vol.21
vol.21
実演鑑賞
ザ・ポケット(東京都)
2011/08/04 (木) ~ 2011/08/10 (水) 公演終了
上演時間:
公式サイト:
http://www.bull-japan.com/
期間 | 2011/08/04 (木) ~ 2011/08/10 (水) |
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劇場 | ザ・ポケット |
出演 | 西山宏幸、篠原トオル、永井幸子、寺井義貴、馬場泰範、藤原よしこ、深澤千有紀、岡山誠、津留崎夏子、林生弥、喜安浩平、甘粕阿紗子(カムヰヤッセン)、石原美幸、遠藤留奈(THESHAMPOOHAT)、佐瀬恭代、関寛之、戸泉真衣、栩原楽人、凪沢渋次(ナギプロ)、松下幸史(動物電気/乱雑天国)、加瀬澤拓未、竹井亮介(親族代表)、長田奈麻(ナイロン100℃) |
脚本 | 喜安浩平(ナイロン100℃) |
演出 | 喜安浩平(ナイロン100℃) |
料金(1枚あたり) |
3,300円 ~ 4,300円 【発売日】2011/07/02 前売/3,800円 当日/4,300円 ☆初日割引(4日19時の回)/3,300円 学生割引/3,500円(当日要学生証) グループ割引/(3名以上でのご予約でお一人様)3,500円※ ※ブルドッキングヘッドロックのみ取り扱い |
公式/劇場サイト | ※正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。 |
タイムテーブル | |
説明 | ※チラシより さて、どうでもいいことを話そうか。 とある田舎町に住んでいた頃の体験である。私はふと思い立ち、人間やはり体力だと、その日からジョギングを開始したのだった。今となっては、なにかを持て余していたとしか思えないが、誰にだってそういう時があるのではないか。 その町は本当に田舎町で、周囲には山と田んぼしかなく、だから私は誰に気兼ねすることもなく、颯爽と農道を駆け回った。で、30分も経った頃であろうか、農道には当然だがろくに街灯も無く、だからほぼ真っ暗闇なのだが、快調に飛ばす私の前方から、私が刻むのとはまた別の、リズムの良い呼気が聞こえて来たのだった。そうか、私の他にも健康管理に取り組む同志がいたか、などと思うヒマはまったくなかった。「ん?」と思った次の瞬間には、前方の暗闇から、とんっでもない勢いで突っ込んでくる、野犬の姿が見えた。 さすがというべきか。さすがに、さすがに私もそれが、私を目がけているのだと気づくのに1秒もかからなかった。私は瞬時に踵を返し、逆方向へ猛然とダッシュした。正しい判断ではなかろうか。しかし残念なことには、私の脚力にも限界があった。犬を相手に100メートル以上は走った。普段は開くことのない「奥の扉」とかいうものを開くほどの激走だったことは、後に訪れる尋常ならざる筋肉痛が教えてくれた。しかし、私が律儀に農道を走るのに対し、犬のヤツ、あろうことかちょっと田んぼをショートカットしたりするのだった。あっという間に犬との距離は縮まり、なんだったらもう、ああキヤス!ケツが!キヤスってば!後ろ!あーあーあー!というところまで詰め寄られ、私は普段、台詞でもめったに発することのない、「おおおおお!」という怒声まで発して力を振り絞ったのだが、しかし犬は当然手加減する様子はなく、しかも間違いなく私しか目に入らぬ様子で、私が立ち止まった瞬間、私の尻に乾坤一擲、その毒々しい犬歯を突き立てる所存であることが、ありありと見てとれたのだった。 私はとりあえずその辺の家に飛び込んだ。不法侵入など知ったことではないのだ。 それは2階建てのアパート。そのアパートの1階には、幸いなことにバルコニーがあり、外界からその家の住人の暮らしをうまいこと遮るようになっていた。私はおそらく普段なら飛び越えられない高さの、そのバルコニーの柵を軽々と飛び越え、静かに着地したのだった。振り向くと、柵の前で犬が、どうしてくれようかと、手をこまねいた様子でウロウロしていた。よくよく考えれば私が飛び越えられた柵だ。犬だってその気になれば飛び越えられたはずだが、幸いなことに飛び越えてはこなかった。そのかわり、柵の前にしっかと居座った。 どれほどの時間が経過しただろう。蒸し暑い夜だった。幸か不幸か、私の飛び込んだバルコニーの、その部屋の住人は留守の様子で、だから私がどれだけそこに居座ろうが咎められることもなかった代わりに、助けてくれることもなかった。携帯もなにも持たず、なんだったら、誰にも行き先を伝えず部屋を飛び出した今夜の私、だ。これは一人でどうにかするしかない。止まらぬ汗を拭い、腹をくくりかけた時だ。隣の部屋の窓が開き、バルコニーに、なにをするでもなく女が出てきた。学生時代の後輩女性だった。 あれ?おまえんちここだっけ?私が思うよりも早く、「キヤ、ス、さん?」と後輩は発した。「おう」私は努めて冷静に、後輩に応えた。私はグッショリ、Tシャツ短パン姿だった。 「どうしたんですか?」「いや、犬がさ」「犬?」「ほらあれ」「ああ……」 後輩の女は察しが良かった。それ以上なにを詮索することも無く、犬を自分の方へ呼び寄せ始めた。お、おい後輩!それじゃおまえが!と息を飲んだ私だったが、驚いたことに野犬は、その後輩の「チチチチチ」っていうアレ、あるでしょアレ、アレを聞くと、エサをもらえるとでも思ったのか、人懐っこく後輩にすり寄っていったのだった。私は俄然、今だ!と思った。「あがと!」私はそれだけ言い放つと、再び颯爽と柵を飛び越え、農道を猛然とダッシュした。一瞬振り向いた先では、後輩の手元に優しくすり寄る野犬の姿が見えた…。 次の日からジョギングを再開しなかったことは言うまでもない。後輩の女とその時の話をしたこともない。 長々と書いたので、もはやなにが言いたかったのか定かではないが、そう、別に「一寸先は闇」なんてことを言いたいわけではない。かと言って「地獄に仏」みたいなことでもない。起こる悲劇は、裏を返せばいつだって喜劇だ。逆もまたしかり。我々はただ冷静に、起きた出来事を見つめ、今いる位置からそれについて思いを巡らすしかないのではないか。 後輩女性に助けられた私はだいぶ不幸な先輩男性だが、お付き合い中の男性の部屋でくつろいでいたらなぜか先輩男性に出くわしてしまった後輩女性も、案外と不幸だったのではないか、と今さら思い巡らす私なのだった。 喜安浩平 PS.世の中に漂う無数の毒を、フッと微笑んで食らい尽くしてやろうという所存の今作だ。あるいは、試しになんかの毒を喰らってみたらどうにかなっちゃって、ヘラヘラ笑うしかなくなっちゃった。そんな恐れの今作だ。 |
その他注意事項 | 【インターネットでブルドッキングヘッドロックを!】 過去に上演した2作品を、USTREAMで全編ストリーミング配信いたします。 ・2010年度サンモールスタジオ最優秀団体賞受賞作 女々しくてシリーズ『黒いインクの輝き』6/3(金)21:00~・7/2(土)13:00~(136分) ・首都圏壊滅から数週間後の旅館を舞台にした2009年夏の作品 『ケモノミチ』6/18(土)13:00~・7/13(水)21:00~(146分) 日程は予定です。開始時間は少々ずれる可能性があります。 詳細はブルドッキングヘッドロックWEBサイトで! |
スタッフ | 舞台美術:長田佳代子 照明:斎藤真一郎(A.P.S) 音響:水越佳一(モックサウンド) 舞台監督:小野哲史 演出助手:陶山浩乃 音響操作:矢島理江 音楽:西山宏幸 映像:篠原トオル/猪爪尚紀 映像操作:諸田奈美 宣伝美術:オカイジン 宣伝写真:高倉大輔(casane) 記録映像:クリエイティブオフィス ドエル スチール:mika(f-me) WEB:久野ひろみ/寺井義貴 制作:林拓郎(J-Stage Navi) 協力:ダックスープ KNOCKS,INC. イマジネイション フラッシュアップ ナイロン100℃ 親族代表 カムヰヤッセン THE SHAMPOO HAT ナギプロ 動物電気 乱雑天国 世界名作小劇場 秘密結社ブランコ 企画・製作:ブルドッキングヘッドロック |
チケット取扱い
さて、どうでもいいことを話そうか。
とある田舎町に住んでいた頃の体験である。私はふと思い立ち、人間やはり体力だと、その日からジョギングを開始したのだった。今となっては、なにかを持て余していたとしか思えないが、誰にだってそういう時があるのではないか。
その町は本当...
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