Once 公演情報 東宝「Once」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度

    価格15,500円

    観終わった後、思わず金返せと呟いた。好みに合わないのは仕方ないけど、何よりも嫌だったのは演出家の自意識が鼻につくこと。敢えて観客の視点をブレるようにしたり、芝居のリズムや呼吸をぶった切ったり。もう少し小さいハコでの上演ならそれでも良いかもしれないけど、博多座レベルの劇場で15000円以上のチケット代を取ってあの作品では、観客に対して不誠実だと思う。あれを斬新な演出だと捉える人もいるけど(それ自体は否定しないけど)、少なくとも観客への配慮が全く足りてない。地方の劇場なんて、京本ファンと意識高い系だけが観に来るわけでも無いのだから、もっと商業演劇としてのあり方を考えて欲しい。私の中では、今年30本以上観た中で一番の駄作。主役の人気のおかげで興行的には成功したけど、作品的には失敗してる。今後よほどのことが無い限り、この演出家の作品にお金を払うことはしないと心に誓う。
    キャストはイマイチな人も好演してた人もいたけど、そもそも演出がアレなので、基本的にキャストの責任では無いと感じた。京本大我君の歌はいつも少しズレていて、それが魅力に感じる人もいるとは思うけど、私には全く刺さらなかった。斉藤由貴さんと鶴見辰吾さんの存在としての安定感が、この作品の唯一の良心だと思った。

    その後、原作である映画を配信で観た。舞台とは似て非なる作品の素晴らしさに衝撃を受けた。映画は荒削りで完成度は低いけど、確かに心に響く音楽と生の呼吸がある。作品のテーマとも言うべきFalling Slowlyは舞台版と同じ曲とは思えないくらい違っていて、映画の中でキラキラ輝いていた曲が、舞台では単調で退屈なものに成り下がっていた。それに映画のキャストに較べたら、舞台版のキャストは何だか妙な息苦しさを感じた。演出家の自意識とそれが目指す形式美の制約の中で、役者は自由な呼吸を止められ、音楽は魂を失ってしまったのでは?京本君もギターの弾き語りを頑張っていたけど、技術的にいっぱいっぱいで歌に魂を込められなかったように思う。モーツァルト!の時は歌は拙かったけど魂はあった。でも今回は仏作って魂入れず状態。これはもはや、原作映画への冒涜では?この素晴らしい原作映画を、あの息苦しい舞台作品に改悪してしまった演出家の罪は、決して軽く無いと感じる。
    較べるのは酷だけど、その数日後に観たKERA作演出の「最後のドン・キホーテ」は、音楽劇的な作りは同じなのに、観客への訴求力が雲泥の差だった。KERA自身は、「歪なものを歪なまま提出することが許されるのは、演劇にしかできないとことだとは思っている(最後のドン・キホーテのパンフレットより)」と言っているけど、歪でナンセンスで意味が分からない部分があっても、きちんと観客に届くように設計されている。そして当たり前だけど、俳優の自由な呼吸が妨げられることは決して無い。ふたりの演出家には才能やキャリアの違いが大いにあるとしても、やはりいかに観客に届けようとしているかの違いが如実に現れていると強く思った。
    さらに言うなら娘が小さかった頃、市民センターのイベントで高校生がする子供向けに童話の劇を観たことがあった。衣装もセットも(雑な)手作り感満載で、お世辞にも芝居が上手いとは言えず荒削りではあったけど、彼らの伝えようとする心意気だけは嫌というほど感じた。その熱に巻き込まれて私も娘も何だか良く分からないけど楽しかったと思えた。これはまさにOnceで感じたのと真逆の体験だったと思う。彼らは荒削りでもきちんと観客に向き合っていて、そこに魂があったから。それを味わう幸せな瞬間を求めて私は劇場に通うのだと思う。でもその願いは今回、果たされなかった。形式としては美しいが魂の無い芝居を観せられても、ただ虚しさが募るだけ。

    0

    2025/11/02 18:33

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大