nらoむkれe〜nずaんkが投票した舞台芸術アワード!

2023年度 1-10位と総評
デラシネ

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デラシネ

鵺的(ぬえてき)

実演鑑賞

#とみやまあゆみ #堤千穂
#小崎愛美理 #高橋恭子
#田中千佳子 #中村貴子
#米内山陽子 #川田希
#木下愛華 #未浜杏梨
#佐瀬弘幸(敬称略)
#高木登 さんが届けてくれた素晴らしい作品。何一つとして無駄のない最高の演劇体験があった。そして、大好きな とみやまあゆみさんの素晴らしさを存分に味わえる作品を届けてくれて感謝。
彼女の抑制された声と表情から、内にある激情が滲む。能面が顔の形を変えずとも見せる角度で感情を表現するのと同じように、固めた表情の角度や瞳に心を映す。振り向く動きに合わせた音響にもワクワク。早々のアソコで頬に光る流れには射抜かれた。それが鼻先や顎の下に小さな膨らみを作るのを見ながら、大切な人への愛と、汚れた者への憐みや憤りを傍受し痺れた。
中村貴子さんとのシーンでのみ彼女の穏やかで柔らかな表情を見ることができる。ふわっとした空気に包まれる。それなのに……酸素が薄くなっていくような息苦しさが生まれる。人を信じること信じられることの、何と神聖で罪深いことか。中村貴子さんの佇まいが本作の肝であり、その塩梅の見事さに拍手。

そこはまるで脚本家の虎の穴。蹴落とされて、這い上がっていかなければリングに立てない。リングに上がってもマスクを被らされ、誰かの仮面で戦うことを強いられる。
世の理不尽さを豪快にデフォルメしていても、そんなこともあるかもしれないと思わせてくれる筋の通った筋の通らない話。不快で不愉快な様が遠心力を増して迫ってくる。
今作も、ろくでなしばかり。そして、高木作品の真骨頂とも言える「逃れられない血の問題」が流れ出す。その悍ましさに満ちた話なのに、終演後に清々しく席を立てるのは、虐げられた者たちの手に勝利の盃が握られているからに違いない。

今回、メンバー全員が出演しているチタキヨの融合ぶりが素晴らしかった。前述の中村さん然り、バランサーに徹した千佳子さん、可愛らしさの奥底に隠した芯を強固に宿した恭子さん、皆さん見事だった。そして米内山さんのパンチ力は圧巻。米内山さんと堤さんの喉の強さにも驚愕。
鵺的の正式メンバーになった美しき三人の俳優の競演に心躍った。
常連の川田さんと若い二人も流石の実力。その中で悪臭を撒き散らし大立ち回りを繰り広げる佐瀬さんも見事。このキャスティングに拍手。
寺十吾さんの、あの暗い照明と美術プランが最高にフィットした作品。
ホンモノの演劇を満喫した。幸福な110分。
嗚呼、演劇って素晴らしい。

夜の初めの数分間

2

夜の初めの数分間

劇団牧羊犬

実演鑑賞

#夜の初めの数分間
#平体まひろ
出会ってからずっと観てきた平体まひろさんが、また一つ殻を破ったのを目撃したような気がしている。毒を吐くことが心と身を守る鎧。でもそれを脱げば、生身の画子は繊細で、文字通り自分の姿を探し続けている。
人間の姿だけが鏡にもガラスにも何にも映らないという設定が、現代の我々の未熟さを映し出しているかのよう。
写真を加工して別人のような顔になって登場するSNSでの投稿写真は、現代に生きる人間の闇を象徴しているように思う。
年の瀬に、素晴らしい作品と出会った。

ハートランド

3

ハートランド

ゆうめい

実演鑑賞

#相島一之 #sara
#高野ゆらこ #児玉磨利
#鈴鹿通儀 #田中祐希
(敬称略)
ハートフルなランドではなかった。それでもそこは生きづらさを抱えた人の楽園かもしれない。現実と虚構、人生と映画、実世界の中に侵食したバーチャルワールド。交錯するのは人生なのか人間同士か。
どんな作品にも、わからないモノは存在する。それは当たり前で、我々は文学も映画も舞台も、芸術は観聴きする者が観聴きできないモノを補完しながら鑑賞、観賞する。それが作り手の独りよがりでは困るけれど、登場人物や作家の向こう側に思いを馳せるような難解さは心地良い疲労をもたらす。今作はまさにそんな疲労感を味わうことのできる作品だった。
歴史に名を残すことのない凡人は、如何にしてこの世に存在したことを何かに刻むことができるのかを漠然と求めているのだと思う。それが、ナイフで幹に名を彫ってみたりすることになるのではないだろうか。その延長線上に、読み人を必要としない遺言があるのかもしれない。
教育現場に身を置く者としては、いじめの持つ大罪について改めて考えなくてはいけない気がした。どんな世界でも、弱者を感じることで自己存在感を得ようとするのが人間の習性だと思うから。

キャストも素晴らしかった。大好きな相島一之さんはもちろんのこと、文学座の超新星saraさんのスタイルと歌と演技…というか佇まいに痺れたし、児玉磨利さんも素晴らしかった。

開演と終演に施される映画上映スタイルの試みに拍手。作品の特色とリンクしての演出だけれど、そうでなくても演劇にエンドロールがあってもイイと思った。演劇でも、スタッフにも光が当てられてイイ。

2023年の重要な作品になると思う。必見。

外地の三人姉妹

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外地の三人姉妹

KAAT神奈川芸術劇場

実演鑑賞

待ちに待った作品の再演。チェーホフの『三人姉妹』を、彼の地で我が物顔で傍若無人な振る舞いをする日本人に置き換えて作られた作品。いろんな『三人姉妹』を観ているけれど、それぞれの人物が背負っているものがどの作品よりもしっくりくる。『この人は何でそんなことを言うのだろう、するのだろう』という違和感がなく、『そうだよなぁ、そうするよなぁ』と思える。汚れた美しくない色の日の丸が舞台の床に描かれていて、その上に絨毯が敷かれてその上で彼等は生きている。背景にも日の丸の映像が映し出されていて、それが旭日旗に変化したりする。それが何を意味し、彼の地の人々に何を強いる象徴であったかを思うと苦しくなる。やがてその舞台から日本人がみな降りて行く。まるで彼の地から追い出されていくように。剥き出しになった汚れた日の丸の舞台では、自分たちを人間扱いしなかった日本人が去り、誇りを取り戻したことを、いや誇りを失わなかったことを喜び讃えるかのように穏やかに踊る。その何と美しいことか。
我々は、過去の過ちをきちんと認識し、本当の謝罪から始めなければ、本当の国際交流なんてできない。ナチスやヒトラーの過ちを認めたところから始めたドイツと日本の違いはそこにある。
こう書きながらも、その日本人に対する怒りのエネルギーは初演よりも抑えられ、そのことで一層、そのメッセージが感情で押してくることなく根幹の問題としてズシリと伝わって来た。
この作品の肝は、原作にはない若い女中の存在にある気がしている。鄭亜美さんが見事に演じられた。そして、次女役の李そじんさんが美しく、切ない。
今作品も、繰り返し上演して欲しい。

バナナの花は食べられる

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バナナの花は食べられる

範宙遊泳

実演鑑賞

#埜本幸良 #福原冠
#井神沙恵 #入手杏奈
#植田崇幸 #細谷貴宏
(敬称略)
岸田國士戯曲賞受賞作がcovid-19を経て帰ってきた。ただ再演しているのではなく、世界が病んでいた時間をしっかりと作品が飲み込んで、ある意味で栄養にしたのだと思う。
語られる物語の以前に起きていたであろう退廃した生活やバイオレンスが何だったのかは観客の想像力に委ねられている。
人が存在すること生きることの意義や本質は何なのか。関わることと関われないこと、関わることのできる人間と関わることのない人間、そうした人間たちの狭間で生きている。騙し騙され、虚構を纏いながら関わり生きている自分と彼と彼女の実像とは何なのか。そもそも実像などというものはあるのか。ファンタジーを噛み締める。
作品の中の人物と俳優の相互のキャラクターが化学反応を起こし、畝るように絡み合う。
佇まいも台詞も美しかった。
大好きな井神沙恵さんが踊るように、時には泳ぐように滑らかに絡み近づき突き放し、美しく生きてみせた。目が離せなかった。彼女の叫びが我が心臓を貫いて血を吹き出させている。
入手杏奈さんの柔らかな存在感は愛しさを増していた。その愛らしさが悲しみを増幅させる。
男性陣の伸びやかさとウィットが今作品の肝であるけれど、ファンタジーでくるんだ人間愛がズドンと揺るぎなく貫かれているように思える。
豊かであっという間の200分だった。

さいあい〜シェイクスピア・レシピ〜

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さいあい〜シェイクスピア・レシピ〜

CHAiroiPLIN

実演鑑賞

2回観劇。それでもお代わりしたくなった。彼等と出会えた大切な作品の久しぶりの再演。さらにダイナミックに進化を遂げていた。それでいて、丁寧に細部にまでこだわって緻密に演出されている。その中でキャストが生き生きと舞う。高校生キャストも若さを発散し溌剌として輝いていた。大好きな小林ららさんは今回も素敵だった。そして、主宰のスズキ拓朗さんとともに二本柱といっても過言ではない清水チャイロイプリオンをチャイロイプリンを初めて観た。もちろん毎回いて欲しい。それでも今回、それを埋めるべくよし乃さんが大活躍していた。彼女の目を見張る活躍に感嘆した。
この作品は定期的に再演して欲しい。

マイン

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マイン

チタキヨ

実演鑑賞

久しぶりのチタキヨ。飾らず、それでいて美しく、現代社会において女性が抱える問題、いや女性に背負わせてきた問題を、力まずにテーブルに乗せて考えてみる作品にして届けてくれた。人と話題にし辛いようなお金の問題も見事に提供してくれた。何ともいとおしい女性たちがそこに生きていた。感情を隠しながらつながっていた人間関係も、少しずつ本音が漏れて、それが嫌味でないから関係が強固になっていくのが何とも羨ましく美しかった。
心が温まった帰路は、少しニャついていたに違いない。恥ずかしいけれど気持ちよかった。

モモンバのくくり罠

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モモンバのくくり罠

iaku

実演鑑賞

2回観劇。今回も十分に堪能した。現代の食の問題についても考えさせられる。三人の娘を持つ親としては、親を選べずに生まれてくる子に、自分は何を伝え、何を守り、その対局として何を押しつけてしまっていただろうかという不安に囚われた。
そして何より、家族の或る中年男が浮ついて見える姿。他者によってバッサリと斬られてしまう言い訳を聞きながら、自分を省みれば心から血が噴き出しているように思えて恥ずかしかった。如何にして生きるべきか、また考えなくては。

地獄のオルフェウス

9

地獄のオルフェウス

文学座

実演鑑賞

#名越志保 #小谷俊輔
#下池沙知 #鬼頭典子
#赤司まり子 #つかもと景子
#廣田高志 #金沢映実
#高橋ひろし #若松泰弘
#鈴木弘秋 #太田しづか
#木津誠之 #頼経明子
#室園元(敬称略)
初日。この感覚はいつ以来だろう。完全に作品の世界に取り込まれた。ヒリヒリとした空気を体感し、集中が研ぎ澄まされて、心も脳も前のめりになっていることを感じていた。
そこにあるのはアメリカ南部に蔓延った差別と、その暴力性。肉体への暴力は勿論のこと、精神を打ちのめす思想による暴力も存在する。それは人生を踏みにじる。人は誰かを上から見下し、弱者の存在を感じていないと安心できない生き物なのだろうか。ネチネチと人に絡み、尊厳を金と暴力で奪う。毎日死にたくなりながら、一体何を守って生きていけばいいのだろうか。
何が善で何が悪なのか。善に見えるものと悪に見えるものの本質は、本当に見えている通りなのか。
今作は作者による、愚かな世界愚かな社会愚かな人間へのアンチテーゼ。他者と違う装いで立ち、疎まれ蔑まれ村八分にされる者の叫び、そしてその者の瞳に宿る怒りの中にこそ、追求すべき真実がある。大好きな下池沙知さんが、孤高のジャンヌダルクのように、美しき精神を持ちながら虚勢と不安の中で溺れそうな汚れたキャロルを見事に立ち上げた。たくさんの人に彼女を観てほしい。
名越志保さんの声の美しさは宝石のようだった。ウットリと聞き惚れた。
鬼頭典子さん演じる保安官夫人も印象的だった。彼女が抱えた、人生を生きるというある種の信仰が、希望と絶望を内包しているように思えた。
研究生の時から抜群の存在感を放った小谷俊輔さんも、やっぱり良かった。

演劇の素晴らしさを実感する公演がここにある。たくさんの人が、この素晴らしさを共有してくれることを願ってやまない。

この夜は終わらぬ。

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この夜は終わらぬ。

劇団俳優座

実演鑑賞

初日。俳優座稽古場がアゴラ劇場になった。そう思えるほどに伊藤毅さん(やしゃご)が、見事な本を用意し、青年団の空気を存分に取り入れる演出を施した。老舗劇団に思い切ったアプローチで切り込み新風を吹き込んだと言えるだろう。劇団の古参ファンの方は面食らったかもしれない。しかし、それこそが新しい血を取り込んだ価値であるはず。その上で、社会問題を突きつけ、観客に正義を問う秀作。
福原まゆみさんが、役柄も雰囲気も作品に心地よい風を吹き込んでいた。魅力的な俳優さんに出会えた。

総評

★2023観劇数👉142作品、156公演★
ココに記しておきたい。
演劇人の生活保証を国を巻き込んで本気で行っていかないとダメだ。素敵で素晴らしい大好きな演劇人が、生活に困窮し、アルバイトしなければ生活が成り立たない現状を何とかして欲しい。切なる願い。
同時に、相反することを言っているのかもしれないが、チケット代の高騰を何とかして欲しい。かつて年間400本も観劇していた自分でさえ、商業演劇の13000円とか言われて、もう手を出せない。果たして、演劇にそれほど思い入れのない人たちが、この現状で劇場に足を運ぶのだろうか。こんな価格設定で、観劇離れは起きていないのだろうか。心配でならない。わたしはもう7000円を超えたらほとんど観られない。数年前から、なるべく5000円以内のものを観ようというスタンスにしている。そうした観劇の中から選び、推薦させていただいた。

◾️追記◾️
『視点』を上位に投票しようと考えていたけれど、8団体8作品の演劇フェスティバルのような企画のため除外したことを書き残しておきたい。
その理由は

Antikame?『こえを見ている』

を推薦したかったから。この作品は、開演から20分間暗転したまま暗闇の中で上演される。タイトル通り真っ暗な視界の中で紡がれる言葉、つまり声を脳内で観続ける。もちろん賛否両論、意見が分かれることは承知している。作演出の吉田康一さんもそれを承知の上での上演である。その挑戦を讃えたい。本来ならばそうした試みであることを説明することなく上演したかったであろうが、コンプライアンスとして開演前に自らアナウンスされていた。それも悔しいに違いない。それを甘んじて受け入れた上で挑戦したこの作品の価値は高い。2023年で最も冒険的な作品であったと思う。そうした挑戦を摘み取ってしまったら演劇に未来は無いと思っている。『視点』の上演形態を考慮して選考から外したため、ここに書き残させていただいた。

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