肉のラブレター 公演情報 MCR「肉のラブレター」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    こんな風に死にたい
    櫻井智也さん曰く「父親がリアルにガンになった」ことから
    この題材を選んだという、病人とその周囲の物語。
    人は「死」を意識して初めて本当の意味で「生」を意識するのかもしれない。
    「死にたい」も「死にたくない」も「生きること」の裏返しだ。
    大笑いしながら一緒に考えさせられ、笑った後私はまだ考えている。

    ネタバレBOX

    会場に入ると、全体が少し照明を抑えて薄暗い。
    舞台中央少し高くなった所に置かれた自転車が夕陽のような色に浮かび上がっている。
    冒頭、北島とスズエが登場、二人乗りしながら最期の時のことをあっけらかんと語る。

    北島(北島広貴)が不治の病になった。
    櫻井医師(櫻井智也)によると「現代医学ではどうしようもない、まだ名も無い病気」らしい。
    恋人百花(百花亜希)は動揺し、いつも北島の側にいるスズエ(金沢涼恵)のことを
    問い詰めたりする。
    共通の友人堀(堀靖明)は、彼らの間で翻弄されながらもいつも側にいる。
    看護師の小川(おがわじゅんや)やスズエ達は、北島に「生きる意味」を与えようと
    何か目標を持つことを勧め、みんなで一緒にダンスをしようと張りきる。
    しかし当の北島は、みんなそれぞれ自分の為に何かをしたがっているのであって
    そのために北島の病気を利用しているに過ぎないと感じている。

    北島とスズエが共に孤児院で育ち、一緒に無茶をした仲間であるという
    強烈な体験を共有する者だけが持つ“同士”の感覚が、まず前提にある。
    スズエは彼の最期を見届ける覚悟で、恋人に出来ないことも自分なら出来ると信じている。
    百花は病人の自分に気を使うだろうから別れようという北島が理解できない。
    それはたいして好きじゃないからだろう、スズエと一緒にいたいからだろうと考える。
    医師、看護師、ダンスの先生、友人たち、
    それにストリートミュージシャンとその追っかけまで巻き込んで
    彼らは生きる意味を考え始める、北島の為だけでなく自分自身のこととして。
    そして北島の“余命”が少しずつ終わりに近づいていく・・・。

    櫻井さんが医師というスタンスがまず絶妙。
    患者やその身内の人間でなく、情も思い入れもそこそこの医師が
    ビジネスライクに、またノーテンキに新種の病名を考えたりするところが可笑しい。
    「内蔵バンバン病」って・・・(笑)
    この医師が、ダンスがヘタで歩くことしかできないくせに時々いいこと言うんだよなあ。

    堀靖明さん、見た目も説教も暑苦しい(すいません)友人堀の心の中にある
    優しさや切なさが伝わって来るその熱い語り口、ほんと隙がなくて素晴らしい。

    北島広貴さん、まるで素のような飄々とした口調で冷静さを装ってはいるが、
    実は誰かに最期まで見ていて欲しいというすがるような気持ちがにじむ。
    「このあとどうする?」と言いながらスズエと無茶した時代の回想シーンが泣かせる。
    “このあと”が無くなって行く者にとって、あの時代の輝きが哀しい。
    スズエの本心が吐露されるこの場面がとても印象的だ。

    ストリートミュージシャンの追っかけを演じた伊達香苗さん
    初日の少し硬い舞台にあって、素晴らしい滑舌と台詞回しが光っていた。
    口下手なミュージシャンに代わって歌詞を解説するところ、ほんと素晴らしかった。

    百花亜希さん、余命宣告された恋人から「別れよう」と言われる混乱ぶりがリアル。
    最後にはきちんと自分から別れを告げる潔さと誠実さが美しい。

    ダンスの先生(上田楓子)も含めて、みんな余命宣告された北島に積極的に関わろうとする。
    それが時に方向違いであっても、だんだん足が遠のく寂しさに比べたら
    北島にとってはどれほど心強いことだろう。
    面倒な病気であればあるほど、人は次第に遠ざかるものだ。
    かけるべき言葉を探してうろうろするのが苦痛だから、
    見ていられないから・・・。

    どう見ても意味の良くわからないフライヤーの写真も(踊ってるんだね)
    舞台を観終わって見れば「生きとし生ける肉体からのラブレター」のような気がして
    「こんなことするのも生きている間だけなんだなあ」と愛おしくなるから不思議だ。

    初日に観たのに体調を崩して投稿が遅くなってしまった。
    たった2,3日寝込んだだけで人は心細くなるものだ。
    死ぬ時はひとり、とかいうけれど、死に至るプロセスはひとりでいたくないと思う。
    やはり誰かに「一緒に踊ろう!」なんて言われたいなと思ったのだった。

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    2012/12/22 18:50

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