柏原照観展
牡丹茶房
スタジオ空洞(東京都)
2024/02/21 (水) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
流石に面白い。舞台上は展示室になっており、数々の仏画が並べられている。(エアブラシ・アートなのが時代背景と合わず気になるが···)。中央に置かれた台座。
画家柏原照観(山本佳希氏)の大ファンである資産家(越路隆之氏)が道楽で運営する個人美術館。1954年(昭和29年)、柏原照観のアトリエで見初めた彫刻品を購入、それを展示することに。運ばれて来たそれは漆黒の消し炭で作られたような異形の禍々しいフォルム。何本も腕が突き出している奇形の阿修羅像。
柏原照観の妻(赤猫座ちこさん)はその像の前で涙を零す。「本当は売りたくないんです。必ずお金を用意して買い戻しますから、決して誰にも売らないで下さい。」
資産家の娘(小森かなさん)と結婚し、入婿となった次期当主(とのむらゆうだい氏)はそれを約束する。
だが、しかし・・・。
赤猫座ちこさんは増村保造顔。こういう暗い過去を背負った役がハマる。
今作のような設定の閃きがこの作家のかけがえのない財産なのだと思う。
寉峯~カクホウ~
ラビット番長
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2024/02/22 (木) ~ 2024/02/26 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
凄く色々な方法論を試していて、物語の語り口としては非常に評価したい。辻褄の合わない時空間を超えた語り手の移行は徹底すればかなり面白い成果を得たと思う。
遠藤正己氏、駒師の雅号は寉峯(かくほう)。漆への拘りと盛り上げ将棋駒が特徴。駒は漆の塗り方で種類があり、「彫り駒」(文字の部分が凹んでいる)、「彫り埋め駒」(文字の部分が平ら)、「盛り上げ駒」(文字の部分が盛り上がっている)となる。
現代の名人五名とされている駒師の一人、大澤富月(ふげつ)氏に師事。富士駒の会(静岡県富士宮市で富月氏が主宰している駒師育成会)に所属。
2018年11月、第31期竜王戦(羽生善治竜王対広瀬章人八段)第三局にて寉峯の駒が選ばれる。将棋の駒は指して貰ってなんぼ。究極の高みに立つプロ棋士のタイトル戦に選ばれるということは全てが揃ったということ。この駒こそ、この対戦を飾るにふさわしいと。ボクシングの世界最高峰のタイトルマッチで選ばれるグローブのような崇高さ。人生を懸けるに値するとトップの面々を納得させる本物の重み。駒に「落ち着きがあり、見易く指し易い」と棋士達の評価は高い。
59歳で駒師になり、僅か7年でここまで辿り着いた天才。現在の駒師の中で群を抜く人気の彼の人生を紐解く。
最愛の妻と居酒屋を経営、順風満帆。44歳の時に妻が交通事故死。失意の中、店を畳む。仕事を転々とし、将棋サロン経営を思い立つ。良いものを揃えようと展示即売会に足を運ぶが将棋駒は非常に高価。手をこまねいていると「自分で作ることも出来ますよ。」と声を掛けられる。59歳にして、自分で将棋の駒を彫り出すことに。
ふしぎな木の実の料理法~こそあどの森の物語~
劇団銅鑼
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2024/02/21 (水) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
これは傑作だと思う。
話のディテールがよく出来ているので「これオリジナルだったら脚本家は凄い才能だな」と思ったら世界的に評価されているベストセラーだそうだ。
定年まで小学校の図工の先生をやりつつ、児童文学を書き続けた岡田淳氏。代表作『こそあどの森の物語』シリーズの第一作「ふしぎな木の実の料理法」は1994年に発表された。
全十二巻の内の第一巻が今作。第六巻を劇団四季が『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』としてミュージカル化しているらしい。それも観てみたい。
こそあどの森で暮らす様々な住人達の織り成す人間模様。白い大きなカーテンを使って場面転換を工夫。ミニチュアを活用して不思議な雰囲気のある奇妙な形の家々をイメージさせるアイディア。
二人組の旅の笛吹き、ナルホドとマサカ(池上礼朗氏と早坂聡美さん)が奇妙な歌を歌いながらどこか遠くからやって来る。森に宅配便を運んで来たのは郵便配達員ドーモさん(深水裕子さん)。南の島にいる博物学者のバーバおばさん(声のみ・栗木純さん)からの荷物を、留守番中の少年スキッパー(齋藤千裕氏)に届けるのだ。気を付けて橋を渡っていたのだが、川に荷物を落として濡らしてしまう。ポットさん(佐藤響子さん)と一緒に謝りに。主人公スキッパーはコミュ障の引きこもり、空想癖のある対人恐怖症。家に籠もって読書や化石や貝を眺めるのが大好き。荷物を確認してみると、沢山の硬くて大きなポアポアの実が。だが肝心の同封されていた「木の実の料理法」が水に滲んで所々読めず、まるで虫食い問題に。ポアポアの実の料理法を求めて、スキッパーは家々を訪ねる羽目に。
主演の齋藤千裕氏が素晴らしい。何か魅力がある。細かい表情や仕草一つ一つに意味をもたせている。繊細。
深水裕子さんは松居直美っぽい。
トマトさん役、亀岡幸大(ゆきひろ)氏も強烈。「ねえ、キスして···。」
双子のアップル(福井夏紀さん)とレモン(佐藤凜さん)も『シャイニング』を思い起こさせるキャラ。
妄想癖のスキッパーは人と接している間、悪い方悪い方に考えが転がり、不安神経症患者のようにパニックになる。その不安と妄想が精神病棟の地獄巡りのようにも思えて妙に面白い。深い人間洞察は宮沢賢治にも通ずる。ずっと子供相手の仕事をやって来た作家なだけに人間というものの本質を見据えている。嘘っぽくないところが凄い。観に来ていた小学生達も食い入るように楽しんでいた。
是非観に行って頂きたい。
闇の河
劇団俳小
シアターX(東京都)
2024/02/16 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
この劇団の2021年3月公演の『聖なる日』に凄まじく衝撃を受けた。そんな作品を求め、2022年7月サンモールスタジオ公演の今作のチケットを購入したもののコロナで中止。そして到頭今回本邦初の御披露目。『聖なる日』と同じく、アンドリュー・ボヴェルの戯曲。原作はオーストラリアの国民的ベストセラー、テーマは「オーストラリア建国の闇」。
1770年に観測隊を率いたジェームズ・クックがオーストラリア大陸を発見、イギリス領と宣言。1788年1月、上陸した第一船団11隻が植民地シドニーを建設、入植を開始。その後約80年間で約16万人の囚人が流刑地として送られる。
その地には先住民アボリジニ(現在は差別語とされアボリジナルと呼ばれる)が25万〜100万人程生活していたが、1920年頃には約7万人にまで激減。イギリス人が持ち込んだウイルスと虐殺が理由。全てを共同体で共有することが当然だったアボリジニには土地私有の概念がないとされた。(だが近年アボリジニのドリーミングと呼ばれる特殊な世界観の研究によって、ドリームタイム〈天地創造神話〉で生まれた祖先、大地、人類の物語に対し篤い信仰心を持つことが知られるようになる。彼等が自分の生まれた土地とそこに伝わる物語を極めて重要視することも)。
オーストラリアの建国神話は、①イギリス階級社会の犠牲者であった罪人が②未開の地で開拓者として生まれ変わり③土地所有の概念のない先住民と交流し新世界を築き上げる、とされてきた。だが③は全くの虚構であったことが近年暴かれていく。先住民の土地を奪い征服して築き上げた血塗れの歴史であったことを。オーストラリア人が生まれながらに背負った原罪を見つめ直す作品が国民的ベストセラーになる時代に。
焦茶色の布が何枚も垂れ下がり、深い森の奥地の雰囲気を醸し出す。
時は19世紀初頭、些細な盗みを犯した罪でロンドンからオーストラリアに終身流刑となったウィリアム・ソーンヒル(千賀功嗣〈いさし〉氏)。彼について行く妻のサル(夏海遙さん)、息子のディック(根本浩平氏)。シドニーで真面目に舟運の仕事に就くウィリアム、生まれた二人目の息子ウィリー(諸角真奈美さん)。数年後、模範囚として恩赦を受け到頭自由の身になる。ロンドンに帰りたがる妻を説得するウィリアム。「5年間ここで稼ぎ、財を成して帰ろう」と。ウィリアムには以前から目を付けていた土地、ホークスベリーがあった。自分が土地を所有することへの本能的な欲望。「ホープ(希望)号」と名付けた自分の舟で一家は新天地へと漕ぎ出す。だが無人の未開地の筈だったそこは先住民がヤム芋を収穫し、祭祀を営む場所でもあった。
アボリジニの言語を本当に使っているそうだ。よく覚えたものだ。だが、余り効果を上げていない。異文化交流の面白さのようなおっかなびっくり相手と打ち解けていく件だけ。結局、アボリジニが何を話していたかが解らないと、互いの誤解が伝わらないので勿体無い。観客にだけ分かるようにラスト近くの一部を字幕で見せる方が良かった。
アボリジニを妻として暮らす手塚耕一氏。今作の良心的存在。
虐殺から生き残り、全てを目撃したその妻役を西本さおりさん。かなり長大な台詞を上手で立ちっぱなしで話し続ける。大浦千佳さんに何となく似ている。
ある意味、主演の夏海遙さんは山本陽子に似た美人。
惨めな使用人を好演する大久保卓洋氏はガリガリの肉体がリアル。三谷昇のような名助演。
アボリジニの族長役、片桐雅子さんも印象的。
中盤、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』っぽい描写が結構続くが、何か絵的に見えてこない。バランスが悪い。ウィリアム・ソーンヒルの内面の変化に焦点を当てていないからか。作品から曲が流れてこない。
さよなら、チャーリー
アーティストジャパン
あうるすぽっと(東京都)
2024/02/16 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
カリフォルニア州LA、ハリウッドに近い高級住宅街で落ち目だった映画脚本家、チャーリー(山本一慶氏)の葬式が執り行われている。取り仕切るのは十数年来の親友、今はフランスで暮らしている映画監督のジョージ(井澤勇貴氏)。集まったのはマネージャーの柳内(やない)佑介氏と映画会社の社長夫人、枝元萌さんだけ。女たらしの快楽主義者であったチャーリーを心良く思っていた人等殆どいなかった。今回もヨットで映画プロデューサー(ルー大柴氏)の女房(大湖せしるさん)とヨロシクやっているところを見つかって射殺されたのだ。死体は海に消えてしまった。プロデューサーは妻を守る為の正当防衛ということで即日保釈。形ばかりの葬儀が終わり、皆が帰った後に最期の情事の相手だった大湖せしるさんも顔を見せる。
借金塗れのチャーリーの相続財産清算人にされていたジョージが一人家で疲れ果てていると女(山本一慶氏)が訪ねて来る。初対面だが絶世の美女。女は「俺はチャーリーだ。」と言う。「チャーリーなら死んだよ。」と返す。「いや、ここにいるじゃないか。」とふと鏡を見て驚愕する女。神の天罰か、女にされてしまっている。
脇を固める役者がメチャクチャ豪華。枝元萌さんにこんな贅沢な使い方が出来るとは!ルー大柴氏もワンシーンだけだがメチャクチャ客を沸かす。ジョージの恋人役として、神谷敷樹麗(かみやしきじゅり)さんも登場。
何と言っても大湖せしるさんが美しい。余りに美しすぎてチャーリー役を演らせたかった程。
第二幕の山本一慶氏と大湖せしるさんの話し合いのシーンが名場面。名曲「グリーンスリーブス」が流れる中、チャーリーの目が覚め、神が下した罰の意味を思い知る。
是非観に行って頂きたい。
ハムレット・ハウス
公益財団法人武蔵野文化事業団 吉祥寺シアター
吉祥寺シアター(東京都)
2024/02/18 (日) ~ 2024/02/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「ハムレットを待ちながら」みたいな設定。舞台稽古にハムレット(悲劇?)はいつまで経ってもやって来ない。舞台周囲を転がった大量の照明機材とこれまた大量のメトロノームが囲む。主催の小西力矢氏がシンバルと謎の楽器?を奏でている。
ロシアが2022年3月16日に行ったウクライナのマリウポリ劇場への爆撃が作品の核となっているそうだ。破壊された劇場跡地に残る魂達の邂逅なのか?
升味加耀(ますみかよ)さんと田久保柚香さんが開演前からウォーミングアップをしている。大声で発声練習、ストレッチ。宝保里実さんが現れてハムレットの台詞を言うが、その後は隅に佇んでいるだけ。時々、メトロノームを動かす。村山新(あらた)氏がやって来てひたすら二人に謝罪する。どうやら何人も人を殺したらしい。「絶対に許さない!」と叫ぶ二人。まあそんな感じの遣り取りが続いたりぶつ切りしたり。オチは到頭現れた宝保里実さん、はっとする二人。「あ、すいません間違えました。」「気を付けてね。」
「たまねぎ」
カワグチプロヂュース
天狼院カフェSHIBUYA(東京都)
2024/02/16 (金) ~ 2024/02/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
渋谷駅すぐのお洒落な複合施設「MIYASHITA PARK」、3階にあるBOOK&CAFE「天狼院カフェSHIBUYA」。店内に平台を設置してステージとし、2方向に椅子を並べた。外はガラス張りの為、行き交う沢山の通行人が眺めていく。隣の店からガンガンとHIPHOPが流れる凄い環境。
世界でシリーズ累計500万部突破の小説『コーヒーが冷めないうちに』。ハリウッド映画化も決まり絶好調の作者、川口俊和氏主催の公演。
東京AZARASHI団のエース格だった目方聖子さんを観に行った。40分程の短篇コメディ。
四人姉妹(永吉翼さん、山口紗貴さん、堀さや花さん、目方聖子さん)と謎の男(林剛央〈たけひさ〉氏)が一緒に暮らす部屋。次女の別れた旦那(阿部晃介氏)がとある報告を告げにやって来る。
主演の堀さや花さんはこあみっぽい美人。
永吉翼さんは岸本加世子系の美人。
山口紗貴さんも目方聖子さんもガチビンタと涙でハッとさせた。
林剛央氏は坂上忍っぽかった。
堀さや花さんの後輩OL、吉田伊織さんは大森美優っぽい。
三枝翠さんの霊能者が物語のキー。
山下りかさんは何か見覚えがあったが思い出せない。
作家のファンなのか、涙ぐむ観客達も。
こういう形で演劇との接点が始まる人もいるだろう。
とにかく一度現場で観てみないことには何も始まらない。
作家が好印象。一度、『コーヒーが冷めないうちに』を読むなり観るなりしようかな、と思う。
是非観に行って頂きたい。
509号室−迷宮の設計者
名取事務所
小劇場B1(東京都)
2024/02/16 (金) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
凄まじい作品。マジで死にたくなった。今、何を置いてもこの名取事務所のセレクトする作品は可能な限り観ておく必要がある。間違いなく本物。脚本のレヴェルが段違い。
昔、黒沢清が言っていたことを思い出す。「自主映画だろうが何だろうが表現という土俵に立った以上は対等。予算がどうのとか所詮は言い訳。やるんならハリウッドの超大作と競い合うつもりで創って欲しい。」
伝えたいことがあるのなら、あとは才能で勝負。どんな媒体であっても凄い作品は必ず伝わる。本物であるならば必ず。
何故なら今作にこうして打ちのめされているからだ。
韓国映画の超傑作、『1987、ある闘いの真実』と重なる作品。韓国ドキュメンタリー映画、『スパイネーション 自白』での「在日留学生捏造スパイ事件」の恐怖。徹底した暴力と拷問で無実の人間に自白を強要させていく手法。人間は弱い。簡単に蹂躙される。すぐに痛みと不安と恐怖とに支配される。惨めで醜い自分を受け入れざるを得ない葛藤。あっという間に苦痛に跪く尊厳。何故なら人間は動物だからだ。動物はとても弱い。すぐに死んでしまう。
①1975年、韓国現代建築の巨匠である金壽根(キム・スグン)に、ある建物の設計を依頼しに来た政府の高官(山口眞司氏)。彼が多忙な為、アシスタント(西山聖了〈きよあき〉氏)が応対するのだが。
②1986年、学生運動を齧っていた大学生(松本征樹〈まさき〉氏)は恋人との待ち合わせの場所で拉致される。目隠しされて連れて行かれたのは「対共分室」と呼ばれる黒レンガ造りの迷宮のような建物だった。
③2020年、ドキュメンタリー番組の監督(森尾舞さん)はかつて「対共分室」だった「民主人権記念館」を取材する。案内してくれる解説員(鬼頭典子さん)。
ソウル最大の繁華街、南営洞(ナミョンドン)に建てられた黒レンガ造り5階建てのビル。(後に7階建てに改築)。表向きは「国際海洋研究所」と偽装された。実際は体制側が不穏分子と見做した人間を拉致監禁、拷問虐殺する屠殺場だった。「人間の恐怖を最大化する構造に設計」された天才建築家による緻密な計算。採光抑制、脱出防止を意図した細長い異形の窓が不快感を煽る。簡素なプロジェクションマッピングが効果的で素晴らしい。これだけで全てが伝わる。
3つの異なった時代が同時進行していく。設計する者、拷問される者、それを調査する者。
MVPは山口眞司氏だろう。この人は一体何なんだ?
是非観に行って頂きたい。
掟
TRASHMASTERS
駅前劇場(東京都)
2024/02/15 (木) ~ 2024/02/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
昨年9月に公演されたTRASHMASTERSの『チョークで描く夢
』が素晴らしかった。川崎にある日本理化学工業をモデルとした知的障がい者雇用を推し進める会社の人間模様。
本社正門横に建つ「働く幸せ」のブロンズ像の台座には、故・大山泰弘会長の言葉が刻まれている。
「導師は人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、人から必要とされること、の四つと云われた。
働くことによって愛以外の三つの幸せは得られるのだ。
私はその愛までも得られると思う。」
そういう訳で今作も多大な期待をしたのだが、残念ながら余り面白いとは思わなかった。
広島県安芸高田(あきたかた)市の現市長、石丸伸二氏の軌跡をそのまんま舞台化。京大卒、三菱東京UFJ銀行入社、為替アナリストとして子会社のニューヨーク駐在員に。地元の市長が収賄罪で辞職し、副市長以外の立候補者がいないことを知った翌日退職願を出す。2020年8月9日、立候補から3週間足らずの選挙で37歳にして市長に当選。
主演の森下庸之(やすゆき)氏、ジャグリングの腕も確か。
WEB番組「TIME JOURNAL」のアナウンサー、小崎実希子さんは綺麗。
同じくアナウンサーの天川義輝(あまがわよしき)氏の揺れ動く心情。
MVPは市長の敵に回る市議会議員、山本龍二氏と斉藤深雪さん。巧い!斉藤深雪さんは二役の演じ分けっ振りも見事。山本龍二氏のラストの質疑応答は現実にあった場面なのだろう。職人の腕前。
市長の前に立ちはだかるのは市議達の面子。善悪利害損得ではなく、自分達に挨拶があるかどうか、最優先すべきは己のプライドだ。とにかく根回しを要求。話を先に進めたい市長と、そうはさせない老人達の意固地な攻防。どんな下らない世界にも『掟』がある。群れた弱者集団を飼い馴らす“セオリー”を敢えて市長は無視する。この対立の絵面こそがエンターテインメントにふさわしい、と。
桜の園
桐朋学園芸術短期大学
俳優座劇場(東京都)
2024/02/14 (水) ~ 2024/02/15 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
[Cherry]
面白かった。チェーホフはこういうのでいいんじゃないか。44歳にして結核で亡くなる為、遺作となってしまった今作。前説を演るのがまさかのチェーホフ本人(加藤ひか里さん)、観客は襟を正した。
MVPはロバーヒン役の宇崎花怜(かれん)さん。素晴らしい台詞回しで混沌の世界の一条の光となった。
そして主人公である女主人ラネーフスカヤ役のバトアムガラン・エンフトゥールさん。イントネーションから韓国人と勝手に思っていたのだが、モンゴル人の女優。凄え才能。世間知らずの浮世離れした貴婦人ということでこの口調もありにしよう。
万年大学生トロフィーモフ役の菊地芽衣さんも巧かった。
養女ワーリャ役の関口愛維クリスティーンさんも記憶に残る。
唯一の男性はピーシチク役の田中雄大氏。
美術なんか凝っているし、桜吹雪も悪くない。
チェーホフは面白いんだかつまらないんだか未だに分からない。(笑えない喜劇みたいな)。でも学生が「そのよく分からないもの」を懸命にやることで発生する磁場はある。日本ではそういう位置付けでいいんじゃないか。
是非観に行って頂きたい。
小栗判官と照手姫
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2024/02/08 (木) ~ 2024/02/14 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
美女揃いの艶やかな舞台。受付から綺麗所ばかり。
思い出すのは2018年2月、metroで演った月船さららさん主演『衣衣 KINUGINU』。泉鏡花の短篇と古浄瑠璃の『一心二河白道(いっしんにがびゃくどう)』をアレンジした傑作。余りに素晴らしくて2回観に行った。自分は仏教説話が好きなんだな、とつくづく思い知った。
今作も説経節『小栗判官』を底本に因業渦巻く伝奇浪漫。
津軽三味線をエレキギターのように搔き鳴らす駒田早代(さよ)さんの登場から最高だ。見事な説経節を唸り語り唄うのは河西茉祐(まゆ)さん。この二人こそが今作の主人公に思えた。
更に百鬼ゆめひなさんは等身大の照手姫人形を一人出遣いで舞わしてみせる。
幕が開けば打って変わって絢爛豪華できらびやかな女優達が舞うオープニングに。片岡自動車工業の『お局ちゃん御用心!!!』にも似たエンタメ振り。
下手の黒い壁に歌詞や口上が字幕で投映されることが素晴らしい。これはこの手の作品には絶対あったほうが良い。作品への没入度が変わってくる。これが無かったらぼんやり観ていた気がする。
ヒロインの森岡朋奈さんは宝生舞系の美人。美声で歌が映える。
手塚日菜子さんはハマカワフミエさんっぽかった。
月岡ゆめさんはちゅりっぽい。
浜田えり子さんは松原千明似の美人。
山田のぞみさんと本間美彩(みさ)さん兄弟が印象に残る。
妖怪人間ベロの正体に似た餓鬼阿弥の造形が最高。演じる者は一体誰なんだ?
『ロード・オブ・ザ・リング』のハワード・ショアっぽい劇伴。
想像以上に面白かった。
かわりのない
TAAC
新宿シアタートップス(東京都)
2024/02/07 (水) ~ 2024/02/12 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
舞台美術はオフィスコットーネの『磁界』を思わせる。八百屋舞台で手前の水平なスペースに上手、下手と雑然と重ねられた椅子。列車の走行音と工事現場の鉄骨の擦過音。登場した役者が椅子を引き抜いた際に走るノイズ。中央にポッカリと空いた奈落。神経症的な不安感。
募金活動を終え、十円玉を投げて表か裏を当てながら帰宅する夫婦、異儀田夏葉さんと清水優(ゆたか)氏。何故か旦那の投げる十円玉は全て表が出る。それを完全に当て続ける妻。
一人の少年の死を捜査している刑事(荒井敦史氏)。徳重聡に似た美男子。最近眠れずに寝室にも入らない。妻(北村まりこさん)は複雑な心境。青木さやかとミラクルひかるっぽい味のある話し方。
少年の父親(納谷健〈たける〉氏)は非人間的で冷たい印象。「生まれつき身体の弱い子でしたから。通夜で頼んだ寿司が余っているので食べませんか?」
刑事の取り調べ、夫婦とそれぞれ別々に会話しているのを3人で話しているように混ぜ合わせる演出の工夫。一体、これは何の取り調べなんだ?噛み合わない話。
夫婦にとっての子供の存在する意味。時折仄めかされるセックスレス。他人が何を考えているかなんて分かる筈がない。皆自分のお話にばかり気を取られているようだ。
異儀田夏葉さんがずば抜けた存在感。
う蝕
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2024/02/10 (土) ~ 2024/03/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開幕すると段ボールの荒野。近未来の話なのか、コノ島で起こっている「う蝕」。(う蝕とは虫歯のこと。虫歯の治療は抜くか削るかしかなく、感染した骨を治癒する方法はない)。
いきなり大地が底なし沼のようにズブズブと沈みゆく天災。土が腐り果てたのか?予測のつかない地盤沈下。船に乗って避難するよう政府は呼びかけるが、島に残ることを選択した者達の話。
た組。の『心臓が濡れる』やTRASHMASTERSの『オルタリティ』のように極限状況に放り込まれた人間達が見せるワンシチュエーションもの。
イキウメの『人魂を届けに』のように横山拓也版哲学談議を妄想したがそういうものでもなかった。雰囲気はMONOの『燕のいる駅』に近い。
能登半島地震の発生によって急遽変更された部分も多々あったという。大変だったろう。繊細な作り手である。
犠牲者の身元を遺体の歯型の照合にて確定させる作業。本土から歯科医師が招聘される。
主人公は坂東龍汰(りょうた)氏。中尾明慶っぽいキャラで博多大吉のようなツッコミ。横山拓也の戯曲には軽薄で軽口で能天気なアンちゃんがよく似合う。
眼鏡が印象的な近藤公園氏。何か岡本篤っぽさを感じた。
綱啓永(つなけいと)氏は金持ちのボンボンで世間知らず、ブランド物のスーツと靴で被災地に現れる。
コノ島に移住し、歯科医院を開業している現地の新納(にいろ)慎也氏。彼の集めたカルテのデータが重要に。
遺体を掘り出すには土木作業員と重機も必須。やっと現地に現れたのは汚れた作業着姿の役人、相島一之氏一人だけ。やたら名前の呼び名の濁音に拘る性格。
謎の白衣の男、正名僕蔵氏の姿も。佐高信(まこと)顔だよなあ。まさに官僚顔。
高台にあるのは沈丁花(じんちょうげ)の漢名である瑞香(ずいこう)から名前を取った瑞香院という神社。沈丁花の花言葉は「永遠」。一応、温泉も湧いている。かなり面白いので期待して大丈夫。
是非観に行って頂きたい。
流れゆく時の中に
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/02/06 (火) ~ 2024/02/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
本当にテネシー・ウィリアムズってこんな話ばっかなんだな。
第一幕60分
① 『坊やのお馬』
②『踏みにじられたペチュニア事件』
休憩15分
第二幕45分
③『ロング・グッドバイ』
ブリッジ、劇伴として伏見蛍(けい)氏がギターを弾く。
①明け方、泣き止まない赤ん坊。狂ったように喚き散らす若き夫(田崎奏太氏)とミルクを温める若き妻(根岸美利さん)。結婚して一年にも充たない貧しい新婚生活、生後一ヶ月の坊や。職場の鬱憤をぶちまける夫、気の狂いそうな妻、傍らには場違いに置かれた高価なおもちゃの揺り木馬。
②編物を扱う「シンプル小間物店」の経営者ドロシイ(小林未来さん)。店の前で大事に育てていたペチュニアの花が無惨にも踏み荒らされていて、警官(須藤瑞己氏)に犯人逮捕を訴える。その後、すぐに来店した奇妙な男(樋口圭佑氏)は「自分がやった」と名乗り出る。常連客の貴婦人、ダル夫人として二木咲子さんも登場。
③売れない作家のジョー(立川義幸氏)、産まれてずっと暮らしてきた生家である部屋から引っ越すことに。友人のシルヴァ(佐々木優樹氏)が心配して様子を見に来る。倉庫に預ける為、運送屋に運び出される家具の数々。その一つ一つに焼き付けられた鮮烈な記憶が目の前に甦り再生されていく。僅かばかりの保険金を残して自殺した母(二木咲子さん)。貧しい暮らしにうんざりして金持ちの男と付き合う為に自分を変えていった妹マイラ(飯田桃子さん)。妹を売女のように扱う上流階級の男、ビル(須藤瑞己氏)。
ギターの音色が胸を打つ。無名時代のテネシー・ウィリアムズが書き殴った叫び。太宰治もそうだったが自殺前の遺書のように魂を掻き毟りただひたすら書き殴った日々。もう自分ではコントロールの効かないどうしようもない叫び。オー・ヘンリーだったらもっと上手く綺麗にまとめるだろうに。テネシー・ウィリアムズの剝き出しの罵詈雑言に自らを託す表現者達のアンテナ。人間は普遍的に未完成なのだろう。常に足りない何かを求めては足掻き続ける。それがカルマか。
MVPは②の小林未来さんと樋口圭佑氏、完成された演技。だが巧すぎて今後苦労しそう。頭の良さが逆に邪魔になるかも知れない、その先を望むならば。
根岸美利さんが今回出ていなかったな、と思ったら①で思いっ切り出ていた。全く前作と同一人物とは思えない役作り。
飯田桃子さんは綺麗だね、感心する役作り。
是非観に行って頂きたい。
川辺市子のために
チーズtheater
サンモールスタジオ(東京都)
2024/02/03 (土) ~ 2024/02/12 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
吉祥寺で『ヘルマン』を観た際、挟まれていたチラシを読んで気になった。チケットを取ろうと思ったら全公演完売。何か妙に観たくなってキャンセル待ちに申し込んだ。主演の大浦千佳さんが「もう絶対に今後この役をやることはない」とツイートしていたのも一因。運良くキャンセル待ちでチケットが手に入ったが当日はまさかの大雪。「不要不急の外出を控えて」の気の滅入る悪天候。いや逆に凄い作品が観れるチャンス、とばかりサンモールスタジオはガチガチの超満員の客で溢れ返った。素晴らしい熱演をたっぷりと味わい、階段を上ればサンモールの外はガチガチの積雪。ズボズボ靴がめり込んだ。
映画は観ていないので比較は出来ない。劇団の主催自ら監督して映画化、主演に杉浦花さん。
川辺市子役の大浦千佳さんに妙に見覚えがあったが、『柔らかく搖れる』のシンママだった···。凄い振り幅。
語り口が面白い。失踪した一人の女性を巡る、各年代の知人達の回想録。刑事がそれぞれが知っている限りの川辺市子のエピソードを語らせていく。その断片的な話を元に観客は不在のその女性について想像を巡らせる構造。
サンモールスタジオの狭いステージの中心に畳4枚程を組み合わせたスペース。周囲を椅子が逆L字型に囲み、証言者達が座る。
相対するようにL字型に配置された客席、観客はそれぞれの記憶が再現されていく様を息を潜めてただ見守る。通路さえ物語の重要なステージに。
非常に映画的。半纏をすっぽり被って声しか聴こえない大浦千佳さんがしゃがみ込んでいる。その登場シーンからゾクゾクする。「川辺市子は嘘つきだ」との証言や語る人によって状況が食い違う出来事。嘘をついているのか記憶違いなのか妄想なのか?結局のところ、真実は判然としない。煙のように残像のように川辺市子の断片が煌めいては瞬いて、そしてふっと消えてしまった。
驚いたのは刑事役の男。寺十吾氏っぽいなあ、と思っていたら本人だった。ありとあらゆる演劇の重要な役は全部寺十吾氏が司る決まりなのか?マジで驚いた。
平山秀幸監督の名作『愛を乞うひと』や阪本順治監督の傑作『顔』、たっぷりと漬け込んだ今平風味の下味。そして物語を彩るのは甘酸っぱくも激しき痛みの走る恋心、どうにか自分がしてあげられることがほんの少しでも何かきっとあるんじゃないだろうか?何一つ出来やしない無力な男が陥る勘違いの妄想、誰にも益しない醜い純情。周囲にそんな情念を呼び起こす魅力的な女の一代記。
だが彼女が本当に心から求めていたのは無記名の穏やかな日々、ありきたりな単調に繰り返される毎日でしかなかったのに。
是非観に行って頂きたい。
兵卒タナカ
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2024/02/03 (土) ~ 2024/02/14 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
1940年(昭和15年)11月、スイス・チューリッヒにて初演。内容に日本大使館が抗議を入れた。ナチスに弾圧されスイスに亡命したドイツ人劇作家、ゲオルク・カイザーの作品。この5年後に亡くなっている。
1920年(大正9年)、歩兵連隊に入隊したタナカ(平埜生成〈ひらのきなり〉氏)は親友のワダ(渡邊りょう氏)を連れて東北の故郷の村へと帰省する。妹のヨシコ(瀬戸さおりさん)との縁談を進める為だ。極貧の村では英雄である軍人の帰還に大いに沸き立つ。母親(かんのひとみさん)、父親(朝倉伸二氏)、祖父(名取幸政氏)。ありったけの御馳走と酒と煙草を用意して待っている。
衣装や小物など、異国の人間がイメージした日本というコンセプト、ジャパネスク風味。
中国映画、『南京!南京!』にて南京入城の儀式の際、兵隊達が奇妙な踊りを舞いながら行進していく場面がある。それを中国人捕虜達は無言でじっと眺めている。このシーンには大日本帝国という奇妙な国と天皇を崇め奉る祭祀的国家のグロテスクさが炙り出されている。理性では如何ともし難い異様な精神の視覚化。良くも悪くも他者から視えた日本人。
今作もドイツ人の目線で異世界、日本を眺めているようだ。
天井から降りてくるピアノ線に括り付けられたフックに荷物を引っ掛ける。『母 MATKA』でもあった光景。
宙空に浮かぶ球体は国体か?
配役はこまつ座を観ている錯覚に陥る程、揃えてきた。
平埜生成氏は前園真聖やロンブー亮にも似ていて、カッコイイ。観兵式に立つことを許された誇り。
渡邊りょう氏もいい味、名助演。タナカの人となりが伝わる。
瀬戸さおりさんは綺麗だな。泣かせてくれる。
朝倉伸二氏は梅沢富美男みたいで盛り上げる。
かんのひとみさんはもう何をやっていても正解。
素直で従順で上から言われたことに黙って従い、真面目に役割をこなしてきた立派な人間。その行き着く先が非人間的なこの世の地獄。タナカの叫びが耳をつんざくラスト。この支配体系の中で誠実であることに一体何程の価値があるというのか?
これを1940年に日本人に叩き付けたゲオルク・カイザーの恐ろしさ。間違った支配構造を正すのは個人の魂の叫びだけだ。
キャッチコピー「衝撃の最後の5分間!!ネタバレ厳禁!!」
是非観に行って頂きたい。
夜は昼の母
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2024/02/02 (金) ~ 2024/02/29 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
難解。
こういう作品を心から楽しめる人こそが演劇愛好家なのだろう。自分なんかは解読しようと悶々としてしまうので楽しめはしない。だけど役者陣はヤバかった。山崎一(はじめ)氏はもうジャック・ニコルソンに見えた。今、日本で一番金の取れる役者じゃないだろうか。生の彼を目撃する為だけに足を運ぶ価値は充分にある。凄い男。もう原作なんて吹っ飛ばして全ては山崎一氏の夢だった、で良かった程。いろいろ思い返そうとしても山崎一氏しか出て来ない。記憶まで侵食されているのか!
騙されたと思って観てみて欲しい、本当だから。
岡本健一氏はキムタクに見えたり、森田剛に見えたり。今更なんだがいい役者だ。16歳の糞ガキ役で誰にも文句を付けさせない。こういう才人が客を呼び集めることで先に繋がる文化は必ずある。(この手のガチガチの作品が全公演前売り完売とは日本は演劇先進国である)。
竪山隼太(たてやまはやた)氏はやたら人気がある。常に怒り狂っている。
那須佐代子さんはいるだけで作品の格が上がる。何かもう凄いレヴェルにまで来てる。
革命前夜の雰囲気。何かの拍子でこの小劇場から、世界に向かって切り付ける新しいタイプのナイフが勃発しそうだ。それにはまだ見ぬ全く新しい価値観と全く新しい観客が必須。面白いことになりそうだ。
逢いにいくの、雨だけど
スーウェイ
小劇場B1(東京都)
2024/01/31 (水) ~ 2024/02/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
A CAST
横山拓也の代表作ともなれば、そりゃ観てみたいもの。タイトルも詩的で煽情的。
だがいざ観ると、ただただ鬱になった。オリジナルを知らない所為なのか、何か綺麗な巧い話には成り得ていない。個人的にはひたすら鬱。
「受け入れてやっていくしかないじゃない!」
オリジナルは2018年11月初演、2021年4月再演。
勿論脚本の完成度は高く、是非とも一度は観るべき作品であることは間違いない。(佳乃香澄さんは浜口京子っぽかった)。
子供の頃、左目を失明してしまう男とその事故に一端の責任を感じている女の物語。事故の起きた1991年夏と今現在の2018年冬が同時進行で語られる。
BUCK-TICKの名曲、『RAIN』が頭の中で鳴る。
Sing in the rain. 人は悲しい生き物
笑ってくれ 君はずぶ濡れでダンス
いつか世界は輝くでしょうと 歌い続ける
岸辺のベストアルバム‼︎
コンプソンズ
小劇場B1(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ずっと前から東京AZARASHI団を観に行った際、星野花菜里さん関係でチラシが挟まれていた為、気にはなっていた。昨年チケットを購入していよいよ観に行く筈が事情があって行けなくなった。そして到頭今回観ることに。何故かメチャクチャ人気がある。開演前から行列、超満員完売。
笑いのセンスが自分好み、出ている役者も実力派揃い。キャスティング・センスも冴えてる。
春雨(はるれいん)というふざけた名前の女性(波多野伶奈さん)が書いた片思いの妄想ノート。彼女の妄想世界が展開される。そこに現れるジャスティン・バービーというふざけた名前のイマジナリー・フレンド(端栞里さん)。彼女にはやらなくてはならないことがあった。
「南極ゴジラ」の端栞里さんはルックスと使い勝手が良いのか売れっ子に。
子供をバスに乗せ幼稚園に送る同い年の三人の母親。偶然にも全員、子供の名前がソウ。しかも夏子(西山真来さん)、千秋(佐藤有里子さん)、冬美(笹野鈴々音〈りりね〉さん)と季節の名前を持つ。子供達が「地獄に送られる」と泣き叫ぶのが最高。
佐藤有里子さんは存在だけで超面白い。陰謀論者。
西山真来(まき)さんの佇まいも素晴らしい。
笹野鈴々音さんは鵺的の『バロック』が強烈な印象だった。
「人妻JK魔法少女りりちゃん!」
歌舞伎町でホストクラブを立ち上げた大宮二郎氏、スポンサーの星野花菜里さん、アドバイザーの近藤強氏、新人の藤家矢麻刀(やまと)氏、ドキュメンタリーを撮影している宝保里実さん。ダークマン機関?だかなんだかの歌舞伎町地下の鼠王国だかなんだか。
近藤強氏の宮台真司ネタが痛快。「いきなり脱構築か!」
カフェの店員、佐野剛(つよし)氏が個人的MVP。知り合いにかなり似ていて驚いた。ウィレム・デフォー系。
笑いの方向性が最高。星野花菜里さんは久々に観たが間違いない。
短編3傑作
Nana Produce
テアトルBONBON(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
昨年の『いごっそうと夜のオシノビ』がメチャクチャ面白かったので期待大。だが今回は毛色が違っていて笑いは薄い。どちらかというと考え込ませて鬱になる系。だとしたらもう少し深く掘り下げるネタでもあった。ちょっと今回は作品の並びのチョイスが違った気がする。
プロジェクション・マッピングが痛快で見事なものだが、ちょっと邪魔な気もした。役者の顔に投影が被るのは残念。
「日本テレビスポーツのテーマ」でスタート。ジャイアント馬場の入場曲でもあった。
①『さらば鎌玉』
4年付き合って別れた二人、日澤雄介氏と原幹恵さん。最後に引越し先として鎌玉駅徒歩10分のマンションを案内するが···。
劇団チョコレートケーキ演出の日澤雄介氏は宇崎竜童みたいな情けない不動産会社社員を好演。原幹恵さんは豪華。未練タラタラ、よりを戻したい男とそんな気はさらさらない女の一幕。
②『人の気も知らないで』
OLの留奥(とめおく)麻依子さんとやまうちせりなさんがお茶している。同僚の結婚披露宴での余興の打ち合わせをする為、上野なつひさんが到着するのを待っている。後輩が事故に遭って入院中。話は段々と建前と本音の境界を踏み越えて個々の人生観の核心を刺激していく。
留奥麻依子さんは天海祐希みたいで表情で笑わせる。
やまうちせりなさんは奥貫薫っぽい花粉症。
上野なつひさんは有賀さつきみたいな迫力。
③『仮面夫婦の鑑』
浜谷康幸氏と増田有華さんの夫婦が派手に喧嘩。「炎のファイター~INOKI BOM-BA-YE~」(「ALI BOM-BA-YE」)が掛かって、卍固めまで繰り出す。
二人の喧嘩の原因は果たして何なのか?