『広島に原爆を落とす日』 公演情報 ポムカンパニー「『広島に原爆を落とす日』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ニイタカヤマノボレ
    実はつかこうへいのこの作品を読んだことはない。未読だが実に良く練られた脚本でその世界にすんなりと入れた。キャストらは皆、熱演。特に主人公・犬子恨一郎(松木円宏)の凛とした演技と重宗(あンな邦祐)の威圧感のある演技力が素晴らしかった。
    舞台セットはない。しかし衣装がちゃんとしてると全く違和感なくその情景が空想できるので充分に楽しめた。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    物語は広島への原爆投下を主題にしたフィクションだが、主人公の犬子恨一郎は強制労働として日本につれてこられた。彼は滅ぼされた朝鮮王朝の末裔だ。日本軍に所属し、日本への忠誠を誓った彼は、やがて真珠湾を奇襲し、大和を沈没するよう、追い込まれて行く。朝鮮民族の悲哀と恨みを象徴するような存在として描かれているが、結局は異邦人として利用され、最後にはアメリカにも利用されることになる。唯一の真実は恋人の百合子であるが、最後には、百合子だけが、信じられる唯一のものだったと気付かされる。そして彼は、最後の出撃に飛び立つ時に百合子に世界最強の告白をする。

    「もし私が悪魔でなく人間であるなら、必ずや原爆投下ボタンを押した指先から私のからだは腐りはじめ、私の心に巻かれた自爆装置は、四十万広島市民の呪いとうめき声によってそのスイッチが作動し、私の五臓六腑は肉片となって飛び散ることでありましょう。そして私の魂は、遥か彼方、宇宙の塵となって、けっして許されることなく幾千万年もの時を旅することでありましょう。漆黒の闇を旅する意識体の孤独を癒すものは、かつて愛されたことがあるという記憶だけなのです。かつて愛したことがあるという記憶だけなのです。その宇宙のやさしさだけが、漂う孤独な魂の唯一の光明なのであります。私は何ら恐れてはおりません。何ら恐れることはないのであります」

    いやはや、こんな告白されたなら大抵の女性はイチコロなのだ。笑

    幼き日に結婚を誓った恨一郎と百合子。太平洋戦争によって引き裂かれた二人は、その約束を守るためならどんなものでも犠牲にした。そして広島に原爆が落ちた瞬間、二人は永遠の愛で結ばれたのだ。この物語は「愛」の強さ、美しさを描いた作品だと感じるが、フィクションとはいえ、原爆投下という人類史上初めての「悪魔に近づく」暴挙を、米国が直接手を下させたのは、なんと強制労働で日本に連れてこられた朝鮮人なのだ。そのドラマチックなまでの展開の数々や衝撃のエンディングはやはり舞台向けな作品なのだ。

    つかの原文を読んでないので、松木がどのようにスパイスを加え、どの箇所を削ぎ落としたかは知る由もないが、原爆で犠牲になった人たちの霊がこの物語を貢いでいく、という設定は劇中劇のような感覚になったが、個人的にこの部分はいらないな・・と感じた。

    要するにストレートパンチでも充分にイケル舞台なのだ。公演時間2時間20分というのもちょっと長いような気がする。無駄な部分を剃り落とす作業が甘かったような気もするがそれでも充分に満足した舞台だった。

    それにしても・・あンな邦祐のふんどし姿のなんと素敵なことよ。笑
    次回も観たい。いあ、ふんどしではなくポムカンパニーの作品を!


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    2011/07/15 17:39

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