平田オリザ・演劇展vol.3 公演情報 青年団「平田オリザ・演劇展vol.3」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「走りながら眠れ」
    演劇展3本目はアナキスト大杉栄と伊藤野枝の最期の数カ月を淡々と描いた作品。
    静かな会話によってつづられる一見平凡な日常が
    この直後に撲殺されるというあまりにも劇的な二人の運命を強烈に照らし出す。

    ネタバレBOX

    ファーブル昆虫記を翻訳したり、フランスへ行ってきたりと
    まるでお洒落なインテリ夫婦のようだが
    台詞にもあるように、栄は女に刺され、
    野枝は三角どころか四角関係に勝利し、
    二人は常に監視されながら生活している。
    ウイットに富んだ会話から、それらの現実を
    軽々と乗り越えて来たように見えるが
    まさに“走りながら眠る”ような人生だったはず。

    大杉栄を演じた古屋隆太さんは写真の栄に面影が似ていて
    洗練された、尖ったアナキストにぴったりだと思う。
    伊藤野枝役の能島瑞穂さん、お腹の大きい野枝の肝の座った感じが良い。
    おおらかで、向上心にあふれ、好奇心旺盛。
    冒頭、フランスから強制送還されて帰宅した栄を
    お腹の大きい野枝が無言で迎えるシーン、
    言葉はないが、その視線に“崖っぷちの同志”としての切なさがあった。
    普通の暮らしが出来ない二人の、
    寄り添わずにいられない絆を感じさせて秀逸。

    まもなく起こる関東大震災を予言するかのような栄の台詞があったが
    この後二人はそのどさくさの中、凶暴な力によって撲殺され
    井戸に放り込まれるのである。

    アナキストたちの思想を支える日常生活が意外にポジティブシンキングで、
    それだけに壮絶な最期を遂げることが分かって観ている私たちには
    非常に痛ましく、時代の失敗を恨めしく思わずにいられない。
    今また、似たような匂いが立ち込めたりしなければ良いなと思う。

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    2013/04/23 04:18

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