満足度★★★★★
もう一度観たい
ファンタジーかつサスペンスミステリー。そして、様々な形で姿を現す切ない愛の物語。
渡辺望さんの演出が遺憾なく発揮された舞台だと感じた。
狭い劇場と、どの席からも舞台が近く感じられる客席、そしてわずか4人の役者によって繰り広げられる濃密な芝居。
とてもシンプルな舞台、少ないセットと小道具の中、役者自身の体と道具を交えた身体表現で、次から次へと物語の世界が浮かび上がってくる。
最初はその様が興味深く、いちいち「ああ、この道具でこれを表現するのかぁ」と感心しているのだが、だんだんその表現法に慣れてくると、いつの間にかすっかり物語の方に引き込まれている。
そこからラストへ向けて、穏やかだけど着実に高く積み上げられていく積み木のような、静かな恐怖の予感。そして……。
観終わった後、しばらく声が出ないような、そんな、何とも言えない空気が立ち込めていたような気がする。もう少しこの空気を味わっていたい、そんな風に思った。
ネタバレBOX
まずは何と言っても、コビト役の加藤晃子さんの演技がすばらしかった。
個性豊かな7人を鮮やかに演じ分けていた。
終盤、白雪姫に対して気持ちを抑えることができなくなったように混乱し、7人が入れ替わり立ち替わり出てくる様は、圧巻だ。
笑劇ヤマト魂の「ワンダーフォーゲル」で、同じく加藤さんが演じた1シーンが重なった。
白雪姫役の渡辺実希さんは、まさにハマリ役だった。女王が狂気の炎を燃やすほど羨む、若さと美しさを持った姫をのびのびと演じているように見えた。
あまりのかわいさに、渡辺さんが白雪姫から身体表現のシーンに移っても、つい目で追ってしまった。
と、ついお二方について書いてしまったが、やはり今回は、キャスト・スタッフの皆さんで創り出す舞台全体の空気がよかった。
渡辺望さんの演出、特にファンタジー作品は、今回のように小規模な公演で、その魅力が最も発揮されるのではないかと思った。
登場人物が少人数でストーリーが理解しやすく、また、舞台と客席の距離が近いため、目の前いっぱいに物語の世界が広がって、迫力があり、のめり込めた。
期待している劇団なので、どんどん大きな劇場に進出してもらいたい気持ちもあるのだが、個人的には今回のよう小規模な劇場でのミドルランも平行して企画してもらえたらうれしい。
ひとつ、序盤で台詞が音響に負けているところが見受けられたのが残念。
もうひとつ、せっかく白で揃えた衣装だが、コビトが机の下に隠れているシーンで、ズボンから黒いスパッツのようなものが見えていたのが残念。
ともあれ、今作は完成度が高く、舞台を二方向から観られるように客席が設置されていることもあり、違う方向からもう一度観たいという気持ちにさせられた。