満足度★★★★
クリスタルと熱
中村 文則の小説「世界の果て」の舞台化である。中村と同世代の文学座同期生が中心となって旗揚げしたUNKSの演出、上村 聡史は、硬質な文体でヒトの暗部を見詰める中村の作風に興味を持っていたという。だが、演劇化に当たって、作品にエネルギーを注入し、これまで培い、経験を重ねて習慣化し殻になってしまった自分達の在り様を敢えて再検証してみようとしている。コンテンポラリーダンスの楠原 竜也を巻き込んだのもこのような理由からだと言う。
当然のことながら、ここまで自覚的に自らの立ち位置を検証し、創作エネルギーを習慣の検証に用い、解体された要素を、再度、構成することは、並大抵の仕事ではない。まして、原作のテイストは、やはり守ってのことである。
この難題に挑み、成功した舞台ということができる。洗練された演出は小道具の使い方、OHPの適切な使用法、鍛えられた身体に見合う抽象度の高い演技と話法、シンプルな作りで深さをあらわすことのできる知性の高さによって、観客のイマジネーションを掻き立てる。原作の突き放すことによって、ヒトの闇を描く手法にエネルギーを注入することに成功した質の高い舞台である。