満足度★★★
理解出来ないもどかしさ
政治的、思想的用語を多用してまくし立てられる会話と、複数の車が走り回る屋外ならではのスペクタルシーンが印象的な作品でした。知識不足のため表面的な部分しか理解出来ず、奥が読めたらもっと素晴らしく感じるだろうという雰囲気に満ちていました。
だだっ広い空き地に客席用のテント小屋、映像と字幕を映し出すスクリーン、移動ステージ車が設置され、その中を役者や車が動き回るダイナミックな空間の使い方が面白かったです。
役者達をカメラとマイクを携えた撮影クルーが追い掛け、ライブ映像をスクリーンに投影するという多層的な構成になっていて、中盤辺りからは車の向こう側やキャンピングカーの中など、客席から見えない場所のシーンが多くなり、同じ時間・空間にいるのにスクリーンに投影されたライブ映像を通じてしか見ることの出来ない状況がアイロニカルで興味深かったです。
政治経済や映画には疎いので引用の出典がほとんど理解は出来なかったのですが、おそらく作者も観客に全ての台詞を理解してもらおうとは思っていなくて、過剰に飛び交う情報の中にいる人々のやりようのなさを描いているように感じました。
話される膨大な台詞の量に対して字幕の文字数が少なく、かなり情報量が削られていて、複数人が話すシーンではどの台詞が誰のものか分からず、また主に演技をするエリアとスクリーンが離れていて役者を見ながら字幕を読むことが出来ず、ドイツ語が解ればなあと、もどかしく感じました。
映像を左右や上下で分割して映し出し、物がワープしているようなトリッキーなギャグ的要素を入れたり、映画の撮影シーンでは父親役を演じる女優がコントみたいな馬鹿馬鹿しいやりとりを繰り広げたりと、意外に笑いの要素が多い作品でした。
最初の方で女優がこんな所で生声で台詞を話していたら声帯が潰れるという旨をわめくシーンがあるのですが、丁度その時に上空をヘリコプターが通過して台詞が聞こえないという、狙ったかの様なハプニングがあって、笑えました。