満足度★★★★★
すごい舞台でした!
かねてから、いちど観たいとおもっていました弘前劇場。
いろいろと面白い点は多かったのですが、なんといっても客席の雰囲気が劇場っぽくないのは印象的でした。
人がそんなに多くない夕方の美術館で、常設展を観ているときの空気、といったら良いのでしょうか。
観る前がそのような空気でしたので、とても難しい演劇なのかなと、期待半分恐れ半分で開演を待ち……。ですが始まってしまえば芝居にひきこまれ、気がつけばあっという間に終わりにまで心を連れていかれていました。
その場には存在しないはずの人もここにいる人たちに影響を与えているという意味で、それは存在しているのかもしれませんし、そのように考えましたときに、黒子というものが、その象徴のひとつであったのかもしれません。
など、今になっておもったりもするのですが、観ていましたときには、ただ切実に、今このときを生きている人たちの真摯なその姿や、他愛ない会話、そういう小さなことの集積で人は生きているのだと実感しながら、ただ諾々と心に入ってくる言葉を受け入れているだけでした。
なんていいいますか……。ちょっと今までに観たことないほど気持ちよくしてもらえる舞台といいますか……。
こういうことを考えながら生きていても良いのだとか、こういうことに不安を感じながら笑っていてもいいのだとか、見えるものを見えるまま口にしてもいいのだとか。
いろいろなことを肯定されたようで心地よかったのかもしれません。
これは演劇として面白かったとか、そういうことではないのかもしれませんが、私にとってこんなにも息のしやすい空間、時間はかつてなかったであろうというほどに居心地の良い…というのも妙ですけれど、そういう舞台でした。
客席との距離感が良い意味でこんなにも無いお芝居を観たのは初めてです。
しあわせな観劇。
長谷川孝治さんの作・演出の舞台、またぜひ観たいものです。
満足度★★★
4人目の黒子は顔を見せず!
楽屋での会話が自然なままに表現されます。主観的なもので大きく変わると思いますが、ドラマティックでない分、会話が方言なのでよりリアルに思えます。役者の皆さんは上手でしたが、私にとってはストーリーが単調で興味深く観ることができませんでした。
黒子という「共同作業」に 私たちは確信的盲点を読む
「津軽選挙」を初めて聴く。ネットのニュース・サイトが信源であった。
青森県津軽市における公職選挙ならびに団体選挙で「札束」が飛び交う歴史が存在するらしく、それを土着性から説明したコピーだ。
「旧蝦夷地」を開拓した列島の端っこ、津軽。「よそ者」が力を有す背景が「津軽選挙」だというのだ。
たしかに、青森県は「東北エナジー」より、中央との繋がりがある新興県の印象が強い。寺山修司に代表される青森文化人は都会派だ。
海峡を隔てた北海道についても考えたい。ホワイト・フロンティア・北海道をユネスコ世界文化遺産に登録することは他の46都府県に比べ選考が厳しい。なぜなら、ロシアにとってのシベリアのごとく、そこは、南樺太まで延長する日本の開拓地だったからだ。つい15年前まで「北海道開発庁」が内閣府外局に設置されていたのも人間の手の付かぬインフラ整備途上であったことを裏付ける。
青森県は行政上、他の45府県と平等の広域行政体だが、 いわば北海道クラスの「中央従属県」だ。「札束」を頂とする「津軽選挙」が、「補助金漬け」の核廃棄物貯蔵施設建設に1%の影響もないわけない。
舞台『四人目の黒子』は東北劇団・「弘前劇場」が地元、東京、札幌をツアーする渾身作だ。
地方劇団の楽屋に「青森弁」が飛ぶ。“日常感”と「東アジア戦争の空気」が暗澹に合同していく。
戯曲段階では「良作」だったろう。ただし、実際に舞台化すれば、台詞の単調さとニヒリズムの「臭さ」は強烈である。「四人目の黒子」こと演出家「イヌカイ」が劇団員の証言により「立体視」されるが、それが付箋とはならず、「戦争の空気」を主題としているように思える。
満足度★★★
忍び寄る戦争の予感
表面的には劇団の日常を描きながら、メタファーが散りばめられていて、考えさせられる作品でした。
日中韓共同製作公演のツアーを終えて地元で公演中の地方の劇団という実際の弘前劇場自体を思わせる設定で、スタッフ楽屋で交される程良くユーモアがある淡々とした会話のやりとりの内に、高齢化社会や中国・韓国との関係といった社会的な不安が浮かび上がる物語でした。
登場人物としての黒子とは別に、登場人物達には見えていない設定の黒子達が所々で現れて佇んだりうろついたりする姿が、政治的な諸問題を見えているのに見えなていない事として着々と戦争へ向けて事態が進んでいることを示唆している様で不気味でした。
小道具として用いられたギターに反戦運動のフォークギターのイメージと楽器→道具→武器のイメージが重ね合わされていたのが印象的でした。
終盤で引用されたアルチュール・ランボーが戦死した若者を描いた詩『谷間に眠る者』は、テーマには則していたものの、唐突な感じがありました。
リアルに作られた楽屋のセットの中で中央のテーブルだけがいびつな形でかつ縁が赤くて、そこだけ非現実的な表現となっていましたが、その意図が掴めず違和感のみが残りました。
考えさせられる内容で見応えがありましたが、公式サイトに書かれていたあらすじとは異なる話となっていたのが少々残念に思いました。