原始力~ゲシュタルト~ン・バボ! 公演情報 劇団わらく「原始力~ゲシュタルト~ン・バボ!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    恐るべき喜劇
     祈りの言葉は「元気ですか、元気ですか、元気ですか? はん!」の不気味。グロテスク、アイロニーが、パロディーと巧みなシナリオ構成にユニソンされ心地よいテンポで進む。舞台は24000年後。元気石が信仰の対象になっている時代。鬼っ子が生まれると10日以内に集落の男のうち一人が犠牲として捧げられる。元気石に元気が無くなったからだ、という理屈が成り立つ世界の話だ。

    ネタバレBOX

    そこに現れる稀人(原始人なのだが、考古学、民俗学、社会学などの研究者でもあり、旅人として、異界の世界観を持ち込む。折口 信夫の民俗学を想起させる概念だ)は、長老と住人達、その信仰と風習、住人が有り難がる元気石の謎、そして崇拝構造を解明するが、彼は更なる探求の果てに死んでしまう。その後現れたのは商人。商売の何たるかを人々に告げ、その利便性を人々に理解させ、支配欲、権力欲、金銭欲などを煽り立てる。
    喜劇的な体裁を保ったまま、単に笑いだけでなく、本質的な部分で、有り得べき我々の未来像の一つを提示し得た。そのことが、まぎれもない喜劇でありながら恐怖を感じさせるという稀有な効果を生んでいる。
     基本的に喜劇なのだが、この喜劇は怖い。その理由を挙げておこう。肝心な所で、物理的事実をベースにするような細かい配慮を払っている。例えば、何故24000年後の設定なのかは、プルトニウム239の半減期だからである。周知の如く、プルトニウムはこの地球上の自然界には存在しない。核融合を通じて初めて生じる核物質である。即ち、人工的な物質なのである。そして住民達が崇拝する元気石とは即ちプルトニウムであり、彼らの間や生活環境に生体異常が多々見られるのも無論、放射性核種の出す放射線に因る被曝の結果である。3.11以降、この国でも多くの人が核について詳しくなったので、この程度の知識は当然前提であろう。幕開きでロケットが発射される時のような轟音が轟くが、あれはこの舞台で話が展開する24000年前の核爆発である。そして、原始人とは、核爆発後に生き残った我々、ヒトの未来の姿だ。舞台上でも彼らの歴史、DNAについての話が出てくるが、長老の脱毛と喀血も無論、原爆症だ。(但し、この症状そのものは、γ線被曝の症状とも重なる。通常プルトニウムによる被曝はα線被曝である)
    作家は、この物語で描かれたような情況を、現在の我々の生活に見ている訳だ。その上で発狂せずに、知的で冷静に振る舞おうとすれば、飽くまで喜劇として成立させるしかなかろう。この作品が高いメッセージ性を持つ所以である。
    作品の中からいくつか最後に拾い上げておこうか。我々が今、この国で生きている本当の姿の一端を。長老に付き従う人物が明らかに防護服スタイルであること、本尊の入っている祠が90度傾いでしまような大地震が僅か1~2万年の間に起こっていること、一種の実験が行われているらしいことへの示唆等々、この深くグロテスクな事共が、実際、今、この国で行われている原子力村のあれやこれやであることなどは容易に察しがつく。

    0

    2012/06/02 03:55

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大