後ろの正面だあれ! 公演情報 椿組「後ろの正面だあれ!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★


     この公演にも亜空間、亜時間が成立している。開演早々、雨音を背景に座敷童子と見まごうアマノウズメが、坐って黙ったまま小さく四角い物を長い間覗き込んでいる。

    ネタバレBOX

     観客はこの時点で、長い間(ま)に込められた手管に掛かる。嫌でも応でも、想像力の総てを注ぎこまざるを得ないからである。結果、現実と異界の間に引きずり込まれる。それは、誰もが持つ幼少期の、神話的・御伽的時空の追体験だ。
     ここは、明日取り壊される家で、兄弟5人全員が集まることになっている。ところで、集まって来た兄弟が其処で発見したのは、古い写真だ。ウズメがずっと見ていた物である。観客にはウズメがずっと見え続けており、彼女の妖精的な世界は観客と共にある。亜時間・亜空間を追体験しているのであるから、当然だろう。
     一方、役者陣には、ウズメは見えない設定だ。無論、アメノウズメは日本書紀に登場する女神であるが、天の岩戸を開かせたことで、芸能の神としても祭られているのはご存じだろう。役者や演劇関係者は総て芸事に関わる者だから、ウズメは、芸能の神としても、初脚本、初演出の出し物を寿いでいると考えてよい。但し、この劇の中では、座敷童子の役も担っていると考えられる。
     何れにせよ、観客は特化された時空体験をしており、とても不思議なテイストなのだが、心地よい。友達と悪戯をし、遊び、喧嘩をしたりしつつも何時も一緒に楽しく過ごしたこのユートピアのような世界は、ウズメの過ごす時間としては非常に短いにも関わらず、子供達は大きくなり大人になってちりじりばらばらになってしまう。ウズメの寂しさはいかばかりであろうか? 何より、この充実し楽しく夢のような世界は、1964年のオリンピックを境に急激に変化して行く。日本列島改造計画が実行され、それまでの自然な河川敷や海岸は悉く失われ、しもた屋はみるみる消滅、代わりに高層ビルが林立するようになる。道路・ハイウェイの整備の名のもと、子供達の遊んだ道路が、空き地がどんどん無くなっていった。声高に叫ばれる文明批評など何一つ語られないこの作品の、鋭く激しく、根底的な批評が素晴らしい。
     また、いつも無駄を省いて本質を掴んだ舞台美術を作る加藤 ちかさん、センスの良さが光る振付のスズキ 拓郎くん、ラストの素晴らしい効果を盛り上げた諸子、自然な演技で臨んだ役者陣、シナリオ・演出も巧みである。座長の独特のリズムも、勘を得て良い。

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    2013/02/28 03:05

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