、無上の詩情を誘うばかりの微妙繊細な、而も一旦変化すれば人の命などひとたまりもないような荒々しさを秘めた底知れぬたゆたいを背景に恋の闇が息づく。
     男と女はかつて恋仲であった。その恋は、駈け落ちをする寸前迄、思い詰める程のものであった。而も、すんでの所で女は、自らの生活を選び、男は単身東京へ渡って、事業を立ち上げたものの、経済の失墜の煽りを受けて倒産。妻子を捨て、夜逃げをして故郷に舞い戻っていた。連日のように男は女に迫った。然し、女は「むかしのことは忘れた」と答える。「帰って下さい」とも。「迷惑です」とも。結婚した弟夫婦も巻き込んで、執拗に姉に迫る男を退散させるが、満月の晩、姉は家に戻らない。弟はきっと妹夫婦の面倒を見ている義父の見舞いにでも行っているのだろうと高を括っていたが。駐在が、姉らしい人物を見た、という証人まで連れて訪ねて来たのを見て、漸く己の不明を悟り崩折れる。
     実は、前兆があったのだ。弟の結婚を知って、付き合いを始めた女生徒が居たのである。彼女は、デートで付き合い始めた彼と共に海に行った。其処で初めてディープキスをする、そのことで妊娠したのではないか、とそれとなく匂わしたのだが、信夫はその意味する所を捉えきれていなかった。脅迫めいた電話が入ったり、学校の仕事を終えて帰り掛けに何者か数人に襲われたりということがあった。これらの事実を関連付けて考えることが出来ない。劇中、弟のキャラはずっとこのようなものとして描かれている。信夫の妻は流産した。姉の失踪する前から彼女は10日間程、家で療養している。療養中に満月は来た。一際大きく、波のざわめきが聞こえる。信夫に電話が入る。高校生カップルの彼からだ。彼女は自死したらしい。靴脱ぎ石の横の大きな水瓶に映り込む満月の怜悧な光を浴び信夫はがくりと膝を折る。或いは姉の失踪と死、女子高生が、自分に憧れていたことに気付きでもしたかのように。己の想像力の欠如に今更。

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    2013/06/01 11:49

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