無名稿 侵入者
無名劇団
AI・HALL(兵庫県)
2017/06/10 (土) ~ 2017/06/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
今回はいつもより大きな劇場での公演だ。というか、あのアイホールが巨大に見える。これが美術のすごさだろう。まずそのことに驚く。
この劇団の特性は日本人に忘れられかけている作家の復権を題材にしているということだろう。
横光利一の「機械」、倉田百三の「出家とその弟子」、そして今回の梅崎春生の「侵入者」「桜島」、これらの作品は今やよほどの愛読者でない限り読むことのかなわない作品群であります。これらを現代によみがえらせようとする、まずその意気込みが美しい。素晴らしいと思う。ここをまず褒めたい。
今回の劇は最初、原作が「侵入者」だけだと思っていたので、あの桜島の終戦前後の話が妙に不思議だったのだが、途中で二つの話が交互に挿入されていることに気づく。そして、この二つの話がどう結びつくのだろうと思っていたら、何と、ナンと、主人公の二人が入れ替わってしまうのだ。
これは凄い。面白い。度肝を抜かれるとはこのことを言うのだと思う。いやあ、参りました!
現代での「侵入者」と戦争において人を殺さなければならないという「真空感」。すなわちこの両者に共通する者はまさに「不条理」である。
カミュの「異邦人」然り、カフカの作品群然り、現代における生きることの不安と、戦時中の国家の強制による殺人行為はまさに同一であり、不条理と言えるのである。
これを嗅ぎ分けた中條岳青と島原夏海さんは偉い。大したものだと思う。
劇は不条理劇という宣伝が大きかったが、この二つの話が結びつくことによって、より分かりやすくなる仕掛けとなっており、若い人でも理解しやすい作品となっている。僕たちが生きていること自体、不条理であるのだから、それほど構える必要はないのである。
俳優的には中西邦子さんの、大きな包み込むような大きな演技が目を引く。そして堀内充治さんの的確な広い演技。彼は安定感のある俳優である。そして「ハッスルライフ」から突如進歩してきた泉侃生の熱演。(今回は彼の目がまさに点となっていて凄みを感じました。)
ポエムを感じさせるセリフさばき、雰囲気のある駒野侃(何と空晴ではこれほどの人とは気づかなかった新人だ)。ユニークな木本牙狼の個性。みんな素晴らしい。
そして今回は座長の島原夏海さんの舞台に溶け込むような存在感が凄みを放っている。今回、彼女の身体は本当に美しい。蛹のようでもある。
今までこんなに細いと思ったことはなかったが、あの白いバレエ衣装のようなものがそうさせるのか、まるで妖精のようにも思われた。あの衣装のまま、通信兵に乗り移った島原は本当に圧巻でした。
「ハッスルライフ」でベストを尽くした島原、今回で見事それをも乗り越えた感があります。これからどこへ向かって進むのでありましょうか。とても頼もしく、そして興味が尽きないです。
『にくいやつら』
ThE 2VS2
AI・HALL(兵庫県)
2017/06/02 (金) ~ 2017/06/04 (日)公演終了
満足度★★★★★
もう29回公演だという。でも、初めて見る劇団だ。こういうこともあるのだ。とても芸達者な役者陣で、見ていて楽しい。実に楽しい。客に何が受けるか徹底して研究しているかのよう。そんな嬉しい劇団なのである。
ところがよく見てみると、何と「アマサヒカエメ」の山咲和也がいるではないか。彼こそ最近では若く才能のある役者で、僕が一目置いていた人である。一方長橋秀仁という才気煥発コント芸人の最たる人がいる。6編の短編集であったが、めちゃ面白かった。
自由に動いて、駆け回り、跳ね回り、びしびし小気味いいセリフの連続。これぞコントなんだ。
いやあ、一度でファンになってしまいましたよ。これからもどんどん見るぜ。
新選紀IVA!
さくらさくらカンパニー
TORII HALL(大阪府)
2017/05/26 (金) ~ 2017/05/28 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/05/27 (土) 18:00
初めて見る劇団です。宝塚のレビューのような、それでいて時代劇、しかも新選組を信望する女性群。なかなか大変だろうと思います。
何が大変だって? 通常の劇の練習の何倍もしなければいけないのではと思ってしまいます。それぐらい立ち回り、歌、セリフなどてんこ盛りでした。
最初は固そうに見受けられたんだけどそのうち乗って来て、あのトリイの舞台が広く感じられました。全然面白かったです。
彼女たちの思いがずしんと観客に伝わって来て、それだけでこの劇は成功だと思います。自分たちの思いを脚本にして、観客に伝える。これは演劇の基本ですよね。見事でした。
『明日☆りのべぇしょん』
劇団伽羅倶梨
KARAKURIスタジオ(大阪府)
2017/05/19 (金) ~ 2017/05/23 (火)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/05/22 (月) 14:00
入場するとき、劇団代表ナオミさんからのきれいな文字のあいさつ名刺が手渡される。いつもファンを大事にする人なんだなあ。今回もファンとの飲み会を入れている。残念ながら今回僕は参加できなかったが。以前に、ビールを片手に俳優さんと談笑した想い出が今でも強く残っている。あまり例のない劇団のファンサービスであり、嬉しい。
なかなか面白かった。ずっと見ている劇団だが、安易な人情ものではなく、シビアな人情ものになってきている。そのため、脚本の掘り下げはきびしく、そして俳優の演技もキレが必要になってくる。観客を引き込むテクがこの劇では特にうまいと唸る。90分、目が釘漬けです。
ただ望むべくは、岩本正治さんを除き、客演の辻登志夫さん・川畑七海さん・吉永真也さんなどが主要な役を演じている。確かに、辻登志夫さんの演技は際立つものがあり見事だったが、劇団員が脇役の脇役ばかりでは、劇団としての成長は見込めないのではと少し気になった。
嘘吐きウガツの冒険譚
羊とドラコ
大阪市立芸術創造館(大阪府)
2017/05/18 (木) ~ 2017/05/21 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/05/21 (日) 16:00
大道具が何かしらロールプレイングゲームのいでたちで、軽めの劇なのかなと思ったら、とんでもない、舞台は炭鉱を意識し、明るさも控えめで、終始薄暗い採光での劇である。何人ものウガツが登場してくるので当初ちょっと戸惑うが、まあ面白い目論見であります。
劇は2時間という長丁場だが、きちんと俳優たちが自分の演技を演じ切っているので退屈はしない。だが、あまり笑いのない芝居で、見ている観客はちょっときついところもあるかもしれない。
それでも竜崎の意気込みは全編琴線を引っ張ているように緊張感は持続し、俳優陣は全員達成感を確認したように思われる。いい劇であった。
無名稿 出家とその弟子
無名劇団
浄土宗應典院 本堂(大阪府)
2017/05/12 (金) ~ 2017/05/14 (日)公演終了
満足度★★★★★
またまたお気に入り劇団。何といっても劇団員さんたちみんなが若くて華やか。見ているだけでさわやか感が充満する感じ、と言ったら失礼だろうか。
僕が演劇を見ているのは映画とは違い、若い人たちの汗と熱気を感じたいがため。何かを信じて何かに打ち込んでいる人間の姿は老若男女通してとても美しい。その瞬間を見たいのだ。
この劇団が、お堅い文学ものをやるという。シアトリカルは浄土宗の寺だから、真宗の開祖親鸞が登場するこの戯曲はおそらくとてもやりづらかったろう。しかも、仏教ものとはいえ、僧が花街に入りびたりになる人間の本能を真正面から見つめた人間味たっぷりの話である。
そもそも親鸞って、僧でありながら結婚しているという前代未聞のことを成し遂げた人なんだ。キリスト教でいうと、プロテスタントといえるのだろうか、だからこの話は結構、仏教というよりキリスト教的な言い回しが多い。
ストーリーは、だいたい原作通りの展開で意外である。花街での描写が多く、無名劇団は若い女性が大勢いることもあり、遊女に感情移入のシーンが多いのはこの劇のポイントであろう。
そして彼女たちの哀しみと侠気が浮き彫りにされる。演技的には泉侃生の親鸞は120%頑張ったと思う。驚いたぜ。
やはり今回の劇はこんな現代人も忘れている戯曲を現代によみがえらせたことだろうと思う。その勇気を買いたいデス。
ロックンロール
劇団冷凍うさぎ
OVAL THEATER & GALLERY (旧・ロクソドンタブラック)(大阪府)
2017/04/28 (金) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
いよよ、やっと森岡は会心の作品を作ったのではなかったか。自分自身と演劇をこれほど対等に感じられる作品も稀有である。実に快感と不快が交互にどくろを巻いております。これぞ秀作。
馬琴の手蹟 (ばきんのて)
真紅組
近鉄アート館(大阪府)
2017/03/24 (金) ~ 2017/03/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/26 (日) 14:00
なんと面白い着想。そしてあのアート館独特の正方形の舞台に八犬士が勇壮に舞い上がる。
最後、28年をかけてこの作品を無事に産み落とした後、八犬士が一人ずつ舞台から去ってゆくシーンは図らずも涙が零れ落ちた。
演劇の基本とは何かをこの劇から垣間見た気がした。秀作であり、力作である。
アニソン・ヴィランズ
ファントマ
近鉄アート館(大阪府)
2017/03/03 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/04 (土) 13:00
座席1階B列
久々の伊藤えん魔公演。でもさすがだなあ。アニメネタが軽いのかなあと思っていたら、手塚治虫の世界まで。こりゃあ、もうサービス精神旺盛の洪水でっせ。手塚にイトウエリを配し、きっちり芝居を安定させる。いやあ、怒涛の2時間でした。最高。
アンサンブル トルネード
Artist Unit イカスケ
in→dependent theatre 1st(大阪府)
2017/02/24 (金) ~ 2017/02/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/02/25 (土)
座席1階1列5番
それにしても、何が何だか分からない面白い展開だったが、2時間近くこの劇を持続させる演出力、俳優陣の思いはいかばかりか。劇が終わると思わず拍手をするその音響が止まらず、劇団と観客との線がなくなる水平線。演劇の醍醐味。
青木さん、題名の意味はあまり分かりませんが、面白いものを作ってくれはりましたなあ、、。
『Doroshy-ドロシー-』
劇団ゴサンケ
一心寺シアター倶楽(大阪府)
2017/01/27 (金) ~ 2017/01/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
思ったよりすべてにおいて一流の舞台でした。俳優陣30人の怒涛の演技。スピード感。衣装の大胆でセンスの良さ。小道具の楽しさ。しかも2時間決してダレない脚本。30人の気持ちの一致団結。女優の美しさ。どれをとっても1級品の出来。もうたまらなく素晴らしい。
祝福に瞬間を!
劇団 白の鸚鵡
大阪市立芸術創造館(大阪府)
2017/01/14 (土) ~ 2017/01/15 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2017/01/14 (土)
座席1階1列5番
総勢15人の大所帯。しかも全員にまともな役とセリフを、という信念があったのかどうか分からないが、ほぼ均等に配されていたように思う。
これはなかなか演劇を作る上で基本的な部分だが、難しいところだと思う。でもこれをクリアしたね。河波哲平さん、あっぱれです。
突然夫婦危機を迎えた3人家族。母親を亡くし父親が再婚しようとする息子から見た父親と女性。この二つの家族像がこの劇の根幹をなす。そこに劇中劇が始まりこの劇のテーマも膨らんでいく、、。
この劇は大勢の俳優陣の場面転換等の処理方法が抜群にうまく、感心する。だらだらすることなくてきぱきと劇が進行する。劇が面白い証拠である。
この劇団は集団の時の演技がいいんだよね。ラストの写真撮影なんか、とても映画的で、なんか泣けちゃったよ。
ハルカチカ
第2劇場
フジハラビル(アートギャラリーフジハラ)(大阪府)
2016/12/10 (土) ~ 2016/12/11 (日)公演終了
満足度★★★★
全編ポエムでした。
震災に遭った女性の物語だと思えるが、詩的で重層的な演出方法が一つの話にとどまらせない溢れる情感を伴い、果ては生と死を渡り継ぐ長いモノローグとなり、シンフォニーを奏でてゆく、、。
そんな実に優美で脳内にまでその音楽が聞こえそうな詩情たっぷりの演劇でした。
この演劇にとってはあのフジワラビルの美術館の雰囲気とともに、そこに佇む観客さえ、一つの劇の重要な存在となり、すなわち舞台の大道具となる。演劇を総合的に融解し、再構築した感もある秀逸な演劇である。
久々に堪能させていただきました。
元天才子役【いよいよ千秋楽!当日あります!】
元東京バンビ
スタジオ空洞(東京都)
2016/11/25 (金) ~ 2016/12/05 (月)公演終了
満足度★★★★★
観客を喜ばせるその精神に乾杯!
この演劇はすごいねえ。もう演劇の常識というものを自らはみ出している。演劇の素という観客を楽しませるには、という基本中の基本を、徹底的に考え抜いている。でも普通はそこまではやらないといったものにまで、どんどん観客に擦り寄って(いただいて)いる。
いままで数えきれないほど演劇を見てきたが、ここまでやってくれた演劇集団は初めてである。どんな劇団でもどこか冷めている部分があるものなのだ。(彼らもその部分は確かにあるが、)その瞬間、演劇は観客のものだというところに即転換してくれるのだ。ものすごいサービスですぞ。
あれはその瞬時瞬時に阿保にならないとやれない代物です。役者バカです。彼らは本当に役者バカです。だからこそものすごい何かを超えた演劇が生み出せたのだと思う。
東京の、あまり行ったことのなかった池袋に行った甲斐が十分あった。恐らくいつまでも忘れることはないだろうと思う経験です。それほど彼ら9人にしびれた芝居であった。
本当にありがとう!
しらゆき
劇団コスモル
OFF OFFシアター(東京都)
2016/11/23 (水) ~ 2016/11/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
エネルギー満載!
題名から推察されるか、あの「白雪姫」からヒントを得た作品だと思うが、見てみるとエネルギーからして、ものすごいことになっている。狭い舞台に10人ほどの大人が踊り狂い、汗を吹き出し、何と純粋な童話をやってのけているのである。
彼らは全然物おじせず、ファンタジーを演じ切る。かなりグレーかかったファンタジーではあるが、どんどん燃え上がる。大の大人が悪びれず童話を真正直に演じるのだ。これほど素晴らしいことはない。これほど真正面すぎることはない。これほど風を切って前を進んでいる爽快感を感じることはない。
そう、みんな演劇が大好きなのだ。好きで好きで仕方がないのだ。そんなパワーが観客席になだれ込んでくる。ものすごいエネルギーであります。
東京の下北沢、演劇のメッカはまさにるつぼのように燃えております。
女と男のしゃば・ダバ・だぁ ~たおやかな風の中で~
あみゅーず・とらいあんぐる
ウイングフィールド(大阪府)
2016/11/11 (金) ~ 2016/11/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
満席で圧巻です。
30分の短編ものが3編。冒頭は出演者7人による楽しげなダンシング。
そしてホテルなんだろうか、3部屋が見える廊下で女性二人がのたうち回る。部屋に人がいるのに出てこないという設定。面白い出だし。この劇団のやる気が見える。
場面は変わって、ある部屋の中。書けない作家と編集者とのやり取り。生みの苦しみ。けれどこの女史はのほほんと暢気。苦悩すら感じていない風。編集者は苛立つ。しかし、、。いい空気感。
3幕目は結婚式場での控室。親子ほど年の違う女と男が偶然邂逅する。ただしそれぞれ結婚相手は違う。面白い。実に面白い。結婚を迎え3度目の結婚式を迎える女と、対して男の方は初婚。
条あけみの質感が鋭い。人生をほのぼの語る。重いがそれでも希望を感じさせる強さ。そうさ、結婚式は明日を夢見る儀式だもの、、。
あっという間に劇は終わる。いつもの劇より年齢層は高い。あの小さなウイングフィールドが波のうねりが感じられるような満席の様子。壮観だ。
一年に一度の公演だという。待たされた観客が押し寄せた感がする。まさに市井の人々のための劇である。この空気感を覚えておこう。
【演劇×ジャグリング】シャドウトラフィック 【影×交通】
壱劇屋
ABCホール (大阪府)
2016/09/23 (金) ~ 2016/09/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
やはりすごい!
前作『SQUARE AREA』が今でも脳裡に残っている。通常の演劇でないレベルの高いところを目指している劇団であることが分かる。その最新劇である。
とにかくスタイリッシュなのである。洗練されているのである。小気味いい大音響。それは身体を突き抜ける。今回はリングを持ったアクション。これがまたよく使われており、いい。すこぶるいい。練習量凄いんだろうなあと思わせる。15名ほどがABCホールの舞台狭しと動き回る。踊りまわる。回転する。きれいだ。美しい。
さて、肝心の劇の方を言ってなかったですね。こちらは結構まともに付き合ってゆくと難儀なんですが、一応ミステリー風に仕上げています。探偵が主役なのでラストではアッと驚く犯人を提示してくれます。(そうでもないか)
100分。15人全員がずっと走り回っている感じがします。全部緻密に計算されています。一人がヘマするとすぐ目立ってしまうパフォーマンスの連続です。これには劇団員も気を使うでしょうね。なんせ、100分仕上げて初めて一つの完成なんですよね。
どうやって練習したのか。こういうのは他の劇団ではない代物です。大熊、頑張れ!目指すところは高いぞ。