本番一週間前になりました。「こなせばいいや」スタンスで始めたはずの公演は、いまや超大がかりになっております。楽しみにしてください。この公演は、なにを隠そう、自分にとっては運命的なものなのです。何年前のことでしょうか、寒い寒い冬のことです。新宿西口の大きなシャッターの前に小さなテーブルを出していた新宿の母と呼ばれるその占い師は、揚げたスパゲッティ―にそっくりのアイテムをジャラジャラやりながらギョロリと僕をにらんで言いました。「お前さん、さてはなにか芸能関係の仕事だね・・・?わかった、演劇だろう。見える、見えるぞ!お前さんの運命が、クラゲの体内で食べられたモノが透けて見えるがごとく、アリアリと見えるぞ!」僕は、ゾッとしました。その老婆の恐ろしい様相にではありません、僕は幼いころにクラゲに刺されたことがあったので、そのことを思いだしたのです・・・・・間違いました、老婆に、自分の職業を見事に言い当てられたからです。「ど、どうしてわかるんですか!」と僕が悲鳴のように尋ねることなんか気にせず、新宿の母は、僕の手をぎゅっと強く握り、目を見開いて言いました。「安心おし、あんた、将来東京芸術劇場のアトリエイーストで公演することができるよ、そうだ・・・」老婆は目を閉じて、まるで何かを思い出すような様子で続けます。「へっくしょい!か、花粉の多い年だ。そうだ、花粉の多い多い年に、お前は東京芸術劇場のアトリエイーストで公演をするチャンスを手にする。いいか、何があろうとその誘いは断ってはならん。大丈夫だ、どんなにリスクの高い公演だったとしても、腰を抜かすほどのスケールでその公演は大成功をする。」・・・・かれこれ、6年は前のことです。あまりに突飛な出来事だったので、最近では夢だとばかり思っていました。折しも今年の花粉量が例年を段違いに上回ると言うニュースを見ていて、なんとなく、あの新宿の母のギョロリとした目玉を思い出していたら、携帯電話が鳴ったのです。驚きました。東京芸術劇場アトリエイーストで公演をしないか?そんなお誘いの電話だったからです。これは、ただの偶然でしょうか?喜びが強い半面、もやもやとした気持ちが一向に拭うことのできなかった僕は、意を決して、記憶をたどりながら新宿西口の例の場所に行きました。当たり前と言えば当たり前のことかも知れませんが・・・・そこには、誰もいませんでした。