カフカの猿 公演情報 カフカの猿」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
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  • 満足度★★★★

    鑑賞日2019/04/13 (土) 14:00

    「ある学会報告」通称なのか『カフカの猿』
    これを、現代に引き寄せて翻案した舞台。
    ある戦争代行会社が、嵩張る人件費を軽減しようと、猿を兵士にすることを思いつく。アフリカで捕獲された猿、そのうちの一頭が人間になること(兵士になること)を決め、成功を収めることで会社の役員まで上り詰め、その過程を自社の宣伝講演として話す一人芝居。
    実際過去には、この猿の妻が僅かに登場する場面があり、当日の観客にはそのことを知っている方がいらっしゃった。その時点では、一人芝居ではなかったわけでが、やはり人件費(笑)の関係(海外公演で1名連れて行くことの経費)と、演出上、妻の存在が必ずしも必要ではないこと、主演にとって妻の存在がむしろ演技する上で邪魔になることから、2015年頃から辞めたそうである。

    さて、特殊メイクを施した主人公(1時間半かかるらしい)、ゴリラともチンパンジーともとれるその容姿で、時に客席を駆け回り、演台に座り込み、ワインを飲み、葉巻を吹かす。客席の女性に関心を示し、観客の男性をいじり、その時折見せる知的な風情と粗野な振る舞いとのギャップに、観客たちはザワザワ感を抑えきれない。
    そう、70分の舞台を通じて、終始、心を波立てられるのである。

    語られるのは、会社の宣伝と自身の生い立ちに定着された不条理。
    不条理とは、生の希求には「出口(escape)」しかないこと。
    「自由(freedom)」とは幻想にすぎないこと。そして「出口」には、ただ逃走するという意義以上のものがないこと。

    生には、前進、進化、向上というポジティブな意義は一切ないことを語り尽くす。
    彼にとって、猿から人間になることは、「出口」の1つでしかなかった。
    そのことは、彼が飲酒と喫煙という悪癖に耽溺していることが象徴的である。

    フライヤーにあるように、ハワード・ローゼンスタインが扮した猿は、観客にひたすら強圧的に問いかける、あなたは生をどのように全うしているのかと。
    字幕がないが、英語が不得手な方でも一見してみる価値もあり。
    主催者は、字幕上演が、演者の妨げになるとことからする方針はない旨話されていたが、過去の他の上演では、字幕上演の実績があるのだから、そう頑なにならず、試してみる価値はあるのでは。

    含蓄に満ちた言葉を味わいたいと思うのは、舞台観客の強い要求だ。
    でなければ、安価な日本語台本の販売、あるいは日本人による上演もありなのではないか。もちろん、ハワード・ローゼンスタインの演技に代えがたいものはないだけれど。

    ハワード・ローゼンスタインには★5つ、ただし、理解が追い付けなかった自分の満足度としては★4つにせざるおえない。

    ネタバレBOX

    ハワード・ローゼンスタインのあの演技があれば、特殊メイクと合わせて「モルグ街の殺人」も上質な舞台化が可能かもしれない。
  • 満足度★★★★★

     英語、字幕無しだが、これだけ素晴らしい舞台がたった1000円。どんなことをしても見るベシ。華5つ☆ あと2回マチネ公演がある。2度目の人は500円。

    ネタバレBOX

     世界は無駄に広くない。それをつくづく思い知らされた素晴らしい演技であった。日本で形態模写を演ずる役者は殆ど見ないが、韓国や中国を始め、スタニスラフスキー演劇や、その継承系であるメソッド演技等を学んだ役者の中には極めて素晴らしい形態模写をする役者がいるものだ。(中国の京劇には、悟空役で耳を動かす役者は昔から居るが)今回は独り芝居だが、ハワード・ローゼンスタインさんの演技は当に世界は広いということを思い知らせるに充分である。F・カフカの書いた「ある学会報告」という作品がベースになっているが、これにイラク戦争で悪名を馳せた傭兵企業・ブラックウォーターとこの企業を用いて正規軍ならやらないようなダーティーな戦争犯罪(レイプ、略奪、拷問、市民虐殺等々)を散々やらせたチェイニーやラムズフェルドら戦争犯罪人をも極めて普遍的且つアイロニカルな視点から揶揄して見せた傑作だ。ケベックで活躍する劇団だが、モンレアルで通常用いられているフランス語ではなく、この都市で暮らす英語系住民40万人ほどを対象に公演を打っている劇団なので科白は総て英語だ。日本でも字幕はつかない。然し、優れた役者・演出家というものは、言葉が十全に伝わらなくとも、その優れた技量と身体表現、動きや間の緩急、トーンの強弱やエネルギーの用い方で更にユニヴァーサルな表現領域を獲得しており、それによって観客を魅了してくれるものだ。この舞台は当にその体験の場である。今回、来日予定だった演出のギー・スプラングさんは、同時に役者でもあり、映画出演の為来日は適わなかったが、ステージマネージャーのケイト・ハゲマイヤーさんが同道している。

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