ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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やなぎにツバメは

やなぎにツバメは

シス・カンパニー

紀伊國屋ホール(東京都)

2025/03/07 (金) ~ 2025/03/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

松岡茉優さんを映画館で観続けた時期があって、『蜜蜂と遠雷』なんか好きだった。かつてのピアノ天才少女が失くした輝きをもう一度取り戻す役。煌めきは今も色褪せていない。笑顔になるとパッと周りの空気を変える。表情でキャラがガラッと変わるので映画向き。ニヤーとしたりカッとなったり。
大竹しのぶさんは相変わらず綺麗。独特のイントネーションが唯一無二の武器なのだろう。怒った時の台詞回しは別人のよう。

大竹しのぶさん対浅野和之氏は必見。ウディ・アレンだ。

「カラオケスナックつばめ」の名物ママが亡くなる。遺言で葬儀にかつての常連客達を招き自宅を改装した簡易BARでもてなす。ママの娘、大竹しのぶさん。常連客で親友の段田安則氏、木野花さん。段田安則氏の息子の料理人、林遣都氏は大竹しのぶさんの娘の看護師、松岡茉優さんと付き合っており結婚間近。そんな中、15年前に離婚した元夫、浅野和之氏が来訪。

流石の横山拓也&寺十吾コンビ。ラストはスタンディング・オベーションに。
必見。

ネタバレBOX

木野花さんがトチリ多く、思い切り大竹しのぶさんの役名を間違えてしまう。大竹しのぶさんは笑って訂正し、木野花さんも「今のはなかったことで」と取りなす。役者も観客も和やかな笑いでフォロー、いい現場だ。

ラスト前まで可もなく不可もなくな印象だったが、ラストが美しい。全ての細かな伏線が生きて大竹しのぶさんの歌が決まる。これは見事!まさに横山拓也節。山田洋次の後継者だ。時代設定を昭和50年代にして映画化が理想だろう。

霧島昇の1947年発表の「胸の振子」、作詞はサトウハチロー。
「柳に燕は貴方に私 胸の振子が鳴る鳴る 朝から今日も」
「煙草の煙ももつれる想い 胸の振子が呟く 優しきその名」

再演は小劇場で青山勝氏演出で観たい。これをどう料理するか?
淵に沈む

淵に沈む

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2025/03/07 (金) ~ 2025/03/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

がらんどうの素舞台、暗転すると最小限の寝台や椅子や机がその都度運び込まれる。闇の中、拘束された寝台の上、日本国憲法を暗唱する男。「基本的人権の尊重」を叫ぶ。「うるせえぞ!」「黙れ!」との声とガンガン壁を叩く音が続く中、男は日本国憲法を訴え続ける。一体、誰に?

ここは精神病院、男(西山聖了〈きよあき〉氏)は東大法学部の学生だった20歳の時、統合失調症を発症、2003年に措置入院。一度退院するも父母への暴力行為で2005年再入院。それ以来20年ここにいる。父親が亡くなり、母親(岡本瑞恵さん)が三男である息子を退院させ共に暮らしたいと願い来院。主治医(鬼頭典子さん)はそれを喜び誠実な対応。精神保健福祉士(ソーシャルワーカー=相談援助、社会復帰支援員)の歌川貴賀志氏。看護師の今井優香里さん。看護助手の小栁喬(きょう)氏。だが精神病院の医院長である田代隆秀氏はそれを快く思わなかった。

役者陣は凄腕ばかり。各人、見せ場あり。鬼頭典子さんのまとった優しい雰囲気の受け答え、歌川貴賀志氏の誠実な魂、今井優香里さんの眼差し。岡本瑞恵さん、小栁喬氏は存在がリアル過ぎ。西山聖了氏の望まぬ病気で失った20年の重み。やはりMVPは田代隆秀氏だろう。文句の付けようがない。

これは救いの物語である。地獄の底で喘いでいる者達を何とか救おうと足掻く人がほんの僅かだが現実に確かにいる。何も出来ない問題に対し何とか救う手立てを考えている。治らない病気で見棄てられた人間をそれでも治癒しようとする。その姿に観客は思い知らされる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

これは仏教、菩薩行についての物語だと思った。他者を救うことにより、自らをも救っていく考え方。兎に角出来ることだけをやろう。出来ないことをあれこれ考えても無意味だ。身の回りの自分に関わっている人間だけでもいい。自己満足の偽善だとしても構わない。苦しんでいる人間を救おう。自分自身を救おう。何故なら全ての人間は救済される為に生きている。

自分は田代隆秀氏演ずる医院長の台詞に共感するタイプなだけに歌川貴賀志氏の純粋な精神に打たれた。利他行、もう宗教的なものすら感じる。他人がどうではなく自分がどうあるべきか。この問題は難しい。一人ひとりと向き合って対話すること。相手の話を真剣に聴いてやること。美味しいコーヒーを淹れる行為に人間社会の安らぎを託す演出。

植松聖をモデルにした映画、『月』を観ていたので小栁喬氏が闇堕ちするのかと少し思っていた。物語の難を言えば医院長が一人の入院患者に過ぎない西山聖了氏にそこまで拘るのが妙。医院長の性格からするとどうでもいい筈。
血の婚礼

血の婚礼

劇団俳小

駅前劇場(東京都)

2025/03/05 (水) ~ 2025/03/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

作曲家の上田亨氏が下手で生演奏。フラメンコ・ギターの音色をキーボードで見事に鳴らす。驚いた。劇中の歌は印象的でいい出来。黒衣の女達がコロスとして詩を朗唱し合唱す。子守唄が余韻に。

母親は早野ゆかりさん。息子である花婿は左京翔也氏。花嫁は小池のぞみさん。彼女の元彼レオナルドは加藤和将氏。彼の現在の妻は新上貴美さん。“月”は福島梓さん。“死”は大久保たかひろ氏。

個人的に女中の西本さおりさんが大活躍のイメージ。実はレオナルドの妻が今作のキーだと思っているので新上貴美さんの薄幸そうな佇まいも好き。

いろいろと工夫が見えて面白い『血の婚礼』。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

フェデリコ・ガルシーア・ロルカは同性愛者だったらしい。学生時代、サルバドール・ダリに熱烈に恋したそうだ。
1928年、スペインはアンダルシア州アルメリア県で結婚式の日、新婦が別の男と逃げ出した。家の名誉の為に花婿の弟が追跡してその男を殺す。この事件は大々的に報じられ、当時は誰もが知るニュースだった。これを元に戯曲化したロルカ。観客は事件の記憶と共に観ただろう。だがロルカは観客の期待とは全く違う文脈でこれを語った。俳優座スタジオで『ベルナルダ・アルバの家』を観たばっかりなのでこの作品の捉え方が随分と変わった。歴史や伝統や土地や一族や誇りやら何やらその全てに支配され抑圧されてきた女の自由への衝動の話だ。花嫁はこのまま支配されて従順に生きるぐらいなら死にたかった。死への旅路にレオナルドを付き合わせた。「自分は死ぬから貴方は逃げて」と言うがレオナルドも全てを捨ててここまで来たのだ。もう何処にも逃げる先などない。そして全てが終わった後に花婿の母親のもとに殺されに行く花嫁。花嫁は自分の真意を伝える。母親もそんな戯言、理解などしたくもないがその気持ちは痛い程よく判ってしまう。何故なら自分もこの地で抑圧されてきた女の一人だから。社会的に禁止されている同性愛者だったロルカは自由への正直な欲望を描いた。喉から手が出る程欲しいものは自由だ。全ての人間は生まれた時から自由であり、それこそが生命の本質。支配や抑圧からの解放、それが人間の歴史。

ただ演出が冗長に感じた。第一幕で必要なものは全てが滞りなく進んでいる空気感。別に何の問題もない婚礼の宴。高揚した新郎と幸福そうな新婦。だがふと新婦の姿が見えなくなる。何か用事でもあるのだろう。特に変な感じはなかった。一生に一度の大切なお祝いだ。何も心配することはない。そこで花嫁が元恋人と馬で逃げたとの報告。そんな馬鹿なことあるわけがない。きっと何かの間違いだ。有り得ない。不意に足元がグラグラし世界がガラスのように割れ砕け散る感覚。
全体的にちょっと説明がしつこいのだろう。何度もレオナルドがじっと物言いたげに背後から見つめている。あちこちを女中が出たり入ったり。観客の気を物語の別の部分に逸らした方が効果的。歌もある。黒衣の女のコロスもある。“月”も“死”も語る。こういう話ですよ、と押し付け過ぎ。敢えて見せない見せ方もあった。花婿のぼんやりとした無表情だけで言葉に出来ないそれが伝えられたとも思う。

小池のぞみさんは歯列矯正中。劇団を背負って立たねばならぬ女優、大変だろう。
女歌舞伎「新雪之丞変化」

女歌舞伎「新雪之丞変化」

Project Nyx

ザ・スズナリ(東京都)

2025/03/04 (火) ~ 2025/03/13 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主演の雪之丞に寺田結美さん。170cmの長身で元宝塚のOGを思わせる華麗さ。
雪之丞役が兼役することが多い義賊・怪盗闇太郎は本間美彩さん。
乳母の浜田えり子さんはオペラの発声練習、ベルカント唱法で盛り上げる。
手塚日菜子さんとRIAさんのダンスは強烈。
軽業のお初に主宰の水嶋カンナさん。

劇団☆新感線っぽい舞台美術。
愛猫家の櫻井敦司氏がヒグチユウコさんの絵本、『ギュスターヴくん』をモデルに作った曲「GUSTAVE」で皆が踊るシーンが良い。
サビの歌詞はズバリ、
「Cat Cat CatCat Cat Cat CatCat Cat
 Cat Cat CatCat Cat's」

「ゲルニカの夜」と「胎内回帰」が重要なキーになる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

何か石ノ森章太郎っぽいと思っていたが、ラストは原作版『変身忍者嵐』!

使用楽曲。

BABEL
ノスタルジア-ヰタ メカニカリス-
獣たちの夜
月下麗人
RONDO
GUSTAVE
ゲルニカの夜
零式13型「愛」
IGNITER
胎内回帰

「イルカの日」の代わりに「螺旋 虫」なんか掛けて欲しかった。

BUCK-TICKはサヘル・ローズさんが大ファンであった関係で、彼女が主演をした「恭しき娼婦」の時、芝居砦・満天星にBUCK-TICKからの花が飾られていて興奮した。
ちなみに自分が初めて観に行ったのは「SEVENTH HEAVEN TOUR FINAL」の日本武道館。

『劇場版BUCK-TICK バクチク現象 - New World - II』というドキュメンタリー映画がちょうど上映中。BUCK-TICKは2023年10月19日KT Zepp Yokohamaにてファンクラブ限定LIVEを行なう。
①SCARECROW
②BOY septem peccata mortalia
③絶界
ヴォーカルの櫻井敦司氏はこの「絶界」を歌い終えた直後に倒れ病院に運ばれ、脳幹出血でその夜に亡くなった。
この映画ではその最期の歌をフルで収めてある。それがまた凄まじい歌で彼の存在と才能がどれだけ唯一無二なものだったかを再認識させる。こんな人間と出逢えて幸せだ。

BUCK-TICK「絶界」

いいか忘れるなよ いいさ忘れちまえ
この世は全部 おまえの夢 Baby ,I Love You.

無常だ 無常だ 無常だ 絶界
退くか 戦闘か 生き抜け 絶界
GIFT

GIFT

metro

小劇場 楽園(東京都)

2025/02/27 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

才能とは何か?役者とは何か?悩める女優にスタニスラフスキーと唐十一郎が御教授してやろう。
太宰治の『斜陽』をまぶして悩める人間の行き先を指し示す。この世界に生きゆく意味はある。

月船さららさんがエロエロ。スタイル抜群でいろんな衣装で登場。もうそれだけで詰め掛けたおっさん共はほぼほぼ満足。妙に密度の濃い観客席。
渡邊りょう氏はいいねえ。この地下世界に水が合っている。最初からここに居たようにすいすい泳ぎまくる。

「私には、行くところがあるの」
「私ね、革命家になるの」

内容は若松プロの大和屋竺作品みたいな自主映画。映画を撮るには予算がない連中は小劇場で(脳内)撮って出ししかない。金が無いなら惜しみなく才能を注ぎ込め。そんなもの只だ。観た後に客に残る感覚は同じもの。要は突き付けること。
日活社長・堀久作が観たならば、「解らない映画を作って貰っては困る」と即解雇されるであろう作品。それでこそ創るべき価値、観に行く価値がある。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

盲目の女(月船さららさん)が木の棒を杖代わりに歩いて来る。空襲だろうか、倒壊した瓦礫の山。手探りで柱に辿り着くと各面に木の人形を三体吊るす。そして人形に五寸釘を石で打ち込む。「終われ!終われ!終われ!」。そこに現れた銃を構えた兵士(影山翔一氏)。女が落とした煙草を拾って銜える。そして女の胸ぐらを掴んで脅すと背を向け地蔵に向かって放尿。女は隙を見て掴んだ石で兵士の後頭部を殴りつけ、掛けられていたストラップで首を全力で絞める。倒れる兵士。銃を奪って引き金を引く。銃声。また人形に五寸釘を打ち始める。「終われ!終われ!終われ!」。

それはスター女優、星影(月船さららさん)のよく見る夢。垣乃花(渡邊りょう氏)という男が精神科医宜しく分析する。垣乃花の話し振りはまるでメフィストフェレスだが「悪魔程下品ではない」とうそぶく。女優を辞めようと考えている星影。理由もなく天より与えられたGIFT(才能)は理由もなく空になってしまった。
垣乃花は地蔵菩薩(マメ豆田さん)を見せる。釈尊が入滅し56億7000万年後に弥勒菩薩が降臨することになっているが、それ迄の無仏時代の間、衆生を救済する誓願を立てたという。実は地蔵菩薩と閻魔は一心同体。地獄の責苦を与えつつ、救済を続ける永久機関。戦前の日本から岡田嘉子と杉本良吉と共にソ連へと。そして演劇革命家メイエルホリドから師である晩年のスタニスラフスキーのもとへ。今、目の前に立つ地蔵菩薩の背には確かにスタニスラフスキーのサインが彫られている。

そして現れる御大スタニスラフスキー(影山翔一氏)。
リアルな演劇を求めた劇作家チェーホフと演出家スタニスラフスキー。表示の芸術(役を演じる)と体験の芸術(役になりきる)の違いとその統合を説き、「役を生きる芸術」スタニスラフスキー・システムを構築。

戦後、GHQによる農地改革が行われ、青森県の大地主だった実家が荒廃していく様を見た太宰治、「これは(チェーホフの)『桜の園』そのものだ」と受け止め『斜陽』を執筆。

『斜陽』に描かれる没落貴族のかず子(月船さららさん)とその弟で薬物中毒の直治(渡邊りょう氏)。見つけた蛇の卵を庭で十ばかり燃やしたこと。それ以来母親らしき女蛇がじっと一家を眺めているような気がしていること。

唐十郎の弟を自称する唐十一郎(影山翔一氏)が地獄の説明を始める。アングラ=アンダーグラウンド(地底)、掘った先にあるのは地獄。「地獄は実在する」と綴った男もいた。

バットマン=ブルース・ウェイン(渡邊りょう氏)とキャットウーマン=セリーナ・カイル(月船さららさん)のシーンは作家がどうしてもやりたかったのだろうか?

「(この社会が何の為にあるのか)教えてあげますわ、女がよい子を生むためです。」

冒頭のシーンは晩年の橋本忍脚本作、『愛の陽炎』のオマージュかと思って興奮した。演劇で『幻の湖』をやる気か?
文句を言うなら長過ぎるのと会場の温度設定が暑すぎるのが残念。眠気と戦う観客達。『斜陽』パートが素晴らしかっただけに、坂口安吾の『青鬼の褌を洗う女』テイストでこれをメインにすべき。『斜陽』を演じながら「演じるとは何なのか?」に葛藤する女優の精神の地獄巡りの方が観客にとって解り易い。
ズベズダ

ズベズダ

パラドックス定数

ザ・ポケット(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第三部 1964〜2025

今三部作のテーマは唯一つ。SF小説の始祖、ジュール・ヴェルヌの言葉。「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」。想像できるということは実現可能ということ。その糸口を探せ。
コロリョフは人類史上初となる月探査衛星に「メチタ(夢)」と名付けた。最後まで夢見る男。

松本寛子さんがいい味。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

1964年10月14日、ニキータ・フルシチョフはクーデター同然に失脚。レオニード・ブレジネフが書記長の座に就いた。ブレジネフは宇宙開発にそこまで力を注ごうとはしなかった。

1966年1月14日、コロリョフの突然の死。ヴァシーリー・ミシンが後を継ぐ。
1967年4月23日、ソユーズ(連合)1号を打ち上げるも初の死亡事故に。以後、打ち上げ失敗と死亡事故が続きNASAに差をつけられていく。
1969年7月20日、アポロ11号が有人月面着陸に成功。
1970年10月31日、ソ連は月接近飛行計画を中止。
1974年6月23日、ソ連は有人月面着陸計画を中止。

チェルノブイリ事故、ソ連崩壊、ウクライナ侵攻と現在までのソ連、ロシアの歴史が描かれる。ソ連崩壊で祖国での宇宙開発を諦めた前園あかりさんはアメリカに道を求める。岡本篤氏と松本寛子さんは結婚し、イワン・イワノヴィッチ人形と3人で暮らす。時々TVで見かける自分達の青春が詰まった数々の宇宙船。そしてプーチンのウクライナ侵攻に老いた岡本篤氏は反戦デモに参加しようとする。必死で止める松本寛子さん。「私を独りにしないで!」
戦争で使われているロケット(ミサイル)には自分達が必死で開発した技術が使われている。こんなことの為に研究した訳では決してない。宙へ!宙へ!宙へ!ロケットが飛ぶべき方向は果てしなき宇宙なのだ!

自分的には2021年の青年座版の方が好き。円周状の通路をぐるぐるぐるぐる歩き廻りながら激論を飛ばす横堀悦夫氏が最高だった。今回はディレクターズ・カット最長版の趣き。見事なソ連史になっている。当時を知るロシア人に感想を聞いてみたい。
ズベズダ

ズベズダ

パラドックス定数

ザ・ポケット(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第二部 1957〜1964

1958年7月29日、ソ連への技術の遅れを挽回する為にアイゼンハワー大統領はNASA(アメリカ航空宇宙局)を発足させ、猛然と追い上げを図る。
今作こそこの三部作の魅力の要。セルゲイ・コロリョフと姿を見せぬヴェルナー・フォン・ブラウンのソ米対決こそが肝。メチャクチャ面白い。「お前ならどうする?」
必見。

ネタバレBOX

1957年11月3日、スプートニク2号。「次は生物を宇宙空間に送ろう」との考えで選ばれた雌犬ライカ。打ち上げから6時間後には死んでしまったが、その事実は隠蔽された。世話をしていた岡本篤氏の苦しみ。イワン・イワノヴィッチ(イワンの息子)と名付けられた実験用等身大人形を可愛がる。1961年4月12日、ヴォストーク(東)1号でユーリイ・ガガーリン(鍛治本大樹氏)が世界初の有人宇宙飛行に成功。世界中に名前を轟かす。

恐怖政治の独裁者スターリンが死去し、後継者フルシチョフはスターリン時代を否定した。国際連合総会で平和共存を訴え、訪米、訪中。華々しい世界平和への友好ムードは長くは続かない。フルシチョフは海外を訪問する度にロケットを打ち上げ、ソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)の脅威を印象付けた。1959年、キューバ革命によりアメリカの傀儡政権を打倒したキューバが社会主義国を宣言。アメリカのすぐ150km南の島国。1961年、ベルリンの壁の構築。1962年、キューバの要請によりソ連が核ミサイル基地の建設開始。ケネディ大統領は海上封鎖によってソ連の輸送船の航行を阻もうとした。いよいよ核戦争が始まるのか?「キューバ危機」に世界は固唾を呑む。

1963年6月16日ヴォストーク6号でワレンチナ・テレシコワが女性として初めて宇宙飛行をした。
ズベズダ

ズベズダ

パラドックス定数

ザ・ポケット(東京都)

2025/02/20 (木) ~ 2025/03/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一部 1947〜1957

第二次世界大戦の終結が見え始めた頃、連合国のアメリカとソビエト連邦はその後の世界情勢を見据える。この二つの大国の覇権争いになると。敗戦間近のナチス・ドイツは科学技術力が圧倒的に優れていた。この技術を自国のものとすべき、決して奴等に渡してはならない。
1944年に世界初の弾道ミサイルを開発した天才、ヴェルナー・フォン・ブラウンはアメリカにスタッフ数百人と亡命する。
一方、ソ連は研究者を家族込みで2万人拉致。ゼーリガー湖のゴロドムリャ島に監禁、その技術を徹底的に吐き出させた。

主演のセルゲイ・コロリョフ役植村宏司氏が第一声から声が枯れていた。三部縦断上演、大丈夫なのか?と不安が走る。だが何とか持ち直し最後には気にならなくなる。物凄い台詞の量、化け物に見えた。短髪の亜麻色の髪、遠目だと魔裟斗っぽい。少年時代からの空への夢、グライダー、航空機、更に宙へと。宇宙にまで人間は飛んで行ける。あらゆる困難を乗り越え、コロリョフは敵国に向けたロケット(ミサイル)の目的地を月面へと変えていった。国威発揚の名のもとに。

第一部のもう一人の主人公、アルベルト・レーザ(大柿友哉〈ゆうや〉氏)。後にソ連に帰化したナチス・ドイツの工学者。戦争協力なんかの為ではなく、セルゲイ・コロリョフの夢に賭けた。月に人は立つのだ。それは決して不可能なことではない。人間の叡智は更に進化していく。必ず成し遂げる。限りなく頭脳をフル回転させてそこにまで辿り着く。人間は生きながら進化できる稀有な生物だ。必ず行くのだ。

コロリョフと複雑な関係にあるエンジン設計士ヴァレンティン・グルシュコ(神農〈かみの〉直隆氏)、ロケットエンジン開発の要。1933年ジェット研究所で出会ったコロリョフとグルシュコは互いの才能を認め合った。だがスターリンの大粛清が始まり、密告が奨励される世の中に。1938年、グルシュコは反体制派の嫌疑で投獄、禁錮8年の刑。苦境に立たされた彼は司法取引に騙され、無実の同僚コロリョフを反体制派として告発してしまう。冤罪のコロリョフはシベリアの強制収容所コリマ金鉱山に送られ10年の刑。栄養失調からの壊血病で全ての歯が抜け落ち心臓病を患う。この地に送られて死んだ者は100万人を超えた。コロリョフの罪が免除されたのは1944年。後に自分を陥れた者がグルシュコであることを知る。当時の政治情勢として仕方ない事とはいえ、ずっと心の底に残るわだかまり。互いの能力を認めつつ、複雑な感情の人間関係は一生続いた。

岡本篤氏、前園あかりさん、松本寛子さん、3人組のキャラ立てが巧い。少ない人数で大河ドラマを綴るにはキャラとエピソードの凝縮と選別が要。

MVPはフルシチョフ第一書記役の今里真氏と国防工業大臣ドミトリー・ウスチノフ役の谷仲恵輔氏。JACROWを観ているような手慣れた手腕の政治劇。この二人のハイテンションで客席がパッと明るくなる。成田三樹夫や小池朝雄、遠藤辰雄の風格。出て来るだけで盛り上がる。

驚くのはこんなガチガチの理系話に詰め掛けた女性客の多さ。野木萌葱さんの信望か?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

劇中には登場しない二人の天才。

ヴェルナー・フォン・ブラウン。ナチス・ドイツのV2ロケットを開発し英国中を恐怖に陥れた。最大射程距離は320km、マッハ4で飛ぶ1tの爆薬を積んだミサイル。アメリカに亡命後は宇宙開発の責任者となり、「米宇宙開発の父」と呼ばれる。アポロ計画を立ち上げ、有人月面着陸を成功させた。

コンスタンチン・ツィオルコフスキー。19世紀のロシア帝国で「ツィオルコフスキーの公式」を発表し、ロケットで宇宙に行くことが可能であることを証明した。「宇宙旅行の父」と呼ばれセルゲイ・コロリョフに多大な影響を及ぼす。世界初の人工衛星「スプートニク(付随するもの)1号」はツィオルコフスキー生誕100年に合わせて打ち上げられた。

多分、アルベルト・レーザは複数の人間を組み合わせた架空のキャラクターだろう。ルカーシャ、サーシャ、レーリャも多分そうではないか。

マニアックな米ソ宇宙開発競争を叙事的に綴る。ディレクターズ・カット最長版の趣き。
話自体は暗く淡々としていて余り盛り上がらない。来たる“物語”への「序章」として静けさを積み上げていく。

1957年10月4日、ソ連は世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功。0.3秒ごとに発信される信号音は世界中で受信され「スプートニク・ショック」と呼ばれた。世界で最も優れた国家はソビエト連邦であることの宣言。休憩中もずっと鳴り続けるシグナルの余韻。
Soul of ODYSSEY

Soul of ODYSSEY

小池博史ブリッジプロジェクト

ザ・スズナリ(東京都)

2025/02/22 (土) ~ 2025/02/28 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

凄く面白い。

古代ギリシアの英雄、オデュッセウス(リー・スイキョン氏)は小さな島国イタケーの王。トロイア戦争で活躍したものの帰還せず、亡くなったと思われていた。その妻である王妃ペネロペ(森ようこさん)は絶世の美女で、各国の王子が求婚者として王宮に住み着いて帰らない。3年もの間、肉を喰らい酒を飲み女官を抱いて王宮を荒らしオデュッセウスの財産を食い潰していた。それにうんざりした王子テレマコス(アドラン・サイリン氏)は父親を捜す旅に出る。

空間演出家・小池博史氏は多民族国家のマレーシアに注目して国際共同制作を。異なる文化の融合と調和こそが今後の世界の鍵となる、と。飛び交う英語日本語北京語広東語マレー語(イタリア語やスペイン語のような言葉も聴こえたような)。古代ギリシア劇、京劇、能楽、イタリアの道化師幕間コント、日本舞踊、ロックにラップに歌謡曲・・・。ミクスチャーの塊だがそこに一貫して観客を退屈させない姿勢が見える。多言語でも奥のスクリーン上部に字幕が映し出されるのが親切。可動式の小さい幕に役者がハンディカムで撮影したものをリアルタイムで映し出す演出も。役者と映像を共演させたりもする。(森ようこさんまで撮影に回る場面も!)
ステージ上手に片開き戸になった壁掛け、ざっと60以上の扇風機とサーキュレーターが据え付けられている。それが開くと海上の暴風となりド迫力。
客席最前列下手でサントシュ・ロガンドラン氏が鳴り物を叩き、上手の太田豊氏がサックスやエレキギターを生演奏。
役者陣は白塗りに思い思いの奇妙なメイク。コンテンポラリー・ダンスのような踊り。『マハーバーラタ』を思わせる多種多様な民族衣装。

主演のリー・スイキョン氏は劇画調の顔でカッコイイ。
美貌の王妃、森ようこさんは凄まじかった。岩下志麻系の正統派美女なのに魂がPUNKなのだろう。ファンなら必見。
王子、アドラン・サイリン氏は万有引力っぽい。
陽気なティン・ラマン氏とヒールのセン・スーミン氏は観客を下ネタで盛り上げる。
海神ポセイドーン、今井尋也氏の唸りは本物。
一つ目巨人ポリュペーモス(セン・スーミン氏)のエピソードは愉快。
魔女キルケ、西川壱弥さんはエロい。
女神カリュプソー、津山舞花さんのかかと落とし。

冥界のシーンは幻想的で美しい。鏡とビデオカメラを使い能面の死者達と不思議な踊りでの邂逅。死の無常感に感じ入るオデュッセウス。選曲もセンス良い。

クリストファー・ノーラン監督の次作もマット・デイモン主演の『オデュッセイア』。2800年前にホメーロスが生み出した苦難の旅が今世界に求められている。憎悪の連鎖、欲望の果て、死人の山。現在と何も変わらない人間の業。世界語で綴られる『オデュッセイア』。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

開演前は死体を模した丸まった衣装がそこらここらに転がっている。ラストに同じ光景で終わる無常観。

ずっと同じことを繰り返し続けている人間の虚しさ。冥界のシーンが素晴らしかっただけに、もう少しメッセージ性があると尚良い。(死者達が争いを止めようと必死に追いすがるも誰も見向きもしないとか)。

※前半は『サテリコン』などフェリー二っぽさを感じた。
※森ようこさんの上腕が力を入れると太い。
ユアちゃんママとバウムクーヘン

ユアちゃんママとバウムクーヘン

iaku

新宿眼科画廊(東京都)

2025/02/21 (金) ~ 2025/02/25 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

何か変なリーディング公演だなと思って観ていた。横山拓也氏の「小説新潮」に書いた小説を講談師の神田松麻呂氏が絶妙の喋りで語り下ろす。ストーリーテラーであり、主人公・トラベルライターの「ジュンくんパパ」でもある。小学生の息子の所属するサッカーチーム「レアル岡町」。そのクラブマネージャーでもある「ユアちゃんママ」に橋爪未萠里さん。小説を講談師と俳優に託したら面白いんじゃないか、との試み。確かに何だかよく分からない新しい感触。

ドイツで本場のバウムクーヘンの食べ比べの仕事、硬くて甘くなくスパイシーで洋菓子っぽくない。その原稿をどう仕上げるか思案の主人公。締切が迫る中、息子のサッカーチームの合宿の下見の為、長野県戸隠にコーチと行かなくてはならなくなる。だがコーチが突然の高熱、代わりに駅にいたのは可愛くて魅力的な「ユアちゃんママ」。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

艶笑コメディかと思っていたがラストまで来ると驚く。もっと描き込んだら映画になるネタ。成程、そういう仕掛けか。
お伽の棺

お伽の棺

有限会社ベルモック

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/02/19 (水) ~ 2025/02/24 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

二面の客席に挟まれた舞台。囲炉裏を中心にした板間。四隅の蝋燭に火を点ける。登場人物はちょっとアイヌっぽい出で立ちにも見える。引き戸の開け閉めの音を平台の側面に備え付けた小さな木のスライドの音で表現。機織りの音も算盤を使ったりの工夫。(鈴木めぐみさんの発案らしい)。全て役者達でこなす。

『鶴の恩返し』の横内謙介流解釈。『いとしの儚』に感覚が似ている。肉欲と残酷で醜悪な暴力に塗り潰される無力な弱者が、この世のものとは思えない程美しい光景を垣間見る刹那。負の絵の具を塗りたくった先に見えた異形の曼荼羅。

決して嘘をついてはならない掟がある貧しい寒村。稲葉能敬氏は雪道で行き倒れになった高橋紗良さんを見付け、家まで運ぶ。だが母である鈴木めぐみさんは「余所者は危険だから棄てて来い」と命ずる。稲葉氏は母の言いつけに逆らったことがなかった。ずっと女房が欲しかった稲葉氏、若い女を手放すことに苦悶するも母の剣幕に負け、女を連れて外へ。だがやはり連れ帰って来てしまう。

稲葉能敬氏は性欲と村の掟と母からの支配に苦しみ悶える男。小心者で嘘をついた己の良心の呵責に苛まれ、そして何一つ出来ない。
鈴木めぐみさんは息子を支配する母親像の権化。
高橋紗良さんは適役だと思う。何者だかはっきりとしない陽炎、蝋燭の炎の揺らめき。
北直樹氏は村の男で村一番の権力者の長者に織物を納めている。

高橋紗良さんが織る見たこともない美しい真白な織物。降り積もった雪より白く、丹頂鶴のような艶やかさ。その白さに聖なるもの、尊きものまで感じさせる。
ラストは鮮烈。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

鈴木めぐみさんが序盤で殺されるのは残念。もっと観たかった。性欲の高まりで衝動的に殺したように見えるのは残念。それが狙いなのかも知れないが。

高橋紗良さんは異人だが、アイヌっぽくはない。樺太(サハリン)の少数民族ウィルタ(オロッコ)のイメージ。ニヴフ(ギリヤーク)ではないような。三日三晩徹夜で籠もり機織りを完成させるなど非人間的な面も感じさせる。

この物語の核に村の掟の真の目的がある。長者から絶対的な信用を得て、年貢徴収を村人の自主管理に任せて貰うこと。納める年貢の量を少しでも減らして村人の取り分を増やさないことにはとても暮らしてはいけなかった。支配者を騙す為に善良な村人を演じる必要があったのだ。支配者から少しでも不審に思われてはならない。母殺しなんてあってはならない。全ては余所者の異人の仕業、退治するのだ!ただ愚直に村の掟を信奉していた稲葉氏は世界が崩れ落ちる様を見る。全ては嘘だった。

演出の狙いに粗が見える。母子の愛、男女の愛を丁寧に描かないとラストは生きない。ちょっと違う気がした。ラスト前、天井から布が囲炉裏に落ちる。それが引き上げられて無惨に血塗られた反物、飛び去った白い鶴となるのだが、その仕掛けの仕込みを見せちゃ駄目だろう。勿体ないな、と思った。その美術は見事な物だっただけに。

ツルミビタン=鶴身美反?
エアコンの自動運転なのか、二度程作動音が始まったのが雰囲気を壊して残念。
地上最後の冗談

地上最後の冗談

銀プロ

OFF OFFシアター(東京都)

2025/02/18 (火) ~ 2025/02/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

韓国演劇界、注目の喜劇作家オ・セヒョク。みょんふぁさん一推しで今作の翻訳も担当。ブラックな笑いを売りにしているらしい。舞台は捕虜収容所。台詞は関西弁、九州弁を多用してニュアンスが日本人にもよく伝わってくる。駄洒落などかなりテキレジしているのだろう。
順に処刑される事が決まっている捕虜達は死の恐怖に怯えている。端の部屋の五人は足音と銃声のサイクルから、自分達が殺される迄の時間を想定する。

効果音と演奏を担う藤崎卓也氏が下手に座る。ブリキ缶のようなカホンに跨りパーカッションとしてリズムを刻む。口笛。赤い太いホースを吹いて銃声に。鏧(きん)を叩く。棒ざさらの音。

捕虜収容所の端の部屋の五人。
佐藤B作氏は次長課長河本の「おめえに食わせるタンメンはねぇ!」の声質に似た作り声が漫画チックでよく通る。この中で一番目上だと威張っている老兵。
長橋遼也氏はフジモンみたいで心根があったかい奴。
清田智彦氏は笑いのセンスが残念ながら兎に角ない奴。
佐藤銀平氏は熱血漢。
宮地大介氏はコミカルなリアクション。

逃れられない死が間違いなく順番に訪れる。とても受け入れ難い恐怖。更にそこに予期せぬ新入りが放り込まれる。しかも少年兵。年端もいかぬ子供を徴兵し戦地に送り込む国家の非道さ。もう銃殺まで数十分しかないのだ。

少年兵は宏菜さん。やっぱ凄い天性の勘。甲高い笑い声が「ケケケケケ」と飛び出て皆ゾッとする。
有馬自由氏は敵兵、銃殺の執行役。香港功夫映画に出てきそうなユーモラスなヒールできっちり決めてみせる。

上質な役者陣の醸し出す緊張感。超満員の観客が押し寄せた。佐藤B作氏の集客力か?生と死の極限状況で人間が出来ることとは?サルトルの『壁』のフリー・ジャズ。
是非観に行って頂きたい。
この豪華全キャストのサイン入りポスターが何と1000円!!

ネタバレBOX

済州島(チェジュド)四・三事件という内戦がモデルだそうだ。韓国の南にある火山島、済州島。1948年アメリカ支配下の韓国で共産主義的な思想を持つと見做された島民への大虐殺が行われる。3万人以上が殺され、島にある村の7割が焼き尽くされた。

中盤、宏菜さんの髪が帽子から全部出てしまい、「実は女だったのか!」となるのかと思ったら皆無視。何事もなかったように進行。ミスなのかと思ったらクライマックス、自ら帽子を叩き付けるシーンもある。演出の技の一つなのだろう。

佐藤銀平氏VS宮地大介氏の小噺合戦位から停滞感。やっぱ笑いの狙いがちょっと違う。笑いには厳しくあって欲しい。

宏菜さんVS佐藤B作氏も見もの。ラストの佐藤B作氏の長い独白はシェイクスピア劇みたいだった。

死とは何なのか?ある種の救いなのか?“死”を許すことか?
トウカク

トウカク

ラビット番長

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2025/02/14 (金) ~ 2025/02/18 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

(A)
奨励会からプロ棋士になれずに脱落した男(渡辺あつし氏)、書いた将棋小説が話題を呼びTVで特集される。共に番組に出演するのは奨励会同期で名人戦に挑戦するまでになったプロ棋士(三浦勝之氏)、陽気なアナウンサー(江崎香澄さん)。

小説の主人公は天野宗歩(そうほ)。江戸末期、世襲制だった名人位にはなれずとも実力最強の棋士として名を残す。殆ど彼についての文献は残っていない。残るのは棋譜のみ。読み込んだ棋譜から彼の生き様を類推する作品。

TV番組の公開収録の設定でありつつ、江戸時代の空間にタイムトリップした3人が天野宗歩の生涯を観察していく形。まずは天野宗歩の死後に廃墟となった住家。彼は刃物で目茶苦茶に斬り刻まれて殺されていたという。余程の怨恨か?そして床にばら撒かれていた将棋の駒。一つだけ足りない。

不潔でだらしなく酒に溺れ将棋以外何の取り柄もない天野宗歩(大川内延公氏)。
義理の父である大橋本家十一代大橋宗桂(井保三兎氏)。
その息子、宗珉(宇田川佳寿記氏)〈史実では大橋分家の八代当主〉。
家元出身以外で初の名人位となった十二世名人・小野五平(東野裕〈ゆたか〉氏)の若き日。
江戸時代の将棋家元三家は大橋本家、大橋分家、伊藤家。
伊東家の当主伊藤看寿(野崎保氏)、詰将棋の天才作家として名を残す一族。
実在した盲人棋客・石本検校(松沢英明氏)。
賭け将棋の胴元・剛吉(西川智宏氏)。
女郎屋の女将お時(柴田時江さん)。
労咳持ちの遊女・お龍(満〈みちる〉さん)。
その妹、お菊(花田咲子さん)。

西川智宏氏がMVP。内田健介氏と存在感がだぶる。物語を回すのはこういう粋な人物。
柴田時江さんも作品の文鎮。きっちり場を押さえてみせる声。もう一つの役も観客を興奮させた。
満さんと花田咲子さん姉妹も配役の妙があった。

ネタバレBOX

ヒールの剛吉がお菊を使っての賭け将棋。別室の伊藤看寿と石本検校が指し手を決め、通し(サイン)でお菊に伝える。出演陣が少なく限られている為、狭い世界で回している感覚になってしまうのが残念。伊藤看寿がこんなことをやるべきではない。

お菊の話をもっと膨らませて歴史には残らなかった天才女流棋士の物語を絡ませても良かった。
渡辺あつし氏が小説を書きつつ天野宗歩の棋譜の謎に躓く方法論もあった。「何故こんな将棋を指したのか?」をテーマに納得いく仮説を立てていく。そこで天野宗歩は死んでいない結論に辿り着く。棋譜版『ダ・ヴィンチ・コード』。

語り口は面白いがテンポが悪い。話が賭け将棋の単調な繰り返しばかりで盛り上がらない。登場人物達が自由に生きていない。ただ、無から力尽くで棋士の生き様を創造する作家の苦しみは察するに余りある。作家の過渡期の生みの苦しみなのだろう。

『トウカク』の意味は解らない。「頭角」(天才)に角を打つ意味を込めて「投角」のダブルミーニングか?
人ハ落目ノ ココロザシ

人ハ落目ノ ココロザシ

劇団1980

駅前劇場(東京都)

2025/02/12 (水) ~ 2025/02/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

面白かった。
別役実っぽいセンス。星新一の中編小説っぽい。真鍋博のイラストのような幾何学的な背景もセンス良い。

無料の身の上相談所、カウンセラー(神原弘之氏)、その助手(上野裕子さん)、受付(木之村達也氏)。ハシモトという相談者が訪れるらしいがなかなか来ない。来るのはすぐに「ゴメンナサイ」と謝罪する口数の多い老人(柴田義之氏)。話が噛み合わず酔っ払ってるのかと勘繰る程。そこに和服の女性(一谷真由美さん)が乱入して来る。
「順番を待って下さい」「私は急患よ!」
身の上相談の急患ってのは一体何なのか?老人はその話が聴きたくて順番を譲る。

次から次から一癖も二癖もあるモンスター相談者が襲い掛かってくる窮地。カウンセラーは無事彼等の悩み事を捌き、道を示してやれるのだろうか?

巨体のヤクザ役の寺中寿之氏が豪快。安田顕と富澤たけしを足したような。
その連れの女役、山田ひとみさんも強烈。『いつかギラギラする日』の荻野目慶子みたいなアバズレ。
MVPは柴田義之氏、文句なしに巧い。

次回はなんと東京芸術劇場シアターウエスト!劇団の勝負を懸ける気だ。どちらも是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

宗教批判を随所に忍ばせている。何も決断出来ない人達を代わりに誘導していくのが仕事。選択に正しいも間違いもない。

皆で声を合わせ誰かの発言を復唱して訊き返す流れが面白い。テンポとリズムが心地良い。もっと笑いにうねりがあれば尚良かった。
美しい日々

美しい日々

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2025/02/11 (火) ~ 2025/02/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

松田正隆戯曲の謎。
多分、『月の岬』しか観ていない自分にとっては謎でしかない世界。『月の岬』は訳が分からないが気になって仕方がなかった。思わせ振りな作劇、暗に考察を要求している。答えのない謎掛け(マクガフィン)狙いの作風なのか?それとも答は厳然として在るのか?

1997年の戯曲なのだがそれにしても随分古い設定。当時観たとしても70年代のドラマ風、山田太一や「神田川」の世界。ある種のパロディーとして観てしまう。(元々は高校教師の設定だったが今回は変えているのか?会話の内容から大学院に在籍しながら予備校講師をしているのかと思った)。

第一幕の舞台は古い共同アパート。風呂は勿論なく、トイレも流しも共用。隣室の男が置き忘れた果物ナイフをこれ幸いと使ってしまうような。

主演の風邪をこじらせている先生、横田昂己(こうき)氏は中迫剛っぽい。結婚を前にして悩み苦しむ。
ストーカーのように付きまとう教え子、萬家(よろずや)江美さんは平成バンギャファッション、何故かガンズTシャツ。
結婚を目前とした婚約者、高岡志帆さん。
親友でもある同僚、篁(たかむら)勇哉氏の買ってきた林檎。
もう一人の同僚の中村音心(そうる)氏。大野智っぽい。

その隣の部屋では働かない兄が妹に金をねだっている。
石井瞭一氏は若き伊藤克信風の世間に敗残した弱者。
その妹、水商売の飯田梨夏子さんは色っぽくて気になる。
浮世離れした恋人、齋藤大雅氏には何故か見覚えがあった。

ボロアパートの二階、二つの部屋で起きる諍い。どうしたらいいか自分では本当に分からなくなって、人を殺めてしまう。答が暴力にしか見出だせなかった。

自分的には篁勇哉氏と飯田梨夏子さんがMVP。
篁勇哉氏は名助演。昔の友人に似ていて好感。お人好しの優しい奴。いろんな役が出来そうなので使い勝手が良く引く手あまたになりそう。

驚くべきは第二幕。一体、これは何の話なのか?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

働かない駄目兄(石井瞭一氏)と体を売らされる妹(飯田梨夏子さん)のエピソードはベタすぎてコントのよう。『Dolls』のような展開。これは狙いなのか?

第二幕は熊本県宇城市の弟(中村音心氏)の家。弟は熊本の家に養子になって育ち今では市役所務め。子供のいない若夫婦の家に仕事を辞めて世話になる主人公。日がな一日、釣りをして時間を潰す。厭世的な日々。

第一幕の役者達が別役で登場する。これは戯曲の指定なのか?意図的な配役なのか?(逆のキャラをわざと演じさせる)。

特別出演的な椎名和浩氏を除いて、二役を兼ねない者。
主人公、横田昂己氏。
親友の篁勇哉氏。
妹の恋人を滅多刺しにする石井瞭一氏。
そのショックで気が狂う飯田梨夏子さん。
熊本の苦い過去を背負う女、石川愛友(あゆ)さん。
この五人、理由がありそう。

旧暦8月1日(現在の8月下旬〜9月頃を推移)に八代海に見られる蜃気楼現象、不知火。海の上に灯る幾つもの炎。一年の内、数日の深夜だけにしか見る機会は訪れない。
石川愛友さんはそれを見た。願いが叶うとの言い伝え。ただ自分の欲望が叶うのではなく、本人にさえ気が付かなかった本当に根源的に望んでいた願いが叶うのだ。その成就が怖いと言う。自身の圧し殺していた欲望が明るみになることが。

不知火に向かって歩く主人公のラストに入水自殺をイメージする人も多いだろう。だがそんなホンではない。不知火に自分さえも気付かなかった自身の本当の願いを照らされた男の歩く背姿だ。名前を棄て過去を棄て、この世界と身一つで向かい合いたいとの覚悟。執筆当時の時期的にオウム真理教信者の心境を重ねる。全ての俗世間から脱してただ“生きる”のだ。
勿論そんな戯れ言が結実する呑気な世界ではない。何にも出来ずに叩きのめされ思い知るだろう。自分は甘かった、と。現実の生活の日々で全てが置き換えられていく。自分なんてものはそもそも初めから何処にもなかった。何にもなかった。

そこでやっと思い当たる。演劇研修所長・宮田慶子さんがこの戯曲を修了公演に選ぶのは実に3度目。生徒に告げるべきはこのラストにあったのだろう。不知火を見た者は己の宿業と向かい合わないといけない。お前達は見た。粛々と歩め。「犀(さい)の角のようにただ独り歩め」

SION「からかうなよ」

醜いのは当たり前さ
綺麗なものなんて何処にある?
いつだって最高の報いにですら
最低の恩返しもできねえ
女性映画監督第一号

女性映画監督第一号

劇団印象-indian elephant-

吉祥寺シアター(東京都)

2025/02/08 (土) ~ 2025/02/11 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

所々欠けた木製の梯子が十余り舞台上部に吊るされている。映画のフィルムをイメージしているのだろう。欠けたフィルム、一体何が欠けたのか?

1959年(昭和34年)、京都の坂根田鶴子(たづこ)55歳の家を訪ねて来た映画プロデューサー(藤井咲有里さん)と助監督(岡崎さつきさん)。岡崎さつきさんは浜野佐知(300本以上ピンク映画を撮っている女性監督)をイメージした鋲の付いたPUNKな革ジャン姿。
坂根田鶴子(万里紗さん)が1934年に書いた手書きの準備稿を押入れの奥から探して持って来る。『Daddy-Long-Legs』。
結局その企画は実らず、1936年『初姿』を日本の“女性映画監督第一号”として撮ることとなる。当時32歳。

訪ねて来た二人に本当に撮りたかった映画について語るうちに坂根田鶴子は若返り、いつしか1929年(昭和4年)の京都・日活太秦撮影所前に立つ。24歳。
運命的な天才映画監督溝口健二(内田健介氏)との出逢い。夫の女癖の悪さに神経をすり減らす溝口千枝子夫人(佐乃美千子さん)との交友。

1933年(昭和8年)、大ヒットし、溝口無声映画時代の代表作となった『瀧の白糸』の撮影風景。浦辺粂子(岡崎さつきさん)と岡田時彦(峰一作氏)。

女性であることを全て捨てて男社会に飛び込んだ坂根田鶴子。一本のドイツ映画『制服の処女』に衝撃を受ける。レオンティーネ・ザーガン監督からスタッフ、キャスト、ほぼ全て女性。こんな映画を私も作りたい!

主演の万里紗さんが抜群に美しい。手塚治虫の漫画キャラのような表情。輝いている。
内田健介氏は今回も最高。溝口健二の天才と駄目人間の振れ幅を人間臭く形取る。
佐乃美千子さんも魅力的。ハイヒールのまま後方に飛び降りるシーンには驚いた。かなり段差のあるセット、振り向かずにポンっと。相当日々身体を動かしているのだろう。キレキレのダンス。
何役も兼ねる役者陣の着替えとキャラ変にも感心。
岡崎さつきさんは強烈な印象を。
内田靖子さんは癒えることのない心の痛みを。

ウォルター・ドナルドソン作曲の『私の青空』の替え歌が今作を一本貫く串となる。
戦前の映画黎明時代、魅入られた者達の狂騒。どうしようもなく映画が好きだった。この世よりも、銀幕に映し出された虚構の世界こそが真実だと思った。
かなり演出に力を入れ工夫を凝らしている。
見事な作品、130分、面白かった!

ネタバレBOX

溝口健二の物語が面白すぎるので、後半満州篇から戦争責任の話になる流れにちょっと無理矢理感。やはり敗戦の混乱の中、満州から何とか引き揚げ、溝口を訪ねて松竹でスクリプターの仕事を貰う描写。世界的名声を得ていく溝口、対照的に編集の記録係しかやらせてもらえない坂根の後半生。国策映画、啓民映画を撮ってきたことへの無意識に潜む罪悪感。それを溝口との関係性から描いて欲しかった。
井上ひさし節のように西瓜をガジェットとして巧く使っている。ラストの流れはこまつ座っぽい。

坂根田鶴子は後年女性と暮らしていたので同性愛者と思う人も多いらしい。

全く関係ないがアントニオ猪木は4回結婚していて最後の女房がカメラマンだった橋本田鶴子さん。猪木は「ズッコ」と呼んでいた。
教育

教育

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2025/02/07 (金) ~ 2025/02/15 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1955年(昭和30年)、田中千禾夫(ちかお)は今作で読売文学賞を受賞した。三島由紀夫の激賞で知られる作品。

フランスの田舎の村、エレーヌ(瑞木和加子さん)45歳と娘のネリー(椎名慧都さん)25歳、通いの女中(稀乃さん)が暮らす家。鉱山を経営する夫のルオウ(加藤佳男氏)60歳は月に一度生活費を渡しにやって来るだけで別の女と暮らしている。本妻ながら妾宅のような暮らしを強いられてきた二人はルオウを憎んでいる。外科医見習いでボードレールを愛読するネリーは男を知らず、愛というものが何なのかずっと考え続けている。
今日に限ってなかなか帰らないルオウに業を煮やしたエレーヌは外出、二人きりになった時、ルオウはネリーに「今日でここに来るのは最後だ」と告げる。そして自分こそが一番愛に誠実に生きてきた者であることを。

加藤佳男氏は小沢栄太郎みたいで凄い貫禄、格好いい。
瑞木和加子さんはルイズ・ブルックスを意識しているようななりで戦前のサイレント映画女優のような雰囲気。虚ろで気怠げな表情が映画的。
椎名慧都さんは若い頃の山本美憂っぽい。

ネタバレBOX

①ルオウとネリー
25年前、35歳の時に20歳のエレーヌに熱烈に恋をしたルオウ。醜男で金しか取り柄のないルオウは贈り物で気を惹くしかなかった。だが歳下の学友であったモテ男フランツに簡単に落とされエレーヌは子を身籠る。突然肺炎で亡くなったフランツ、身重のエレーヌに求婚するルオウ。世間体と家の為、結婚を承諾するエレーヌ。結婚後、ベッドの上で安らかな夢を見ながらフランツの名を口にするエレーヌ。それを見たルオウは家を去る。心から愛するが故に経済的援助のみに自分を律したのだと。
それを聴いたネリーは全く愛情をくれなかった父こそが自分達を本当に愛してくれていたのだとショックを受ける。
②ネリーとピエール
病院の上司である医師のピエール(野々山貴之氏)が訪ねて来る。妻帯者であるピエールはネリーに女の幸福を教育すると言う。相手にせずあしらうネリー。
③ピエールとエレーヌ
少し会話。
④エレーヌとネリー
父から聴いた話を突き付けるネリー、それを一笑に付すエレーヌ。肺炎ではなくルオウがフランツを殺したこと。(ここの部分は濁される)。処女懐胎を思わせる言葉。「夢を見ている時に天使がやって来た」「黒い天使よ」。(ルオウがフランツの夢を見ているエレーヌを抱いたことを暗示)。
どれでも好きな話を選んで信じなさい。真実は貴方が選ぶもの。ネリーは否定する。真実はそこに確かにあるもので自分が創り出すものではない。

第二場がつまらない。ネリーがピエールに実は惚れていなくては成立しない会話。既婚者の医師がさらさらその気のない若い娘を必死に口説いているようにしか見えない。
だが鮮烈なシーンがある。グラスに入った度数の高い酒に突然マッチで火を点けるネリー。暗い部屋を照らす小さな炎。それを無言で眺めるピエール。

大して良い戯曲とも思えない。羅生門スタイルで実の父親は誰なのか?が物語の主軸だが、愛とはなんぞや?までは届かなかった。
居眠り客は多かった。
ピエールに惹かれているがそれを必死に押し殺すネリーの方が客受けしたと思う。(お互い好きだが、付き合ってもいない別れ話)。
おどる葉牡丹

おどる葉牡丹

JACROW

座・高円寺1(東京都)

2025/02/05 (水) ~ 2025/02/12 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

古代の円形劇場のようなステージをL字型で囲む客席に座・高円寺1をレイアウト。滝行に臨む議員の“家内”達が真白な行衣姿に竹の遍路杖を頼りにゆっくりと岩肌を進む。何という寒さ。肌を刺す冷気。真冬だというのにこれから滝を浴びる⁉口ずさむのは般若心経。いつしか歌になる。

仕事を辞めてきた旦那が突然来年の市議会議員選挙に出馬すると言い出す。は?全く理解不能。子供のない家庭、愛猫との日々。部長昇進が内定している妻。男社会でよくぞここまで耐え抜いた。それがいきなりの旦那の人生設計変更には付き合い切れない。正気?受かると思う?何がしたいの?
狂った人生の展開に絶叫する主人公は福田真夕さん。

地元の区の顔役である与党の県議会議員幹事長の妻(宮越麻里杏さん)を紹介して貰い話を伺うことに。区の現職の市議会議員の妻(堤千穂さん、廣川真菜美さん)。
隣の区の顔役である県議会議員の妻(井口恭子さん)、隣の区の市議会議員の妻(駒塚由衣さん、井口睦惠さん、橘麦さん)。
そしてその親睦会を束ねる地元の衆議院議員、法務副大臣の妻(みやなおこさん)。毎月集まって交友を深めている。

出馬するならば地元商店街会長の花屋(井口恭子さん二役)が後援してくれると言う。

皆の話を聴いていくうちに旦那の出馬に前向きになっていく主人公。裏方である女の戦いの面白さ。大学時代チアリーディング部で培った応援魂に火が点く。

伊丹十三や滝田洋二郎系の社会派コメディー。男を一切登場させない作劇。
裏金問題で逆風が吹き荒れる与党、女達の選挙運動はとどまる所を知らない。

ネタバレBOX

失敗作だと思う。作家は女性モノが向いていないのでは。無理してる感じが最後までした。男性ならグロテスクに誇張して笑えるキャラにカリカチュアライズ出来るネタなのだが、女性となると気を遣ってしまうのだろう。TRASHMASTERSでこのネタをやればとんでもない着地点にまで辿り着きそう。

自民党の後ろ盾があってこそのド素人の立候補の決意。当初から何某かの関係性が見えないことには旦那の目算が不鮮明。ただの自分試し?男を出さないことに拘ったせいでリアリティーを犠牲にしてしまっている。

女優の名前が出て来ず、堤千穂さんしか判らなかった。後半、みやなおこさんにやっと気付く。TRASHMASTERSの怪演ばかり観て来たので驚く。凄く常識のあるまともな役だった。終わってから宮越麻里杏さんが出演していたと知る。この人は毎回尻尾を掴ませない。

選択的夫婦別姓制度まで踏み込むネタだったと思う。何でこれを導入すべきなのか、絶対にすべきではないのか、日本人の家族観の核を突く問題。男女観の根底を流れる無意識の川、ジェンダーロール、ジェンダーバイアスの正体。劇団印象なんかが得意そうなジャンル。
浴室

浴室

ジェイ.クリップ

サンモールスタジオ(東京都)

2025/01/29 (水) ~ 2025/02/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

〈Aチーム〉
山﨑薫劇場。
やっぱこの人は凄いわ。圧倒された。ひれ伏す。名取事務所が手掛けるような重厚なテイスト。メチャクチャ鬱でシリアスな人間劇。内面を徹底的に凝視した人物造形。山﨑薫さんのファンならずともこれを見逃してはならない。

作品に流れる血は『愛を乞うひと』だろう。病的なまでに実の母親から虐待を受けて育った女性が主人公。家を逃げ出して今は一人の娘の母親になっている。ずっと今まで目を背けてきた母親との関係と到頭対峙しようと決める映画。

虐待されて育つと自分の子供に虐待をするようになるという虐待の連鎖。幼児期の家族とのアタッチメント(愛着)の形成こそが人間の心の立ち位置の基準となる。安心で安全な信頼関係を感じることが自分という存在の土台、基礎に。それが欠落して育つと愛着障害と呼ばれる心の病を抱えることが多い。人間不信、低い自己肯定感、各種の依存症、不安神経症···など負の連鎖。

誰もが無意識に自分で自分を治す方法を探っている。今作の主人公(山﨑薫さん)も母親に虐待されたトラウマから棄てた筈の香川の実家に帰郷する。結婚し妊娠したことを夫(寺内淳志氏)と報告する為に。実家の母親(西山水木さん)はいつの間にか再婚していて初対面の義理の父(蒲田哲氏)。
主人公はルポライター見習いで初めて自分が主筆で担当する仕事を与えられる。それは目黒女児虐待事件。5歳の幼女を実の母親と再婚した継父が教育に見せ掛けて虐め殺した事件。そのおぞましさに世間を震撼させた。
拘置所で母親(大井川皐月さん)と面会、取材が始まる。
浴室に閉じ込められ泣き叫ぶ幼女の書いたノートの文章に自分のトラウマが甦る。
『もうおねがい、ゆるして。ゆるしてください、おねがいします。ほんとうにもう、おなじことはしません。ゆるして。』
他の誰の話でもない。
「これは私の話だ。」

憎んでも憎んでもまだ余りある家族の正体とは、最早自分自身なのかも知れない。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

始まって山﨑薫さんだと思い、いや違うなと思い、やっぱりそうだなと思う。本物の女優。

凄く好きなシーン。受刑者・大井川皐月さんに自分も虐待を受けてきたと告白する山﨑薫さん。大井川皐月さんは言う。「でもあなた死んでないじゃないですか?生きてますよね。それは何故なんです?」
ぐっと言葉に詰まる。何故生きているのか?

義父と末期癌の母親の遣り取りを妄想しそこに浮遊し否定し続けるシーンも好き。山﨑薫さんの一本調子の語りがリアル。

ラストシーンは流石。人生は失った自分自身の欠片を探し続ける物語。いつかきっとパーツは揃い完全になれる。百鬼丸のように。

山﨑薫さんと大井川皐月さんの対決に固唾を呑んでいただけに、いきなり時間が飛んで義父(蒲田哲氏)が上京して来る展開にはガッカリした。二人の立場が段々と入れ替わる『ゴールデンボーイ』、『羊たちの沈黙』を想像していただけに。

もうカルマなのか、主人公(山﨑薫さん)は娘を産むがその子は軽い発達障害。社会福祉士(?)だった夫(寺内淳志氏)は意識高い系DEI(多様性・公平性・包括性)のモンスター化。能弁な無能に。邪魔でウザいだけの娘は最早ストレスでしかない。主人公は軽蔑すべき加害者側に足が引き寄せられていく自分自身にゾッとする。
寺内淳志氏のモラルハラスメントは最高の見せ場。この為に彼の詳細な設定が必要だったのか。成程。

癌で亡くなる母、西山水木さんが酔って本性が垣間見える描写は見たかった。回想としての声だけでも。

冒頭、nWoTシャツからプロレス談義になり、小川✕橋本、新日✕Uインターの流れ。ちょっと作り物めいている。何かガチファンっぽい恥ずかしさがない。

だぶだぶスウェット上下の拘置所スタイルは人となりに固定観念を植え付ける。皆ズボラで家庭環境に恵まれなかったADHDに見える効用。

観客の中には懐かしい顔も見えた。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!

爍綽と

浅草九劇(東京都)

2025/01/29 (水) ~ 2025/02/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

面白かった。
初演の諸々の部分を金掛けてパワーアップ。衣装美術なんかにメジャー感。テンポが良くなった気がする。

物語は『ロミオとジュリエット』のその後。仮死状態になる薬を飲んで死を偽装するジュリエット。その情報が伝わらず本当に死んでしまったと勘違いしたロミオは毒薬で後追い自殺。目を覚ましたジュリエットはロミオの死体を見て、絶望して短剣で自殺。これがシェイクスピアのオリジナル。
今作はジュリエットが頭の悪いロミオに先に仮死状態になる薬を飲ませ、何とか二人が生き延びられた未来を生きようとする話。

圧倒的。吉増裕士氏(内藤大助っぽい)とブルー&スカイ氏(梶原善っぽい)の狂気の大暴れをひたすら見せ付けられる。東野良平氏(飯尾和樹系)も負けずにハッスル。話がどうこうではなく、狂った笑いを執拗に求める病的なストイックさを感じた。観客に伝わらないであろう無駄に細かい笑いを無理矢理捩じ込む。台詞の神経症的な練り。台詞の被せの多用など視点が俯瞰的。ヲタクが突っ込みながら作品を観ている様をメタ的に被せているような演出。

清水みさとさんは元グラドルだけあってスタイル抜群。初日のアフタートークのゲストがサバンナ・高橋茂雄氏なのが謎だったが二人は夫婦だった。
内田紅多(べえた)さんの妙な存在感、不思議。

笑いに真剣な玄人衆がこぞってチェックに来ている場のうねり、ビンビン来る。この作家は一体何処に行き着くのか?
間違いなく笑える。是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

初演から
木乃江祐希さん→佐久間麻由さん
細井じゅん氏→海上学彦氏
加藤睦望さん→清水みさとさん
モリィさん→土本燈子さん
尾形悟氏→ブルー&スカイ氏
澁川智代さん→内田紅多(べえた)さん
四柳智惟氏→東野良平氏
インコさん→吉増裕士氏

てっぺい右利き氏、髙畑遊さんは続投。代えが利かないのだろう。

『ロミジュリ』の後日談からホーム・ドラマ『ジュリさん』になっていく感覚を今回は余り感じなかった。

幻覚剤の効果が切れてくる伏線が欲しかった。時々、ふと一人ぼっちになった時にだけ姿を見せる謎の薬屋の男。段々と薬が効かなくなってきて情景にバグやブロックノイズが混じる。登場人物が消えていく描写は無音に時間が止まって無機的に片付けられていくような。そして消えたことにただの一人も気付かない。主人公は自殺ではなく、薬にもう肉体が耐え切れず・・・の方がいいような。全ては妄想で現実逃避していただけだった虚しさ、だが妄想の家族がゆっくりと手を差し出す。その手が触れた刹那・・・、全てが報われ救われる。

客層は事務所絡みの招待客がかなり多かった印象。そこがちょっと残念。

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