満足度★★★★
視線の劇場
初見。内容的な前知識はほぼゼロだったけれど、評判の高さが納得できた。
面白かったのは役者同士の視線。異なるエピソードのラインにいるのに、役者同士がアイコンタクトする。それが芝居全体に不思議な吸引力をもたらしている。こういうのは初めて見た。
重厚なドラマツルギーが支配していた時代、役者の目線は客席の頭上を越えてどこか遠くに向かっていた。
静かな芝居(私はこれが苦手だったけど)が来て、その目線はなんだかわからないところをさまようようになった。静かな芝居とは、目を閉じて耳を澄まそう、という芝居だったのだから(と勝手に私が決めているだけだけど)、それも当然だろう。
この芝居の、いや、生まれつつある新しい芝居の役者たちの視線は、さまよわないし、永遠も見ない。それはたとえば仲間の役者達を(役柄と独立に)冷静に見守り、あるいはもはや「見得を切る」という圧力抜きで客席に向かうことができる。そういう獲得を、芝居は手に入れつつある。
芝居というのは昔からある古くさいものだ。新しい芝居なんていうものはない。ただ芝居が、新しい人間を獲得するのだ。
たとえばオーケストラを見たことがない人が楽器一式を与えられて、その新たな使い方を再発見する快感。
リフレインも肉体酷使もことさら新しくはない。新しいのはそういう発見に向かう精神の自由さだと思う。