淡仙女 公演情報 あやめ十八番「淡仙女」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    神様に捧げられし物語
    ストリップ小屋を模した円形舞台から続く鳥居への参道、頭上の提灯。結界が張られた幻想世界にすべて赤で統一されたそれらが妖しく浮かぶ舞台での芝居はそれはそれは妖艶で、観る度に観客を蠱惑すると共に鋭い痛みを以て様々な角度から身体を抉り取る、しかしどこか甘やかな陶酔感をもたらしてくれる類稀なる情感的な作品でした。
    私がここに書ける感想は、今感じている思いの20%程度です。抱えている数々の琴線に悉く触れてくるので、残り80%の表に出せない感情達は、慟哭の中、大切な人だけに捧げたいと思っています。

    ネタバレBOX

    血の繋がらない兄妹を軸に繰り広げられる、枠組みは至ってシンプルな家族の物語。しかし細やかな層の厚みを徐々に増して温かく心豊かに描かれる感情の表現は、作・演出の堀越涼さんの人間としての豊かさを如実に顕していて。

    「水町鈴です」と幼い声の自己紹介で始まった新しい家族、母の元夫や団子屋の従業員の親子。誰もが家族を慈しみ、深い悔恨と情とで生きる姿を観ていると、とめどなく涙が溢れてきてしまい。人間性善説に基づく創作は、慟哭の中にもやはり観る人を幸せにしてくれるのだなと実感。

    アコースティックギターで引き語られる昭和のナンバー、祭囃子の笛太鼓、奉納の舞い等、物語を彩る和の演出が見目麗しく耳にも優しく。ノスタルジーに浸るとともに、自然に自らの心に宿る誰かを思い出さずにはいられません。

    中でも、観ていて叫びたいほどの衝動に駆られたのは、鈴の元恋人である夕子の存在。突然姿を消した理由は「書かなくていい」と演出家役の指示。そこに在るシーンは、のちに同じ演出家に「お前は全然分かってない」と言われる鈴の兄・ヒロが語る鈴の思いを推測する独白にも通じて。

    それは、脚本を書いた堀越さんの自戒でもあると私には感じられました。どんなに人を大切に思い、理解を深めようとしたところで。その真実には辿り着けない、それは重々承知だけれど。・・・それでも、人を理解したい。大切な人が孤独の悲しみから救われて、神様のもとで心安らげる日を願ってやまない、と。そんな堀越さんの大きな大きな愛が込められた舞台なのだと分かったとき、とつてもなく胸が熱くなり。

    夕子が傍にいない現実と向かい合って泣き叫ぶ鈴の姿から、鈴を取り巻く家族や元恋人の愛や、この舞台に関わった座員達のこの芝居への思いまでが痛いほど伝わってきて私も号泣。初日から千秋楽まで止むことのない胸の痛みを感じながら、慟哭の中にも暖かな幸せを感じられた素敵な素敵な舞台でした。


    ユニットとして初の長編ながら驚くべき才能を発揮した作演の堀越さんは、役者としてもこれでもかというほど魅力を見せつけてくれて。女性物のエプロンを一つ着けただけで母親としての人生を、実に繊細にしなやかに、時にはコミカルに愛らしく体現してくれました。

    そして堀越さんの思想を一身に背負った笹木皓太くん。血の繋がらない妹を、兄として、そして一人の男性として慈しみの目で見つめる演技が本当に素晴らしかったです。あんなに優しい眼差しで舞台の上に立っている人を見るのは初めてというほど。ホームのあんかけフラミンゴでの、命懸けで魅せる生命力もさることながら、こんなにも繊細な感情表現を見せてくれるとは。まだ若干21歳、恐るべき才能。

    美斉津恵友くんは声の表現力が素晴らしく、厳かな奉納の声から演出家としての緊張感に満ちた声まで、その振り幅はさすが花組芝居の座員、と驚嘆。終盤の「・・・いいですねぇ。」の台詞は、真面目そうなお顔なのにあんなにいやらしい声を出せるんだ、となんだかゾクゾクしました。笑

    長井短ちゃん。今でももちろん美しいですが、20歳を過ぎたら恐ろしいほどその美貌が研ぎ澄まされるのだろうな、と。いい意味で伸び代や可能性を沢山感じるのでこれからが楽しみ。

    堤千穂さんは流石の存在感。仙女の舞は息を飲むほど美しく、芯の通った京子の演技は今までに観た千穂さんの演技の中で最も素敵だと感じました。

    大森茉利子さん。ただただ、慟哭。何も告げずに鈴のもとを去った夕子の思いは計り知れず、演じている彼女自身がどこまで感情を定めているかも想像がつかなくて。そんな余白も独特の包容力を以て、観ているこちらの心まで抱きしめてくれるかのように表現してくれて。私の一番の泣き所であると共に、愛しい愛しい存在でした。

    岡本篤さん。ズルい 笑

    他の役者さん達もみな実力派揃いで、演劇としてのクオリティを存分に楽しませていただきました。


    ひとつだけ欲を言えば、夏枝が貴夫に別れを告げるシーン、そして大木と妻が別れるシーンは、メインどころのエピソードではないにしても別れを決めるまでがちょっとあっさりに見えて、そこだけ不自然に思えてしまいました。どちらの夫婦も子供がいたことですし、もうちょっとだけ妻側に葛藤の色が欲しかったかな、と。その辺り、いかに堀越さんが幸せな環境で育ったかを感じさせられたりします。

    これから堀越さんが人生を歩む中で、どのようにその人間の表現が厚みを増し、どのような変化を見せてくれるかと思うと、あやめ十八番というユニットの将来が楽しみでなりません。ずっと愛せますように、もっともっと素敵になりますようにと、心から願わずにはいられません。またの公演を熱望しています。

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    2013/04/23 22:22

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