実演鑑賞
満足度★★★★
「40祭」は、劇団きららが歩んだ40年という時間を、ひとつの舞台芸術として編み直す試みだった。
形式はリーディング(6本の冒頭部分)と二人芝居『なまえ』。だがその背後には、単なる回顧ではなく、明確な構成意図があった。
ネタバレBOX
前半:リーディング形式(作品冒頭6本)】
『石炭伝説』(1985年)
20歳の池田美樹が描いた、エネルギーと風刺が混在する会話劇。若さと「夢の遊眠社」的な言語遊戯が随所に見られる。
『楼蘭眩想』(1987年)
中央アジアの幻想世界を舞台に、時代感覚と視覚的イメージがぶつかり合う構成。初期の実験精神が溢れる。
『うそうそ。』(1998年)
二枚舌・嘘をテーマにした社会風刺的作品。演出も台詞回しもどこかシニカル。
『野性の沸点』(2001年)
混乱と衝動が交錯する。ある種の「転換点」に見える作品。
『ぼくの、おばさん』(2014年)・『ガムガムファイター』(2015年)
ここで作風が一変。「障害」や「他者との接続」が主題になっていく。優しさと肯定が物語を包み始める。
【後半:二人芝居『なまえ』(1999年)】
内容は、「言葉を話せなくなった登場人物」と「名前を問う者」の静かな対話劇。
演劇とは何か、人とは何かを問う作品で、言語とアイデンティティ、記憶の継承を描いていた。
物語の最中で、「名前」がその人自身を成すものであると示唆され、舞台上でその名前が失われ、再び取り戻される過程が描かれる。
演じたのは代表の池田美樹と、若手というかどうか迷うの森岡光。
今まさに劇団が歩もうとしている「次の時間」に手渡していく瞬間が、そこにあった。
実演鑑賞
満足度★★★★
一人芝居は、誰かに何かを“伝える”という演劇の最も純粋なかたち。
だからこそ、演じ手も観る側も、その作品と、そして“自分自身”と向き合う時間になる。
今年のINDEPENDENT:Fukは、6つの異なる人生を通して、
「一人で立つとはどういうことか」
「言葉を発するとは何か」
「誰かに届く声とはどんなものか」
を、じっくりと、鋭く、そして優しく問いかけてきた。
演劇という形式の中で、社会と個人、過去と未来、自分と他者が交差する。
その交差点に立っていたのは、俳優たちだけではなく、観ていた私たち自身だったのだと思う。
ネタバレBOX
[a]ポタリポタポタ
出演:荒木宏志(劇団ヒロシ軍)/脚本・演出:上田龍成(星くずロンリネス)
■ ネタバレなしの感想
荒木宏志の爆発力ある演技は事前の期待通りだったが、それを「フットボールのサポーター」というキャラクターにどう落とし込むかが見どころだった。
単に熱狂的というだけでなく、その裏にある「孤独」や「葛藤」が徐々に浮かび上がる構造が見事だった。
■ ネタバレありの感想
主人公は、かつて九州のクラブチームのゴール裏に立ち続けた男。
転勤で北海道の田舎町へ左遷され、生活も情熱も冷めていく中、かつての応援仲間と再会。再びスタジアムへ足を運び、太鼓を叩き始める。
「自分のしてきたことが、誰かの人生を支えていた」ことに気づくという、自己発見と再生の物語。
■ スカウティング視点
体の向きを変えるだけで複数の人物を演じ分ける技術は圧巻。
応援スタイルをリアルに再現した演出も秀逸で、荒木の熱量が舞台空間を“スタジアム”に変えていた。
[b]二度反転したその先は
出演:伊藤圭司(産業医科大学演劇部)/脚本・演出:中村唯人
■ ネタバレなしの感想
産業医科大の演劇部という未知の存在が提示する「偽悪」というテーマに惹き込まれた。
ロジックと演劇が見事に溶け合っていて、“理性”と“感情”のはざまを描き出す。
■ ネタバレありの感想
かつて数学教師だった男が、空き巣事件の通報で取り調べを受ける。
現れた刑事は、かつての教え子。数学の証明に見立てて、男は自分の「偽悪=悪を装った善行」を語り出す。
観客に善悪の判断を委ねたまま終わる構成が鮮烈だった。
■ スカウティング視点
数学を演劇言語として取り込んだ発想が新鮮。
伊藤の語り口は未熟ながらも、誠実さと曖昧さが同居し、演劇の素材として面白い成分を持っていた。
[c]ひとりできた
出演:隠塚詩織/脚本・演出:山﨑瑞穂(万能グローブガラパゴスダイナモス)
■ ネタバレなしの感想
「女の子のリアルな日常を、これでもかと見せつけられる」…と思いきや、もっと複雑で切実な物語だった。
“ひとりで来た道”を静かにたどる語りが胸を打つ。
■ ネタバレありの感想
自転車に乗れた日、初めてのソロパート、恋、そして避妊や中絶のリスク……。
女の子として生きる現実を、時にユーモラスに、時に抉るように語っていく。
「好き」とか「愛してる」なんて簡単に言えなくなるほどの現実がそこにあった。
■ スカウティング視点
見立ての「自転車」や空間の使い方が巧み。
隠塚の“等身大の語り”が観客との距離をぐっと近づけ、性や孤独を真正面から受け止める勇気を与えてくれる。
[d]天才の一撃
出演:萩尾ひなこ/脚本・演出:到生(劇団ジグザグバイト)
■ ネタバレなしの感想
「戦う者の物語だろうな」と思っていたら、競走馬を題材にした静かな逆転劇。
予想を大きく超える作品だった。
■ ネタバレありの感想
三冠を逃した競走馬が、再起して“伝説の一撃”を放つまでの内面劇。
人間の言葉で語りながらも、あくまで馬の心情として成立している。
競馬への愛が、馬自身の言葉として語られるのが面白い。
■ スカウティング視点
萩尾の演技が“人間を超えて動物の感情”を表現する領域に達していた。
比喩でなく、ガチで“馬の言葉”として演劇が成立していたのはすごい。
演劇と競馬の間に橋をかけた一本。
[e]虚数がわからない
出演:八木秀磨(劇団ぐらみー)/脚本・演出:井上みこと(劇団いしころ)
■ ネタバレなしの感想
演者も演出家も初見だが、静かなテンションの中に燃える“知と欲”の物語。
知性の裏にあるエゴがじわじわと見えてくる構成が上手い。
■ ネタバレありの感想
虚数の補習に来た女子生徒の告白から始まる物語。
実はすべてが「嘘」で、彼女は“好き”という気持ちを隠しながら近づいてくる。
女子の賢さがずるさに変わる瞬間に、教える側の葛藤もにじむ。
■ スカウティング視点
「虚数=愛」と重ねた設定が秀逸。
クッションが降ってくる演出が、“答えのない問い”のメタファーになっていた。
八木の抑制された演技も、作品のバランスに貢献していた。
[f]ふれるものみな
出演:犬養憲子(芝居屋いぬかい)/脚本・演出:樋口ミユ(Plant M)
■ ネタバレなしの感想
犬養憲子が演じる“琉球もの”はやはり強い。
生きることの重さと軽さ、悲しみと笑いが同居する語りが沁みた。
■ ネタバレありの感想
米軍基地が今もある土地で、「不幸だ」と言われ続ける琉球。
それでも「手のひらに花を咲かせてやるよ」と、笑いながら生きる女の姿に圧倒された。
50歳での初産という奇跡のエピソードが加わり、“生の再生”を強く感じた。
■ スカウティング視点
琉球語と標準語の混合比率(8:2)でも意味が伝わるのは演者の表現力あってこそ。
座布団の使い方も巧みで、生活と物語が地続きにある空間を構成していた。
実演鑑賞
満足度★★★★★
すごいよ!すごいよ!!
ふたつの同じようで違うメロディラインが交互に、かつ同時に奏でられ、
そこにはセリフという「音楽」が生まれた。
その様子を客席でワクワクしながら見続けていたわたしがいた。
ネタバレBOX
・・・やっぱり万能グローブガラパゴスの「オリジナル」は
ただかおりだった、という発見。
サディスティックミカバンドのオリジナルがミカさんであるように。
そこに「何かを見失った」大人たちが「何かを取り戻す」企みを面白く、
より面白く見せている。
実演鑑賞
満足度★★★★
こりゃ、エグくてすごい「反戦」と「厭戦」の物語だ。
ネタバレBOX
人間以外の動物は常に戦争状態なのだなと、餌が口に合わなくて食べられない妹燕を見て思った。
人間は戦争状態じゃなければ、食べ物が口に合わなくても、働く場所が合わなくても、
なんとか生きていける。
ここに近親相姦とか、変身や進化、人間と人外、何かを得たら何かを失う、同志や友達という関係に
愛情や性欲が強く絡んでくると修復不可能なくらいバラバラに壊れてしまうぞという情報量の多さや
現実の出来事につながるフックがハマる人にはドハマリしているだろうし、はまるではなく、嫌悪感を
もつひともいるんだろうなぁと感じてしまった。
実演鑑賞
満足度★★★★
五体と五感を使って働いてきた実感のある言葉が
より一層伝わってきている。
ネタバレBOX
より一層生活のにおいがぷんぷんしているから生には死、影には光、嘘には真実、
男には女、というスパイスが程よくまぶされた銀河鉄道の夜だった。
ハンガーパイプが仕切る壁になり、開く扉にもなっている。
そして生チェロの音色がなにか懐かしい。
実演鑑賞
満足度★★★★★
喜劇と悲劇は表裏一体なんだな、ということを改めて感じた。
ネタバレBOX
役としての体はギャル、演じるリズムはヒップホップ、演者の身体は宝塚、
そしてやっているジャンルはR-1ぐらんぷり。
この状態である女子高生の2年間を濃密に、過激に見せているからすごい、を通り越して恐ろしさを感じる。
実演鑑賞
満足度★★★★★
和菓子が食べたくなってきた。
短い時間でテンポよく見せている。
ネタバレBOX
今起こっているカスタマーハラスメント等の「窮屈な状態」の萌芽を
ストレスなく見せる手腕はさすが。