満足度★★★★
取材
全体的にしっかり取材をしていると感じた。然し、劇中、気懸りな科白が、死刑執行の日、被告の発した科白にあった。「助けてくれ」というものである。これが、創作なのか或いは、そう本人が言ったという証言があったのか。その辺りである。
全体的にリアルに描かれていたので、証言があったとしたら、その証言をする必然性は、刑を執行した国家の側にあったはずだと考える。そして、その証言は、おそらく事実ではない。なぜなら、この作品の主人公は、実在した人物、永山 則夫であり、彼は、民衆として生きようと決意した時期もあったのである。その可能性をつぶしたのは、他ならぬ権力機構である最高裁であり、検察庁であった。永山の持っていた可能性に連なる多くの心ある者たちの連携を恐れた国家は、彼を葬るだけでは足りなかった。殺しただけでは、永山は、人々のヒーローになりえたからである。その為に、命乞いした永山 則夫というイメージを作り、彼を貶めようとしたのではないか。評者はそのように我々の国家を見る。
この作品、少なくとも、この程度のことは考えさせるだけの深みを持っていた。高い志を評価したい。