温室 公演情報 新国立劇場「温室」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    正しい事はどこにあるのか
    ノーベル文学賞受賞劇作家にして、「不条理演劇」の大家、ピンター。

    ピンターの作品の特徴は、部分的にみると全く支離滅裂なのに
    全体でみると何故か綺麗に流れる台詞回し、全てが不確かな
    状況説明、夢幻的で不穏な舞台の雰囲気… そして痛烈な皮肉。

    本作、『温室』は、そのピンター独自の個性と魅力が最も先鋭的に
    出ている作品で、それ故演出には大変苦労されたと思います。
    演出家、役者共に健闘している、素敵で、異空間を旅するような
    感覚のお芝居を120%体験出来て本当に良かったです。

    ネタバレBOX

    今作、『温室』は療養所と思しき場所(明示はされない)で、
    収容患者の一人が死に、一人が何者かにより男子を出産
    させられたことが報告される場面から始まります。

    真紅に統一された家具が点在して置かれる他は簡素ともいえる
    舞台は客席の中央部分に設置され、丁度、観客は舞台をのぞく
    仕組みになっています。また、舞台は終始、時計回りに回り、
    時として緊迫した雰囲気をかもすかのように早くなります。

    権威を振りかざし、秩序を最大の価値と信じて疑わない所長、
    その下で、表向きは従順を装うも、その実、全く尊敬心を
    持ち合わせず、足元をすくってやろうと考える専門職員たち。

    その微妙なパワーバランスが、冒頭の事件をきっかけに一気に
    崩れ、暴力や殺意の気配が後半にかけて徐々に舞台を覆います。
    断続的に鳴り続ける不協和音の演出とあいまって、不気味とも
    いえる空間でした。

    最後の場面で、暴動を起こした収容者たちにより所長以下、
    全ての専門職員が殺され、唯一残った一人の職員が昇格して
    新しい所長になった事が報告されて、本作は終わります。
    しかし、背後関係は分からず、この職員の仕組んだことなのか
    それとも、突発的な暴動だったのか、それとも別の原因が
    あるのかは全く分かりません。ただ事実のみが淡々と語られる。

    ピンターの作品は、故に、ベケットやイヨネスコなどの
    系譜を汲む「不条理演劇」に位置付けられますが、全く
    訳が分からないのではなく、事実関係は語られなければ
    その人だけにしか分からない、そういわれているようです。

    誰かにとっての真実は、誰かにとって真実じゃない。
    やっぱりピンターの作品は最高だと思いました

    高橋一生と山中崇がすごく良かったです。両人とも、表向き
    保たれている秩序の中で、本性を現した人間の狂気をよく
    演じ切ったと思います。

    来年、深津氏が別役実(氏の作品も大好きです!!!)の『象』を
    演出すると聞いて、体温がまた上がってしまいました。
    夏なのに…。

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    2012/07/22 20:32

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