おけい@広島が投票した舞台芸術アワード!

2017年度 1-3位と総評
境目

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境目

劇団HIT!STAGE

今までこふく劇場にハズレは無かったので、予約だけはしておいたのだが東京から帰った日の夜の遅い公演は、気が重かった。
ところが平日の夜公演の二日間が前売り完売だという。
熊本地震をテーマにした作品らしく、佐世保在住の劇団と宮崎在住のこふく劇場の合同公演。演出は永山智行。
中央の舞台を挟んで両サイドに観客席がある。テーブルや椅子らしき舞台セットは自然の木を直線で組み合わせた象徴的な設えだ。
震災や人の死を扱った作品らしからぬコミカルなシーンが続く。独特の佐世保弁の会話のやり取りのせいだ。日本語のやり取りなのに感情的にならないのが不思議。
役者が動作でリュックを背負ったり、スマホを扱ったりするシーンが多いのにどこか寓話めいた感じもあり、いろいろ考えさせられた。
ロビーでアフタートークが催された。役者も創り手も多くの思いで悩みながらの上演だったという。だが、それが観客の心の中に具体的に見えない何かをありありと映し出したのは確かだ。乗り越えていく勇気を貰った気がする。

広島アクターズラボから生まれた「五色劇場」の試演会「新平和」

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広島アクターズラボから生まれた「五色劇場」の試演会「新平和」

広島アクターズラボ

演劇とは他者の世界観を見に行くものだと言った人がいる。
まさにそんな演劇に出合えた。
それぞれの演者にとって世界がどう見えているのか。それが生き生きと伝わってくる。役者は、自分に見えたその世界観を演じるために、演技以外のさまざまの勉強をしたそうだ。その集合知の重さが舞台にある。切り取った世界のコラージュの巧みさと、センスの良さで、見る者を飽きさせない。
悪戦苦闘の手探りの中、やっと試演にこぎつけたというが、観客席の私には、演劇にはこんな描き方もできるのだと、まさに目からウロコであった。
台詞と役者の本音が交錯した舞台のように見えながら、実はアドリブは全くないとアフタートークで聞き、更に驚かされた。
残すところ2ステージです、観ておいて損はないと思う。

人形の家

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人形の家

第七劇場

ノラの物語は想像していたのとは違って、夫のヘルメルはそれほど無神経な鈍感な男ではなく、ノラは思っていたより遥かに思い込みの強い、世間知らずで驕慢な感じの女だった。
だが、社会や世間と同じように、女を一人前の人間と見ない、信頼に値しない未熟なものだとする見方を、夫がした時のショックは計り知れない。
舞台では家を出ていく前のノラと、出て行った後のノラが同時に現れ、時に互いに語り掛けたりもする。出て行った後のノラをもっと幸せになったように描くこともできたのではと歯噛みする思いだ。
自分の不運を、とともすれば身近な夫や父親の責任だと思い込む。真の敵は国の大きな仕組みや昔からの宗教観、長い間の習慣の影響であるかもしれないということに、なかなか目がいかない。
出て行ったノラと、ノラが出ていかないでこの家に踏み止まったとして、女はどちらを選んだら幸せになるのだろうか。この日の観客に聞いてみると、残った方が幸せという人が4割、出て行った方が4割、どちらでもない人が残りだったようだ。残る方に手を挙げた人は男性が多かった気がする。
彼女が置かれた状況・自身の資産や信頼できる知人、世の中の景気次第で、選択は様ざまだろうと演出の鳴海さん。
ノラは何と戦えばよかったのだろうか。

総評

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