縛驟雨(ばくしゅうう) 公演情報 劇団 背傳館「縛驟雨(ばくしゅうう)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    この国のムラ
     日本的共同体の特質が良く出た作品だ。殺陣も上手く、役者陣も熱演している。

    ネタバレBOX

      彗星が、地球に近づく周期というものがある。有名なハレー彗星の周期は、約76年。前回は1986年であった。この物語は、この彗星の周期に連動している。舞台は、1986年と1910年の間を揺れ動き乍ら、日本近代と村を問うのである。
     最近でこそ、ニュースで扱われることも少なくなったが、狐憑き、と呼ばれる現象がある。これを払うと称して、憑かれた者の身体を叩き、殺してしまう、などという悲劇も各地で起こって来た。更に、“源氏物語”などを読めば、魑魅魍魎の類を為政者が恐れ、難を避ける為に現在では信じられないような様々な手を打っていたことにも思い当たる。陰陽師が力を持つ背景にあったのも、こうした訳のわからない“もの・こと”に対する恐れからである。普段から、人々の生活の背景にこのような定かならぬ不安があれば、きっかけ一つで、人々は簡単に暴走する。
     1910年、ハレー彗星が、地球に接近した際、人々は、“彗星から有毒ガスが流れて、生き物は滅ぶ”だの、“彗星の重力によって、地球上の大気が吸い寄せられ、結果、我々は酸欠で死亡してしまう”だのと根も葉もない噂が飛び交った。物語では、詐欺師がこういったデマを流したことになっている。何れにせよ、恐れた人々は、隣村との共同幻想にあった人の生き血を吸う鬼だと噂の美しく若い娘を、荒ぶる神、スサノオノミコトの贄として差し出し、以て村落に結界を張ろう、と企てる。音頭を執ったのは村の神官である。彼は、身近の者に、捕えた若い女の番を命じる。若い女を任された若者は、この女に恋をした為、一切、手荒な真似はせず、彼に縄をうたれると幻覚、幻聴に襲われることもなく安堵する、という娘を日毎縛める。だが、若者は、利用されていた。村人が、彼を追い払っては、娘をレイプしていたのである。その中には、神官も含まれていた。また、この若者の友人たちも。終に、彼女が贄として捧げられようという日、若者は、女を救いだし、村を逃れようとするが、娘は既に殺されており、若者も見付かって、捧げものを置いた建物に縛り付けられたまま火を放たれて悶死する。
     76年後、この村の若者の所に一人の女が現れ、若者の部屋に居着いた。若者は、毎日、女に縄を掛ける。過疎に襲われ、若い女など殆どいないこの村の若者達は、新たにやって来た女に懸想し、関係が複雑化する。時巡って、ハレー彗星の周期年、76年前に悶死した若者の怨念が、今果たされようとするが。
     内容は、ざっと以上のような作品だが、主張は、最初に書いたように日本の共同体の持ついぎたなさ、とそれが今も全然変わっていない、ということである。今更、原子力村の例を挙げる迄もあるまい。

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    2013/05/21 11:49

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