弔いの鐘は祝祭(カーニバル)の如く 公演情報 天幕旅団「弔いの鐘は祝祭(カーニバル)の如く」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    クリスマスキャロル エピソード 1
    この劇団の特徴である美しい舞いのような動き、
    ストップモーションとなめらかな動きの組み合わせ、
    何かを象徴する時の静かな動作、明確な目的を持った移動と待機時間など
    演劇的表現にはまだまだ無限の可能性があるのだと思い知らせてくれる。
    この“絵のように美しい”舞台が跡形も無く消えてしまうことが惜しくなる。
    たとえそれがまさに天幕旅団の目指すところであったとしても・・・。

    ネタバレBOX

    円形の舞台の周囲には高さの違うポールが10本程立っていて
    その1本ずつにカラフルなチェックのシャツやコートのようなものがかけられている。
    冬物らしくネルシャツのようだ。
    舞台上には1本だけ奥の方にポールが立っていて、長いコートと帽子がかかっている。

    やがて四方から5人の役者が登場、
    それぞれかかっているシャツやコートを羽織って歩き始める。
    金貸しのスクルージ(菊川仁史)があの長いコートと帽子を身につけると
    人々は丁寧にお辞儀をし、挨拶をして通り過ぎる。

    スクルージは取り立てが厳しい。
    今月3回目の遅刻をした従業員のボブ(佐々木豊)に“クビ”をちらつかせたりする。
    年に一度のクリスマス休暇をしぶしぶボブに許可したその夜、
    彼の前に“ゴースト”と名乗る少年(加藤晃子)が現れて
    彼に過去・現在・未来を再現して見せる。
    それは7年前の、親友であり共同経営者でもあったマーレイ(渡辺望)の死にまつわる
    後悔と懺悔の旅路の始まりだった・・・。

    あのクリスマスキャロルが実はこういう話だったのかと思うほど
    自然に本歌取りしていることにまず驚かされる。
    情け深かったスクルージが守銭奴と化す理由が素晴らしく良く出来ている。
    これは「クリスマスキャロル エピソード1」だ。
    あまりの自然な流れに原作を読んでいても混乱しそうなほどの説得力。

    マリアの衣装などエッジの効いたロンドンファッションのようにちょっと前衛的だし
    チェックを多用したシャツや、不規則な汚しのような柄のジャケット、
    それらを人々から奪って何枚も重ね着し、着ぶくれていくスクルージ、
    やがて1枚ずつはぎとられ全てを失ってひとり死んでいくスクルージ、
    時折掌でコインを小さく投げ上げてチャリ、チャリ、という音を立てるその効果音、
    全てが象徴的で美しく、雄弁でありながら厳選されていて無駄がない。

    無駄がないと言えば役者の動きも整然としてまさに無駄がない。
    舞台をおりて静かに椅子にかけている時も視線は舞台にひたと置かれたままだ。
    わずかな小道具である小さなテーブル2つと椅子2脚、
    それらが軽々と空を舞うように動き、舞台から消え、
    事務所の仕事机として、貧しい家庭の食卓として再び登場する。
    それらを流れるような動作で正確に行い、場面転換をし、効果音を入れ、
    ポールを移動させて時には階段の手すりに、時にはドアにと変身させる。
    ポールにシャツをひっかけ、それを外し、スクルージに奪われ奪い返し・・・。
    舞台上で台詞を言う以外に、これだけの動きと流れをたたき込むのは
    並大抵のことではないだろうと思う。
    常に先の段取りを考えながら目前の台詞に集中する、
    当然のこととはいえ素晴らしい。

    スクルージ役の菊池さん、最後にゴーストがプレゼントした
    死んだマーレイとの再会の場面が秀逸。
    自分の死に責任を感じ、冷徹な金貸しとして生きることを選んだスクルージに
    「照れくさいから一度しか言わない、ありがとう」というマーレイに
    「え?」と大きく聞き返してもう一度言わせようとするが
    「さよなら」とマーレイは背を向ける。
    スクルージの目から涙があふれて、私はもっと泣いていた。

    マーレイを演じた渡辺望さん、作・演出にも突出した才能を感じるけれど
    マーレイの根っからドライな金銭感覚・価値観を迷いなく演じて見ごたえがあった。

    ゴーストの加藤晃子さん、相変わらず完璧な少年っぷり。
    潔癖で一途な少年の優しい気持ちが哀しいほど伝わってくる。
    前公演の歪んだ少年も素晴らしかったが、このひたむきさもこの人ならではの存在感。

    ボブ役の佐々木豊さん、貧しくても幸せな家庭を築いている男の
    優しさと切羽詰まった生活感がとても良く出ていた。
    守銭奴と化したスクルージに対して、昔の彼を彷彿とさせるキャラだ。

    マリア役の渡辺実希さん、金を借りに来るたびに
    暮らしの追い込まれ方が深刻になっていく様が手に取るようにわかる
    台詞の変化がとても良かったと思う。
    哀れな死に方に説得力が生まれた。

    天幕旅団は育ちの良さを感じさせる品の良い劇団だと思う。
    台詞の言葉もきれいで崩れていない。
    きちんと伝えたい、大事に伝えたいという気持ちに満ちている。
    ぽーんと投げて自由に解釈してね、というのとは違う“手塩にかけた”創り方だ。
    いろんなタイプがあって良いと思うが、天幕旅団はそういう劇団だと思う。

    当日パンフによれば、渡辺望さんは墓地を見下ろす“絶景”のアパートでこれを書いた。
    死者からのメッセージは、ある意味クリスマスにふさわしいかもしれない。
    弔いの鐘と共にこの素晴らしい作品は降りて来たのだ。
    そのアパート、神様の贈り物だと思う。

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    2012/12/24 11:27

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