I元が投票した舞台芸術アワード!

2019年度 1-10位と総評
つよいこども

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つよいこども

右脳中島オーボラの本妻

今までの右脳作品をろくに理解できてはいないが、それでも見せ方は洗練さの度合いを増してきている気がする。ポイントをより収斂させ、より深く、より強く。

今回1回目を観た後に当日パンフ記載のキーワードも調べまくった上で仮説を立て、翌日2度のおか割を重ねて、遂に私の右脳観劇史上初めて「全体を俯瞰しての解釈(仮説)」を立てることが出来ました。その一方で、作演 丸蟲御膳末吉さんが終演後にツイートされた…『感じる事や感じられる事は、お客様其々で 本当に其れでヨイのです。』…が、いみじくも真理を突いていると思えました。
考察を深めるにつれ、 右脳作品は「万華鏡のような芝居」だなと思えてきたからです。

ノンストップの激流の中で千変万化にその形を変えていく右脳作品は… そのまま丸ごと理解することは至難の業ですよね?
その時々に作品のどこに注目するか、どの視点で見るか、何の意味で受け取るか、どんな経験を経た人が…どんな精神状態で観るのかで、心に残る印象はまさしく千変万化の極みです。どんな芝居にもそういう一面はあるものの…右脳作品ほどそれを顕著に感じるものは無い… 作品の輪郭ですら一様には見えない。…そういう構造で出来ているんだと思う。 観る人の「心を映す鏡」たる多面性を備えているのではないかと思えます。

サカシマ

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サカシマ

廃墟文藝部

100mの高さから飛び降りた少女の… 余命5秒の中に凝縮された走馬灯の物語。

最初に観た2ステ目…あのラストシーンの後の客席の空気が強烈に印象に残る。どう反応して良いのか惑い… 逡巡し… 誰一人拍手できなかったあの時間。そして… 思わず息を呑んだ落下の冒頭シーンも含めて、見事な始まりと締め括り。勿論、内容については甚だしく観る人を選ぶ作品だが… 少なくともその鮮烈さだけはきっと群を抜いた鋭さで万人に届いたと思う。その点では廃墟文藝部史上ダントツなのは間違いない。

そして公演前から… 煽る様に出てきていた内容に踏み込んだ言葉たちは、作中でも ずっしり意味ありげにその存在感を主張した。終わってみれば実に端的で… でも直ぐには意味が分からず… でも頭にこびりつき… 観た後には確実に作品のイメージを代表していると伝わるフレーズが凄いな… 冴えわたっている。

神様から遠く離れて

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神様から遠く離れて

刈馬演劇設計社

新興宗教からの逃亡をモチーフとしながら、新興宗教の既成イメージ…洗脳し、強制し、搾取する者…からは一線を画す。やはり刈馬作品は扱うモチーフと切り口が良い。幾重にも被さる仕掛けが堪らないよね。予想が利く所も作りつつ… 必ずそれを超えた何かを仕込んでおく巧みさ。特別な設定を身近に引き寄せる為のさりげないピース達も…物語の核心を押し出してくる。音楽が観る者を揺さぶり、衣装が舞いを引き立て、美術が空気を作る。それらを役者が一身に背負って… 言葉と振る舞いを届けてくれる至福の時間でした。作り手達が細部に込めたこだわりと想いが伝わってくる。

あの記憶の記録

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あの記憶の記録

劇団チョコレートケーキ

BSで既観なのだが… 分かっていても臓腑に響く… 生で強烈に伝わる「地獄で罪を犯した人間」の魂の慟哭。否応なく人を狂気に陥れる…ある感情。
そこには… 綺麗事も理想論も大局観も… 一切の理屈を机上の空論と思わせる強度がある。観るものを突き落とす…二重三重に張り巡らされた心理の落とし穴が巧妙だ。そこには何一つ万全の解決策などなく… ただ確実に…どこかに遺恨を残し… 誰かしらが被害を被る選択肢しか存在しない。
どの銃口の先にも必ず彼の人がいる… まさしく至言。しかしそうしない先にも万人を救う手立ては決して見えない… そういう厳しさのある作品だった。厳然として… 連綿と続く世界の「負の歴史」を前に… 安易な希望で口当たりだけを良くする生温さが一切ないのが実に良い。

如何なる最善の選択肢も… 結局、その人… その人達にとっての最善でしかなく、人はそうやって凌ぎを削って生きる他はないのか…と、改めて感じさせる。
せめて手の届く範囲の幸せを願う… みっともなくても そういう選択をする。それに関わる限り…どんな背景と理由があっても その行為の肯定を許さなかった父の姿は印象的でした。息子に語り掛ける言葉は観客に向けられた言葉でもあるのだろうなぁ。

その一方で、父との別れ際に先生がとった態度にも…身の回りの幸せだけに甘んじない…彼女の思う最善への信念が窺える。
受け入れられる想いを双方に感じられるからこその名作。然るべくして再演が続く作品であることに改めて納得。

ラウンド・アバウト・ミッドナイト

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ラウンド・アバウト・ミッドナイト

津あけぼの座

うむうむ…良い作劇と良い役者の絶妙な相乗効果。坂口修一&小菅紘史のあうんコンビを躍らす2人目の刺客は弦巻楽団の弦巻啓太! 昨年の関戸さんに続き しっかりとした実力者が紡ぐ物語。

「違和感」の中に必ず潜ませてある「必然」の巧みさ。
事情が紐解かれるごとに…切なく迫る「違和感の意味」…どうしょうもない男の情けなさが迫る。

なぜ男2人が同じ寝室で寝ているのか…、なぜサダはヤマトの行動を予測できるのか…、なぜヤマトは他人がこの部屋に入ることに異様な嫌悪感を示すのか…、ヤマトの被保護者とみえた…無計画な生活をしているサダの存在意義とは…、それを揶揄する対比と思われたヤマトの几帳面な性格の落とし穴…、そしてこの部屋に天窓がある意味とは…。

緻密だ… 本当に緻密だ。

5seconds

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5seconds

まつプロ

コレは凄い… 脚本の濃厚さを物の見事に具現化した演出/役者の力量たるや申し分ない。

現実の航空機事故をモチーフにしたドキュメンタリー的な作品だが、空気感は… そう、好評だった刈馬演劇設計社「異邦人の庭」を想像して貰えは良いと思う。それがまた別のベクトルで鋭さを増した。

近年稀に見る程に 神経を逆撫でしてくる篠原タイヨヲさんの演技に… 何故か逆にグイグイ引き込まれて、それを受けるカズ祥さんが… 徐々に彼の輪郭を露わにしていく構図。終始ヒリヒリする空気が堪らない。

そして事件として語られる以上に、機長の晒されていた環境を浮かび上がらせていくのに息を呑んだ。

私の好みに合ったのは言うまでもないが、役者の表現としてすこぶる出来が良いと思う。あおきりで観るのとは全く違う姿を観れる新鮮さもあり、何より… あおきりでの方針とは一転、公演期間中もネタバレフリーを公言してて、史実と言うこともあるだろうけど、本作の価値が「生でコレを体験すること」に他ならないのだ…と言う強烈な自負を感じて、またそこに痺れた。

町じゅうのゴミ捨て場にパンダ

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町じゅうのゴミ捨て場にパンダ

はねるつみき

美術音響照明小道具で目を惹く工夫が盛り沢山。独特な舞台装置…埋め尽くされたゴミ袋、その一つとして微妙な相違で表現されたパンダ、役者の一挙手一投足を まるで遊んでいるかの様に映し出すステップを生む踏台と音響。それらが何かしらの暗喩を観客に勝手に想像させながら、普通の演劇とは異なる感覚をエンタメ的に楽しませる多様さがあった。

しかし作品を咀嚼していくと、それでもやはり この芝居の要(カナメ)は… 紡がれる「言葉」だと思わせる。

常住さんの生み出す言葉は本当に強力で、でもこれまで…ちょっと分かり難いところが広い理解を阻んでいたのだが、そこに潤色/演出の安保さんが入ることで、ス~っと呑み込みやすくなった印象だ。その協業にも本作の大きな価値を感じる。

水辺のメリー

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水辺のメリー

星の女子さん

アパート屋上の貯水槽で暮らす(遺棄ている?)「死体」と… 貯水槽を掃除したい「清掃員」の…生死の境界を超える恋模様???って謳い文句すごい。想像を絶するシチュエーション、実に漫画的。主人公の死体達はゾンビとも趣きが異なる生態?の様で「死体のまま蘇った」のではなく、どうも死してから水の中で腐敗を押し留めている状態らしく、その死生観… いや死腐観が面白い。

曰く
「いかにして腐るか、それが問題だ」
「いつか腐るからこそ、それまでの時間が輝く」

活動する死者にとって、「死」はまだまだ生そのものであり、「腐」って朽ちるか 溶けて消えるまで生き(死に)続ける。言葉を入れ替えて、人生訓みたいに響いてくる語りには不思議な味わいがあった。

どうにもならない極限で…未練が鎮まるのを待ち、生を分子レベルで全うしようそんな足掻きにも感じられて面白い。

あしたの空地で会いましょう

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あしたの空地で会いましょう

くじら座なごや

60分の高校演劇に…人物を減らす潤色をした筈なのに、いつの間にか80分になったという… いいよね、ただ鵜呑みにするでなくリスペクトから更に膨らんでいく二次創作性。原作 越智優作品大好きの主宰 利藤さんと 潤色演出 台越さんの制作過程での衝突は想像に難くないが、その結果として生みだされた作品の付加価値はとても大きく、潤色の域を超えている創作性を感じた。

人物の整理や今時に合わせたディテール変更のみならず、大きな追加の機内シーンは のり子の対極であるフーコを深彫りし、緊迫度を増した社会の揶揄に空き地を絡めた追加シーンは作品テーマの深彫りを感じさせた。

そして劇作構造に手を加えたのも大きい。元々の作品もメタ的な味付けがしてあったが、この企画自体のテーマでもある「大人が作る高校演劇」の視点が強く取り込まれたのではないか。台越さん&座組が本作に取り組んだ際の「生の想い」が二重のメタ的構造を形作って冒頭とラストに厚みを持たせた。

Blank Blank Brain

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Blank Blank Brain

劇団芝居屋かいとうらんま

多作の作家の頭を覗きみる… てんでジャンル違いの3作品を通じて目の当たりにする混沌と発散と重なりと貫く芯… 一概に論理では説明しきれない「揺らぎ」に作家の…人間の本質と限界と欲望と足掻きが見え隠れ。まるで… 後藤さん自身が自分に語り掛けるような展開と、最後に観客に託すかの様な想いにとても痺れる。

更に今回、まるでオムニバスの様な構成の中、各々のキャラの立ち方が際立ってて、役者鑑賞的にも美味しいことこの上ない。

総評

名古屋を中心に、ほとんどが東海地方での観劇です。
2019年は 279公演、423作品を観ました。
CoRichに登録されている公演も半分に満たないから、あくまでその中での順位です。

2019年の本当のマイベストは登録されてなくて、
電光石火一発座「リセマラ」&「静電気の夜 vol.5」の交互上演がマイベストです。

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