何度もすみません 公演情報 MacGuffins「何度もすみません」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    切なさ
     ビックリすると過去に戻ってしまう特異な「体質」の為、志村は人生で最も肝要なこと、即ち、恋愛や仕事に何時も怯えていなければならなかった。いつ何時、どの過去に飛んでしまうか、それが分からない以上、恋をしても、愛すれば愛する程、相手に対して責任を負い切れない自分の惨めさがつのるだけなのである。仕事でも同じだ。生涯を賭けて打ち込みたいと思ってもチームワークを組むような仕事は基本的にできないのだ。ハッキリしていることは、びっくりしてしまえば、確実に過去へ戻り、積み上げて来た物・事は、瓦解してしまうこと。

    ネタバレBOX

     とまあ、こんな状況に置かれた彼は、小学校のバレンタインデーに同級生の女の子、大野から、チョコを貰い、告白されて、過去へ初めて飛んだ。その後、類似の例が何度も起こり、その度に飛ぶ距離が異なるので、29歳になった今では、在る程度、超える時間を制御できるまでになっているが、シジフォスのような精神力もなく、この苦役に耐えるのは並大抵のことではないのも事実である。そんな志村にも心から慕う女子は居た。高校時代の同級生、篠原だ。同じ図書委員で、よく一緒に居る。下校も一緒のことが多い。篠原も、志村を嫌っては居ないようなのだが、どうも上手く思いを告げられない。そのうち、二人は、それ以上の関係になることなく卒業し、志村は、引き籠るようになっていたが、ギャラ2000万円というアルバイトに出会い、これを始める。仕事の内容はクイズ戦士、但し条件がある。絶対に文句を言わないこと。ギャラ以外の仕事の条件は、24時間いつでも出された質問に応えることだ。ギャラが年俸なのかどうかについての説明はなかった。
     折も折、偶然が、二人を引き合わせた。然し、二人のデートは、質問によって邪魔されたばかりか、彼女に連絡が入って、尻切れトンボのような別れ方をしてしまう。その後、そんな別れ方になってしまったことを詫びる電話が、篠原から入り、二人は再びデートすることになるが、彼女の都合と、小学校時代に告られた女の子、大野とのデート日時が重なってドタバタが演じられる。この中で、クイズ戦士のギャラは何処から出ているのかも明らかになってゆく。クイズ戦士とされた者は24時間監視体制下に置かれ、一挙手一投足をモニターされており、面白い場面は放送されていたのである。TV局の新コンセプト番組の出演者だったわけだが、志村本人はTVを全然見ないので、そんなことが起こっていようとは夢にも思っていなかった。
     つまり、深読みとは言わない迄も、このシナリオに内包されている意味として、篠原と志村が10年以上も経って会ったのは、偶然では無く、TV局と関連スタッフによる仕掛けだった。無論、当事者二人は知らぬことであった、が。
     何れにせよ、志村を挟んだ三角関係に近いものになってしまったドタバタのせいで、女性二人と志村の関係は壊れてしまう。思春期から恋する若者の世代に至る演技は、三角関係を演じた三人ともに、切なさを出していたが、特に志村役、篠原役は痛切な内容も含めて人々の心の底に眠る自分自身の経験を思い出させるに足るものであった。何れにせよ、このドタバタの中で、志村にこのアルバイトを紹介してくれた小学校時代からの友人であり、現在では篠原の婚約者であり、且つ、TV局ともつるんでいるらしい藤川との関係を変えるべく、志村は過去に旅立ち、志村と篠原の関係に割って入った藤川との関係を変える。
     無論、この結果、物語はハッピーエンドを迎えるのだが、篠原が、志村と同じ、時を遡る人であったことが明かされるのが妙味だ。
    そうなると、最初に志村が、思いを告げようとした時、「ごめんなさい」と言った篠原の科白は、決して、志村を拒否したのではなく、その頃、既に志村を愛していたからとも読み替えられる。
     蛇足:物理学を修めた人が観たら、物理的に在り得ないような時間論のミスはあるが、その辺り、映像と実演を巧みに用い、イメージとして見事に昇華していることで勘弁して欲しい。殊に、自分の意思で過去に戻ることを決めた志村が、時間を遡るシーンでのモノクロ映像と演技のコラボは秀逸なのだ。

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    2013/05/25 23:24

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