さらば、仏の顔 公演情報 さらば、仏の顔」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.2
1-5件 / 5件中
  • 満足度★★★★

    濃密でした
    当たり前だが、坊様は宗教人である前にひとりの人間…仏門の世界でも苛め暴行がある、という表層的なことを描きつつ、実は腹に渦巻くドス黒い汚物を見せられたようだ。やり場のない憤懣や恐怖がヒシヒシと伝わる濃密な芝居で、最後まで緊張感があった。
    また、狭い舞台に宗教に関する装飾が施され、雰囲気は寺院内である。演技は、迫真で見応え十分であるが、役者間に演技力に差が見えたのが少し残念だった。
    また、些細ではあるが気になった点は「ネタバレ」へ

    ネタバレBOX

    なぜ、寺で1年前に暴行事件が起きたのか?
    また、事件(普通は悪評)にも関わらず安寧を求めて人(女子高生、不動産会社社員)が集まるのか?
    という説明がもう少しあると、さらに公演内容に深みが出たと思う。
  • 満足度★★★★

    三島とも水上とも異なる僧侶による寺放火
     カルマとの相克。(追記後送)

  • 満足度★★★★

    いちめんの般若心経
    あのアフリカン寺越が名実ともに“坊主”になるという究極の設定。
    人間関係においては、それが小さな集団であればあるほど
    発生する力関係が、どうしようもなく人の人生を支配する。
    宗教の現場という“救い救われる”はずの空間で起こる“救われない”話。
    熱量の男アフリカン寺越の、台詞のない場面の視線に惹き込まれた。

    ネタバレBOX

    畳敷きの舞台、正面の壁いっぱいに書き初めみたいな半紙が貼られている。
    書かれているのは般若心経だ。
    先代の娘が継いだ寺は廃寺寸前、毎日売らないかと営業(松前衣美)が来る。
    ここはその離れで、英生(えいしょう・アフリカン寺越)が
    不登校の少女あかり(清水理沙)に写経と座禅を教えている。
    女住職(羽鳥友子)は、あかりが希望を見いだせるまで寺は売らないと決めている。
    この寺ではかつて僧たちによる暴力事件が起こっており
    英生はその被害者、先輩の佑人(ゆうじん・末廣和也)は
    次のターゲットにされるのを怖れて加害者側に回ったという過去があった。
    最近入って写経を始めた東(宇徹菊三)という男は、
    手癖は悪いが人の本音を見抜くところがあった。
    英生の言葉とは裏腹にくすぶり続ける復讐心に気付き、
    自分が代わりにその復讐をはたしてやる、とある行動に出る…。

    壁一面の般若心経につい見入って、意味の解りそうな一文を探してしまう。
    英生の矛盾と葛藤が全編を通じて重く問いかけて来る。
    あの時加害者側に回った先輩に対して「もう赦しています」と答え続けながら
    いまだに小さなボディタッチにもびくっと反応してしまうトラウマの影。
    不登校のあかりを「いつか変われる、きっとできる」と励ましながら
    自分はどうかと省みれば、結局大人になっても何も変わっていないじゃないか。

    女住職は賢く理解ある魅力的な人物だが、それでも
    “佑人は英生を庇って暴力に加担しなかった”と聞かされそれを信じている
    愚かで善良なところも持ち合せていて、この辺りの世間の描き方がリアル。

    結局東が英生と佑人の隠された本心をむりやり引きずり出して
    白日のもとに晒したために、二人は再び対決することになる。
    「先輩はなぜあのとき…」
    「いつまでもトラウマとか言いやがって…」
    そして禁じられていた暴力が待っていたように火を噴く。

    いつまでも先輩面して英生の上に立ち、
    「もうあの時の事は赦しています」と言わせ続けることでしか
    自分を保つことが出来ない佑人の虚ろな人生が浮き彫りになる。
    この手の輩が発信する無責任な発言が、たとえ一時的にでも
    女住職のような立場の人間の信頼を勝ち取り、
    誰かの人生を翻弄するということに対して
    観ている側のいら立ちと怒りがMaxになったところで
    寺の売却を知った英生がついに離れに火を放つ。

    火を放つまでの英生にあと一歩近づきたかったと思う。
    それは例えば、「これ以上佑人と一緒にいたくない」とか
    あかりに対して「だめかもしれないけど自分も一緒にがんばるから」という
    英生自身から出る最終宣言が聞きたかったということでもある。
    誰にも真実を語らず弁明もせずに火をつける、という行為は
    ひとつステップを飛ばしてしまったような未消化な印象を受けた。

    もっともそれこそが英生の抱える一番大きな問題なのかもしれない。
    “声を上げる”事さえ出来ていたら、そもそも彼は
    いじめや暴力に晒されずに済んだかもしれない。
    そう考えると、この結末は英生らしいとも思える。

    アフリカン寺越の一瞬の緩みも無い表情が素晴らしい。
    どんな場面でも“いじめと暴力の過去を背負った人間”の顔をしている。
    それはたとえ嬉しいことがあって部屋をぐるぐる歩き回る時にも、である。
    女住職を挟んで、先輩に嘘を強要する視線を送られるシーンの繊細な視線も良かった。

    その先輩を演じる末廣和也さん、中途半端でいい加減な、
    それでいて誰かの上に位置しなければ自分の存在を確認できない人間を
    いや~な感じの台詞で表現していてとてもよかった。

    結構前方の席だったが、肝心の火をつけるシーンが
    前の人の頭でよく見えなくて残念だった。
    少し煙が立ったかと思ったら燃え広がるような照明で、
    アフリカン寺越の表情を下から照らし出したところが素晴らしかった。
    改めてこのタイトル、巧いよなあ。


  • 満足度★★★★★

    執着、依存
    全体に前作品と同じような印象を受けました。

    ネタバレBOX

    子供の頃からいじめを受け、このお寺に入ってからも先輩たちからの暴力がトラウマになり、暴力を見聞きするだけで身体が硬直してしまうような英生(えいしょう)は過去を断ち切ることができず、むしろ過去に執着しています。

    先輩たちの暴力を止めたとされる兄貴分の佑人(ゆうじん)ですが、実際は次のターゲットになることを恐れて暴力に加担していました。英生の先輩格ということでのみ自分を保つことができ、英生に完全に依存しています。

    前住職が亡くなっていやいや跡を継いだように見えた女住職でしたが、彼女の言動は素晴らしかったです。やればできる教的な考え方についつい陥ってしまうことを悔いていました。そうなんですね。アドバイスするなとは言いませんが、先ずは話を聞いてあげることが重要で、他人にアドバイスできると思っている人は傲慢な人です。何かをすれば何かができるなどと言い出したらインチキ宗教の始まりです。そして彼女の潔さの真骨頂、もう一度暴力事件が起きたら寺を売るという約束を即実行しました。そんな彼女でも、過去の暴力事件も今回の暴力沙汰も本質を見抜くことはできませんでした。それも現実です。

    新たに入った男の、相手の本性を覗き見る能力には恐れ入りますが、短絡的な行動には小人振りが表れています。もったいない限りです。

    英生の立場からすると、英生と佑人は離れなければなりません。そのことを本能的に気付いたかのように英生は火を付けたのでした。

    ところで、冒頭で女住職が天国という言葉を使っていましたが、そこは極楽浄土でしょうと思いました。
  • 満足度★★★★

    きたな
    日ごろ、なんとなく腑に落ちずに澱のようにたまっていく「?」がある。
    その「?」のうちのいくばくかを畳の上に乗せて、まざまざと見せつけられた。

    舞台美術のインパクト、気詰まりなワンシュチュエーションの舞台。
    テンションの高い役者たち。
    初日ならでの硬さを感じたが、それはそれで独特の緊張感があって、興味深かった。

    後程ネタバレBOXを追加する予定。

    ネタバレBOX

    壁一面に貼られた般若心経が効果的だった。

    リアルにデフォルメされた登場人物の行動とエピソードで綴られた1時間30分は過剰な緊張感の中を展開していく。

    東役の不気味さは秀逸。
    これくらい印象と行動が一致している人はいっそ気持ちがいい。

    私は多少病的なくらい暴力が嫌いだが、展開を追っていて、直接的暴力のほうがむしろいさぎよいのかもしれない、という感想を持ったことを記しておく。
    生きてきて、不条理な目にもずいぶん合い、それらに対処してきたが、それらの納得のいかないでたまっているどろどろはいつか浄化できる(する)のだろうか。

    個人的にこの芝居が好きかといわれると好きではないが、よくもまあ、ここまで創りあげたものだ、と思う。

    主人公の「誠実さ」がその場しのぎのうそをつく行動によりあいまいになってしまっているように思えたが、人の弱さ、というリアルを追求するとああなったのも納得できるとはいえ、説得力をやや欠くのは否めなかったような気がする。

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