『第三世代』 公演情報 公益社団法人 国際演劇協会 日本センター「『第三世代』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    同化 異化
     流石、中津留 章仁。パレスチナ問題の本質を良く理解し、日本の演劇状況も理解した上での演出である。この作品はヨーロッパ各地とイスラエルで上演されてきたが、この時の参加俳優は、総て実名。作者ヤエル・ロネンは第三世代に属するイスラエルのユダヤ人。夫はパレスチナ人である。ヤエル自身は、「プロント」を書くまで、政治的には、メディアの流す情報を信じていれば良いと考えていた。殆ど、ノンポリのスタンスであった。が、イスラエルの第三世代の側から描いた作品(プロント)を執筆するため、占領と戦争、コントロールがいかなる意味を持つのか、リサーチを行った。結果、自分が学校で教えられたことと、事実が異なることに気付き、この作品に到達したわけだ。曰く、「一度目を開いてしまえば、戻れない」。作家自体が本物である。
     ただ、ヨーロッパ、イスラエルの公演では、この作品(第三世代)は、英語、ドイツ語、イディッシュ、ヘブライ語、アラビア語の五ヶ国語を用いて演じられた。当たり障りのない内容であれば英語を用い、ちょっと憚られる表現については、それぞれの言語で演じられるという形を取ったのである。こうすることによって、俳優たちは、自らの本音が外在化され、異化されることによって、自らを茶化し観客に考えさせるという異化効果を狙い得たのである。
     然し、日本での上演は、日本のガラパゴス的特性を考慮し、たった5日間しかない稽古時間を勘案して反対の方法、即ち同化で作品を創った。中津留は、リーディング公演であるにも関わらず、俳優たちに科白を入れることを命じ、俳優たちも食事を抜くような状態で、科白を総て覚え込んで、原作に仕組まれた様々な状況、関係、人間の尊厳と差別、暴力を恣に振い、嘘のプロパガンダで隠蔽する強者と、えるほかない弱者の内実を内面化することに成功した。無論、これだけではない。彼らにこのようなことを強いる原因を作ったヨーロッパ人をも巻き込んで八方塞がりの状態を正確に描いたのだ。
     異化効果を狙える文化圏とは異なる文化圏で、この作品を演出する重責を担った中津留の演出の完成度の高さを表す例をもう一つだけ書いておこう。
     パレスチナ人俳優の一人が、ドイツ人から椅子を貸してくれ、と言われて自らの椅子を取られ、その後、またすぐにイスラエル人からも椅子を要求されて、開演中90%以上の時間を床に直接座らなければならない状態に置かれるのだが、これもパレスチナ人が置かれている被差別状況の寓意である。分かる観客には分かるような形でさりげなく、細かい点まで配慮した演出が為されている。見事という他ないではないか。役者陣が、この演出に応え、見事に本質を内面化したことは既に書いたfが、今一度、彼らの労をねぎらう為に、その事実を此処に記しておく。

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    2012/12/30 23:17

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