どうしても地味 公演情報 箱庭円舞曲「どうしても地味」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    人生は線香花火
    「地味」と言えば地味かもしれない。
    だがこの地味さ加減は私たちの日常そのもの、人生そのものだ。
    そしてどんな「地味」の中にも人生における“個人的に劇的な展開”が潜んでいる。
    場の転換にアイデアとセンスがあって2時間を飽きさせない舞台だった。

    ネタバレBOX

    懐かしい、ちゃぶ台がひとつ置かれただけの6畳和室が
    灯篭のある純和風の庭に面して開け放たれている。
    障子の向こうは廊下。
    この部屋が、ある時は過疎地の寺院に隣接した集会所になり、
    また線香花火ビジネスでちょっと成功した、仲間3軒それぞれの家になる。
    微妙な照明と障子を開けて入って来る人を見て誰の家かと判るという、
    このアイデが秀逸で、流れが途切れずテンポも良い。

    中国製でなく日本製の線香花火を売り出したところ人気を呼んで、
    過疎の村のビジネスには補助金も下り、順調に行っていた。
    ところが言い出しっぺの二朗(爺隠才蔵)が、突然「辞める」と言い出した。
    思いとどまらせようと必死に説得を試みる博士(小島聰)。
    せっかく軌道に乗ったというのになぜ今辞めるのか。

    やがてメンバーみんなの様々な“家庭の事情”が見え始める。
    上手くいっている夫婦なんてひとつもない。
    住職(小野哲史)ももっともらしいことを言いながらとても怪しい。
    おまけに居候だか妾だかわからない元風俗の女(笹野鈴々音)と一緒に住んでいる。

    だがぐだぐだ言って迷っているうちに自分の意志とは関係ないところで
    全てが思いがけない方向へ転がり出すこともある。

    放火によって工場は焼け、花火も全て無くなってしまった。
    「好きでやってるのか、やらなきゃならないからやってるのか、わからなくなった」
    と言っていた二朗がやっぱり自分は線香花火が好きなのだと、失ってから気付く。
    だが共に働いてきた仲間も離ればなれになって行く。 
    人々はそれぞれ何かを失って終わる。

    もう少し早く二朗がなぜ辞めたいと言い出したのか、知りたかった。
    辞める理由を引っ張りすぎて、説得する博士の言動が空回りに見える。
    反対に火事の後、それぞれがどうなったのかを、もうちょっと説明してほしかった。
    あの人その後どうなったの?とイマイチよく判らなかったのは私だけだろうか。 

    謎の元風俗嬢を演じた笹野鈴々音さんが強烈な印象を残す。
    ピュアで世間知らずのような顔をして、実は人々を操る怖い女を軽やかに演じている。
    妻から逃げて居間で寝起きする新一を演じた須貝英さん、
    気弱な反面必死な抵抗、仕事は受け身というありがちな男が超リアル。
    普通の人々の代表二朗が情けなくも共感を持てるキャラとして印象に残る。
    怪しい住職の小野哲史さん、語り口が本当に和尚さんで説得力がある。
    説法が上手いと同時に悪事も平気でする坊主がとても良かった。

    人生は線香花火のようなものかもしれない。
    小さくてささやかで、でもその中には山場も事件もあるのだ。
    ちょっと満足しては、迷ってふらふらと彷徨う・・・。
    一人ひとりが持つ線香花火にフォーカスした作品に作者の真摯な目を感じる。

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    2012/05/18 01:36

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