ひとがた流し 公演情報 ブルーノプロデュース「ひとがた流し」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    演劇と小説のカベ
    敢えて原作の言葉を削らずにそのまま生かす表現を選択し、小説から演劇へと表現を昇華させた演出家と、長編小説の膨大な台詞を飲み込んで体現した役者達には敬意で頭が下がります。そして何より、小説をそのまま演劇にしても耐えうる原作の言葉の力強さにも驚かされました。演出・役者・原作の三位一体の魅力 で3時間を超える上演時間は決して長くありませんでした。

    小説と演劇の違いは山ほどありますが、表現形態として文字のみで読者の心を動かすための推敲の結果が原作であります。完成された一つの表現である原作を解体して、解釈を加えて、再構築する。その際に、原作の文章をそのままさらえば、当然小説と演劇の壁が生じて冗長になりかねません。しかしどうでしょう、 この観劇後に感じた独特な魅力の数々は。四季の移り変わりや、風景の描写をも台詞で伝える事はまるで詩の朗読を楽しむ風情があります。非口語的な、要所で感情や心情の吐露までも台詞で伝える言葉の数々は洗練されておりまるでシェークスピア劇を見ている趣きがあります。そして演劇には光があり、音があり、言語化出来な い機微を表わす声や動きがあります。見事に小説と演劇の壁を乗り越えて新しい世界に降り立った作品だなと感じました。

    日常の連続が人生であるという自明の事実を淡々と、しかし観客の共感をつかんで放さない、思い出で紡がれた物語でした。若手の役者が多く登場人物の年齢と見た目の乖離はありますが、思い出や記憶の風景を重ねて見せる作品だからこそ、むしろ自然に見えました。古くからの友人との間ではすんなり時間の流れが 昔に戻るように、そして死後も近しい人達の記憶に生きているように。

    過去に他の劇団公演で見た事のある役者さんもチラホラいて、新しい魅力を発見出来たのも収穫です。

    ネタバレBOX

    劇中の台詞、「のんきな人ね、生きていたくなるわ」が忘れられません。非日常的だけど、こんな台詞言ってみたいなって言葉に溢れており、幸せな観劇空間でした。

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    2011/04/24 22:28

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