颱風(たいふう)奇譚 태풍기담 公演情報 颱風(たいふう)奇譚 태풍기담」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    言語の違いを活かした演出が出色
    料理人役:夏目慎也さんとその下っ端役のようなぺク・ジョンスンさんのかけ合いが最高に面白かった。
    単に面白おかしいというだけではなく、言語の違いを活かして価値(力学)の反転を生じさせる笑いのため、本質的に素晴らしい。
    それは脚本、演出、2人役者の演技力・個性が重なってできた素晴らしさだと思う。

    全体として、私は『テンペスト』の内容を知ってしまっていたから、日韓で『テンペスト』をやる際にどういう落としどころに持っていくのだろうということを意識し過ぎて観てしまい、この結論も悪くはなかったけど、、、と思ってしまった。
    『テンペスト』なんて知らない人の方が、色んな見方ができてより楽しめるのではないかと思う。

    ※全体の満足度は星4ですが、夏目さんとパクさんの賭け合いが絶妙なのでその点で星5。

    ネタバレBOX

     とにかく料理人(夏目慎也さん)とその下っ端(ぺク・ジョンスンさん)との賭け合いが素晴らしい。日本人料理人は茨城弁?のようななまりで話し、日本語のつたない朝鮮人の下っ端と対話する。その際、日本人である料理人は、下っ端の日本語の発音をバカにするのだけれど、なまりのある料理人の方が下っ端の朝鮮なまりの日本語以上になまっているのだ。その料理人(日本人)が、偉そうに日本語の発音について下っ端(朝鮮人)を説教している滑稽さ。標準語に対する正しさ(近さ)という権力関係とは別の基準を用意したことで、日本の支配・朝鮮の被支配という関係を反転させる力学が働いたということ。何も考えなくても面白おかしいシーンだけれど、そういう意味で本質的にも秀逸。話の内容にも、料理人が「俺がお前を救ってやった命の恩人だ」と言うけれど、実はそのアイデア(ウイスキー樽につかまって生き延びる)は下っ端が出したものであるなど、似た力学の反転が描かれるので、これは意図的な劇作術だと思う。
     ソン・ギウン×多田淳之介コンビの前作『カルメギ』は日本語と韓国語を混在させる面白さが圧倒的で、それが全体として異常なグルーブを作っていた。今作で試みた「なまり」による方法は、日韓の言語の違いを活かした前作の演出を更に一歩前進させたと言える。この点は本当に素晴らしい。

     ただし、全体の物語の構成には少し物足りなさも残った。私が『テンペスト』の内容を知ってしまっていたため、どのように原作を変えて、日韓問題の落としどころにするのかという点に意識を集中し過ぎて観てしまったせいもある。比較などせずに受け止めたら、もっと別の観点で面白い部分を発見できたのかもしれない。
     途中までは『テンペスト』をなぞるように物語は進む。原作だと、プロスペロ―が自分をハメた者たちを赦すことでハッピーエンドになるのだけれど、今作では南シナ海の島の土人(原作のキャリバンに相当)が反旗を翻し、李太皇の所有する書物(魔術の源泉)を燃やし尽くす、と同時に、火山も噴火し(これは李太皇が使った術が作用したのか?)すべては灰になってしまう。
     近年、『テンペスト』のキャリバンをどう扱うかというのは、新歴史主義批評や脱植民地主義批評(ポストコロニアリズム)の影響をうけて、問題になているという。「植民地主義者プロスペロ―に抑圧される先住民キャリバンの苦痛」ということ。(ちくま文庫『テンペスト』解説:河合祥一郎 参照) 
     まさに今作は、そういう新しい視点からの改変の一つと言える。南シナ海の島の先住民の視点に立てば、日本の圧政から逃げてきた李太皇も支配者でしかない。日本と朝鮮との関係を更に相対化する視点として、南シナ海の島民(広く見れば南洋群島問題も重なる)が示される。日韓問題をこれだけ真正面から扱っている作品でなければ、この落としどころでも充分面白いとは思うのだけれど、日韓問題をガチに展開してきて、、、そこにスライドするのが、どうも釈然としなかった。一見斬新なようで、結局は安全パイに行ったんじゃないかという。かと言って、単純な「赦し」「和解」というハッピーエンドが観たい訳ではないのだけれど。
     書物を燃やすというのが、文明批判を含んでいながら、燃やしているのが主に陰陽五行などの非西欧の文化のものという複雑さは面白かった。

     総じて、大きな展開では不満もあるけれど、細かい部分ではとても面白かった。特に私としては、ソン・ギウン氏×多田淳之介氏共作のもっとも素晴らしい強度は言語の違いを活かした作・演出のような気がしている。その点は今作でも充分に素晴らしかった。

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