半夏の会 読む・話す・演じる 公演情報 半夏の会 読む・話す・演じる」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-2件 / 2件中
  • 満足度★★★★

    危機意識
    「鉄道開通(私のよこはま物語)より」「おとうさんの家、ぼくの家」「汽笛」「雨傘」「羅生門」「ハエ」の6篇を朗読形式で演ずる。

    ネタバレBOX


     鉄道開通、汽笛、ハエは長崎 源之助という作家で初めて作品に接したが、よほど鉄道好きな作家なのであろう。3作品に共通しているのは、西洋的な知に対して日本のそれの遅れ。追いつき追い越せレベルで引っ張ってゆかれた大衆の反応であろうか。前者は、文明開化を象徴する新橋・横浜間丘蒸気開通当時の人力車夫らの反応を中心とし、後者は、原爆投下後の荒野を走る汽車に対する子供たちの反応を描いている。原爆開発だけに当時の日本の国家予算と同額程度の資金をつぎ込み、完成させたアメリカの経済力・知財収集能力と活用能力の根底を為す合理性とプラグマティズムに対し、幼稚なセンスしか持たなかった日本の哀れが悔しい。(ハエについてはラストを参照)
     おとうさんの家、ぼくの家は、F1人災の犠牲になった犬の親子の話だ。実際、犬だけではなく多くの牛、豚、鶏などの家畜、犬、猫などのペットが、息絶えた。親が子を思う気持ち、子が親を思う気持ちが切ない。自分が犬を余り好きになれないのは、切なすぎるからなのだが、犬の、死を賭して義を守る姿勢が鮮やかに出た作品である。作家は、悠崎 仁。
    雨傘は、川端 康成の作品だ。いかにも彼の作品らしく、繊細である。1本の傘だけで、よくまあ、これだけ繊細な世界を描く、と感心すると同時に、今時こんな男女は居ないな、と思わせる作品。
     羅生門は言うまでもあるまい。芥川である。支配階級末端の男が、実存に目覚めてゆく話だが、その決定的変化の鬼気迫る様子迄は伝わってこなかった。
     ハエは、わざとカタカナに開いたそうである。実際、一神教世界に於けるハエは、悪魔の中でも、サタンの副官、ベルゼブブという名で高い位につく。態々、演者がカタカナに開いたというのはそういうことを意識しているだろうし、ゴールディングの傑作「蠅の王」も意識しているかも知れない。
    一方作家の長崎は、かなり西洋に対する日本を意識しているのだろう。長崎という名も本名かペンネームか調べなかったが、ペンネームであれば、かなりアイロニーが入っているかも知れぬ。これは、日本の軍隊の非合理性を端的におちょくった作品であるから、大西 巨人の「神聖喜劇」には、質量共に及ばぬにせよ、非常に面白くアイロニーに富んだ作品である。
     全体としては、長崎の作品が半分を占めることもあって日本の非合理性と心情主義に対する欧米の合理性の対比をベースに、ただ湯を沸かすだけの原発を更に推進させようとする政府・官僚共の愚かさと危険、戦争に向かうアホな安部政権の狂気の結果、川端作品のように良質の感性や、相互監視によって何とか保たれてきた人倫の箍が外れた世界へ、民が船出する真っ暗な近未来迄を描いたといえよう。ホントに日本で上に立つ奴ってのは、どうしてこうもアホなのか? 
  • 満足度★★★★

    充実した内容
    6本の朗読…少し盛り沢山のようにも思えたが、どの作品も印象深いものがあった。朗読劇はあまり観(聞い)ていないが、改めてその魅力を認識した。さて、今回の6作品には共通したテーマがあったのか、その選定理由などは分からなかった。休憩を含め2時間45分。

    ネタバレBOX

    朗読順

    「鉄道開通(私のよこはま物語より)」 作・長崎源之助
    群読(8名)...それぞれの役者の持ち味が出ているのでしょうか、そういう演じ(聞かせ)方であるのかと思った。演じるという感じであり「語り聞かせ」という印象ではなかった。役柄とト書きもあわせて話す時もあるが、その時、物語の主筋を引っ張るストーリーテラーとの区別がよく分からなかった。

    「汽笛」 作・長崎源之助
    広島原爆投下後の病院の様子が痛ましい。小国民としての少年・少女の健気な様子。しかし、ある少女の父親が乗務する機関車が近づいて、汽笛を鳴らす。キレイにまとまりすぎているようで、前段の病院での悲惨な印象が暈けてくる(その対比が狙いか)。

    「お父さんの家、ぼくの家」 作・悠崎 仁
    放射能汚染区域内に残されたペット(犬の父子)の今日的な話。犬小屋で飼い主を待つ犬親子が食べ物がなくなり餓死する哀れ...死に至るまで互いを思いやる温かな会話が心を打つ。逆に人間の愚かさが際立つ内容である。全体的に明るく優しい雰囲気に救われた。

    「雨傘」 作・川端康成
    情緒的で、繊細という印象である。美しい旋律にのった男女の淡い、そして気恥ずかしい様子が微笑ましいが...。小説では、その世界の美しさを想像出来そうであるが、朗読という具体的な声色、話し方の雰囲気が、自分なりの小説イメージを作れなかった。

    「羅生門」 作・芥川龍之介
    映画が有名であり、自分も観たことがある。やはりその映像記憶を辿っている。その鬼気迫る映像(人の心に棲む鬼)以上のことは、この朗読からは感じ取ることが出来なかった。

    「ハエ」 作・長崎源之助
    圧倒された反戦物語。軍隊内で行われる不条理が若干のユーモアを交えながら切々と訴えてくる。主な登場人物は2人だけだが、学問には疎いが純粋真面目、もう一人は知識人だが傍観冷静という性格の違いにも関わらず、友情を育む。そして軍隊内でのハエとり競争が招いた悲劇...その情景がまざまざと浮かぶ。

    全朗読に共通しているのが、その情景がイメージしやすいような音響・照明効果という技術面である。例えば、「ハエ」では、音響では...軍靴・銃声、照明では...灼熱の太陽・夕日・日暮を赤橙・青紫・暗黒(暗転)というように照射色が変化していく。

    とても充実した朗読劇であったと思います。

このページのQRコードです。

拡大