斜い人 (はすいひと) 公演情報 ナイスコンプレックス「斜い人 (はすいひと)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    外国との比較も具体的に取り入れたら
     上演前、客席にはピッ、ピッ、ピッっという電子音が鳴り続けている。
     「銀河鉄道の夜」をベースに引用しながら捨て子問題を扱った作品だが、最近の作品なら乳幼児遺棄に関して「コインロッカーベイビーズ」を思い出さない人は居まい。

    ネタバレBOX

     堕胎されるかも知れぬ危機感を孕み乍ら、原始海洋の成分に似た組成の羊水に漂う胎児の母との絆を、海鳴りにも波音にも似た心音を表す心電図の電子音に仮託して表現した。深読みすれば「ドグラマグラ」からの借用も感じる。
     長い間、作家があたためてきたテーマだとか。取材もしっかりしているのだろう。誰にも言えない悩みを抱えている女性からの相談に応える為に設置されたSOS救援電話を24時間体制で支えるスタッフの覚悟を語る言葉にはほろりとさせるものがあるし、相談の場面での科白は事実だけが持つ重みとリアリティーを獲得している。
     だが、この「国」の腐りきった政治、司法、報道、官僚、御用インテリ等々の人権無視、人命軽視の在り様を、いくら似て非なる状態や遅々たる歩みで示しても、批判の矛先と劇的効果は弱い物に留まろう。それは、この方法ではメタレベルの訴求力が弱いからである。寧ろ、折角、ドイツから、この制度を学んでいるのだから、ヨーロッパ諸国の遥かに進んだ人権意識や人命尊重とフランクなメンタリティーの具体的事例を、登場したジャーナリストに語らせても良かったのではないか、と考える。この方が、ジャーナリストが初代・公式捨て子であったにしても、記者のキャラクターにより深い陰影が加わるだろうし、ドラマツルギーの強度も上がるのではないだろうか? その上で、今回上演されたように、この「国」の不甲斐ない遣り口を延々と続けたら、アイロニーとして面白いのではあるまいか? 
     また、山田など特別切符を持つ役をもっと掘り下げる必要も感じる。作家は、真に宮澤 賢治を超える努力をして貰いたい。
     他方、理屈で諸状況に対応しない・できないタイプの人々が描かれていたことにも興味を覚えた。態度表明ができない人は、実際に居る。そのようなタイプを表す伏線として、「笑点」のお題の場面で、件の女性役を演じた女優は、一切、応えずに通した点も面白い。但し、この世で貧乏くじを引くのはこのような人々ではないか、という気がするのも事実である。色々な意味で考えさせられた。

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    2013/05/05 03:34

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