満足度★★★★★
必見の舞台
ただでさえきらきらしている才能が、深みを獲得している。設定も抜群だ。舞台上には、カウンセリングルームが設けられているが、カウンセラーの机の前の壁には、緑がかった中間色で描かれた抽象画が掛かっている。お椀型の物体が数個描かれているのだが、見ようによっては乳房ともとれる。下手壁面の前には、スライド式のガラス戸が設えられ、レースの白いカーテンが引かれているが、そこには、柔らかい光が射し込み、硝子の向こうには、青空を連想させるような優しい青が感じられる。中央に置かれた応接セットのソファ、座布団、床や壁面の色合いまで、実に調和のとれた、人を安心させる雰囲気を作っている。更に中央奥にも、具象画が1枚。こちらは暖色系の絵だ。上手が、この部屋への出入り口。総てのセットが、物語を先取りし、サポートし、役者や観客と一体になって躍動しているのである。
無論、脚本、演出、演技、舞台効果、どれをとっても相乗効果が表れる作りになっている。今回、拝見した作品は、心理サスペンスという風合いの作品だが、鹿目 由紀は、心理というものを複合と見ている。これまでの作品でも、彼女はこの問題を孕みつつ仕事をしてきた。自分が、”あおきりみかん”の作品に初めて触れたのは、3年ほど前だが、以降の作品でこの点、彼女にブレは全くない。そのような彼女の本質に根差した心、魂、肉体、身体を持つ主体を、矢張り同じように心、魂、肉体、身体を持つ他者との間にある距離(感)が、恰も人間達を操ってでもいるように作用するのである。舞台上に展開するのは、それ、つまり距離を取り巻く状況との関係で千変万化する人間である。心理学的なサスペンスなので、具体的な筋などは一切、ここでは明かさない。然し、演劇としての完成度の高さは見事という他は無い。更に、隋所に取入れられた笑いや、箍外しを観る楽しみも満載、必見の舞台である。
劇場への案内やスタッフの対応も頗る感じの良いものであった。