
Once
東宝
博多座(福岡県)
2025/10/20 (月) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★
価格15,500円
観終わった後、思わず金返せと呟いた。好みに合わないのは仕方ないけど、何よりも嫌だったのは演出家の自意識が鼻につくこと。敢えて観客の視点をブレるようにしたり、芝居のリズムや呼吸をぶった切ったり。もう少し小さいハコでの上演ならそれでも良いかもしれないけど、博多座レベルの劇場で15000円以上のチケット代を取ってあの作品では、観客に対して不誠実だと思う。あれを斬新な演出だと捉える人もいるけど(それ自体は否定しないけど)、少なくとも観客への配慮が全く足りてない。地方の劇場なんて、京本ファンと意識高い系だけが観に来るわけでも無いのだから、もっと商業演劇としてのあり方を考えて欲しい。私の中では、今年30本以上観た中で一番の駄作。主役の人気のおかげで興行的には成功したけど、作品的には失敗してる。今後よほどのことが無い限り、この演出家の作品にお金を払うことはしないと心に誓う。
キャストはイマイチな人も好演してた人もいたけど、そもそも演出がアレなので、基本的にキャストの責任では無いと感じた。京本大我君の歌はいつも少しズレていて、それが魅力に感じる人もいるとは思うけど、私には全く刺さらなかった。斉藤由貴さんと鶴見辰吾さんの存在としての安定感が、この作品の唯一の良心だと思った。
その後、原作である映画を配信で観た。舞台とは似て非なる作品の素晴らしさに衝撃を受けた。映画は荒削りで完成度は低いけど、確かに心に響く音楽と生の呼吸がある。作品のテーマとも言うべきFalling Slowlyは舞台版と同じ曲とは思えないくらい違っていて、映画の中でキラキラ輝いていた曲が、舞台では単調で退屈なものに成り下がっていた。それに映画のキャストに較べたら、舞台版のキャストは何だか妙な息苦しさを感じた。演出家の自意識とそれが目指す形式美の制約の中で、役者は自由な呼吸を止められ、音楽は魂を失ってしまったのでは?京本君もギターの弾き語りを頑張っていたけど、技術的にいっぱいっぱいで歌に魂を込められなかったように思う。モーツァルト!の時は歌は拙かったけど魂はあった。でも今回は仏作って魂入れず状態。これはもはや、原作映画への冒涜では?この素晴らしい原作映画を、あの息苦しい舞台作品に改悪してしまった演出家の罪は、決して軽く無いと感じる。
較べるのは酷だけど、その数日後に観たKERA作演出の「最後のドン・キホーテ」は、音楽劇的な作りは同じなのに、観客への訴求力が雲泥の差だった。KERA自身は、「歪なものを歪なまま提出することが許されるのは、演劇にしかできないとことだとは思っている(最後のドン・キホーテのパンフレットより)」と言っているけど、歪でナンセンスで意味が分からない部分があっても、きちんと観客に届くように設計されている。そして当たり前だけど、俳優の自由な呼吸が妨げられることは決して無い。ふたりの演出家には才能やキャリアの違いが大いにあるとしても、やはりいかに観客に届けようとしているかの違いが如実に現れていると強く思った。
さらに言うなら娘が小さかった頃、市民センターのイベントで高校生がする子供向けに童話の劇を観たことがあった。衣装もセットも(雑な)手作り感満載で、お世辞にも芝居が上手いとは言えず荒削りではあったけど、彼らの伝えようとする心意気だけは嫌というほど感じた。その熱に巻き込まれて私も娘も何だか良く分からないけど楽しかったと思えた。これはまさにOnceで感じたのと真逆の体験だったと思う。彼らは荒削りでもきちんと観客に向き合っていて、そこに魂があったから。それを味わう幸せな瞬間を求めて私は劇場に通うのだと思う。でもその願いは今回、果たされなかった。形式としては美しいが魂の無い芝居を観せられても、ただ虚しさが募るだけ。

くるくるかざみどり
爆烈★ひよこボックス
ぽんプラザホール(福岡県)
2023/11/25 (土) ~ 2023/11/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
生コメンタリーの回を観ました。制作の裏話も聞けて楽しかったです。役者さんからエピソードを集めて作ってる部分もあると聞いて、凄く納得しました。思わず「あるある!」と唸ってしまうような要素をデフォルメしながら散りばめつつ、ショッピングモールでの悲喜こもごもをこのような作品に落とし込む川口さんの才覚に、いつも以上に感服しました。役者さんの間合いも良いですね。客演さん、劇団員さんを問わず、たまに浮いているキャストの方がいますが(好みの問題もありますが)、そんな違和感を一切感じず、楽しく幸せな時間でした。
爆ひよは前回公演も観ましたが、前回は女性作家さんの手による繊細な脚本で、会場の雰囲気と相まってノスタルジックな印象でした。今回は打って変わって川口さんの面目躍如のコメディで、冒頭からひたすら笑っていました。次回の爆ひよはどんなふうになるのか、ガラパ本公演とともに目が離せないですね!

甘い手
万能グローブ ガラパゴスダイナモス
J:COM北九州芸術劇場 小劇場(福岡県)
2022/04/23 (土) ~ 2022/04/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
10年以上ガラパを観続けて来ましたが、この作品がマイベストです。バカバカしくもそれぞれが真剣な、いくつかの伏線を最後に収束させて昇華させる展開は、脚本家の川口さんの最高傑作かと個人的には思っています。私のガラパ史上最も遠方の劇場でしたが、往復4時間かけて行った甲斐がありました。久々の生コメンタリー堪能して、大満足な時間でした。