グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory 公演情報 グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.7
1-10件 / 10件中
  • 満足度★★★

    社会問題の多面性に挑む真面目さ
     インドでの代理母出産をめぐるさまざまな問題点、当事者たちの葛藤を描いた佳作。インドのクリニックに取材したというだけあって、代理母たちの生活、特に帝王切開をめぐるやりとりには痛いほどのリアリティを感じました。
     先進国と途上国の関係の複雑さはもちろんですが、この物語の起点にある晩婚・晩産、不妊といった問題もまた、決して当事者本人だけの責任に落とし込まれるべきでない、非常に複雑な背景を持っているものです。さまざまな視点をテンポよく交えて物語を進める本作には、一面的な善/悪を作らない工夫が凝らされているとも感じました。もちろん、そのことによって、多少、典型的な人物造形をせざるを得なかった部分も、ドラマとしての盛り上がりを作りづらかった面もあるかもしれません。しかし、社会問題への取り組み方としては、誠実ですし、だからこそ、「正しさの主張」を感じることもなく、違和感なく観ることができました。
     それにしてもなぜ、若い男性がこの問題をとりあげるに至ったのか。そのモチベーションはどこにあったのでしょう。観劇後、ふと疑問に感じたのも事実です。ラストシーンでは、待望の子どもを得た女性が、これまでとは異なる日常に戸惑う姿が描かれます。なんだか皮肉なこの結末は、問題の複雑さを表現してもいるのですが、ここにもう少し、「社会の問題」としてこの課題に取り組んだ、モチベーションが見えても良かったなと思いました。

  • 満足度★★★

    真っ当すぎる物足りなさ
    アフタートークを聞いて、主宰の鈴木アツトさんの誠実さに好感をもったし、物語としてはとても真っ当なのだが、どこか最初からずっと「物足りなさ」を感じていた。それはシナリオ、役者、演出、すべてに感じたことである。ただ、こういう物語性を誠実に作り続けてもらいたいという気持ちもある。

  • 満足度★★★★

    ネタ化される現代の生命についての考察
     不妊と代理母、そしてタイトルになっている“世界規模の赤ちゃん工場”という旬の社会問題と真正面から向き合ったストレート・プレイでした。先進国と発展途上国の搾取の構造や、何もかもが商売やニュースのネタにされていく現代の消費文化について、観客の私も当事者の一人になって考えさせられました。

     「(自分と配偶者の遺伝子を継ぐ)子供が欲しい」という“平凡な幸せ”を求める日本人女性が、不妊に悩んだ末に代理母出産を決心します。「外国人向け代理母出産」というビジネスが実行されていく中で、主人公の家族の反応や、インド人代理母と依頼者夫婦との関係、胎内の精子と卵子の様子などが描かれていきます。出来事を一面的ではなく表と裏から、もしくは横から、上からも見つめる複眼的な視点を持つ戯曲でした。セリフが確信を持った言葉に聞こえたのは、作・演出の鈴木アツトさんが現地取材をされたからかもしれません。

     深刻な問題を生々しく扱っていますが、コミカルかつ軽快に展開していくので暗くなり過ぎませんし、ファンタジーの要素も大いにあります。場所の移動が頻繁にあるため転換に工夫が見られましたが、残念ながら演劇的なフィクションの立ち上がり方には、まだまだ改善の余地があるように思われました。

     小山萌子さんはスリムで美しい体型も活かして、主人公砂子を魅力的に演じていらっしゃいました。目的達成のためには手段を選ばないエリートの砂子は、ともすれば観客の嫌われ者になりかねません。でもわがままを通す子供っぽさの元にある切実さが伝わってきたので、人間として愛らしく見えました。真剣であればあるほど滑稽に映るのも良かったです。彼女を媒介にして出来事を多面的に解釈することが出来ました。

    ネタバレBOX

     精子くんたちが被り物を着て登場…いや~…リーディング公演を観ていたので知ってはいたけれど、やっぱりちょっと引きますね(笑)。でもすべて女性が演じているし、ミニスカートの衣装も可愛らしく見えてきたので、すぐに慣れました。

     砂子の子供を産むことになったインド人女性ナジマは夫の借金を返すため、つまりお金のために代理母になりました。ナジマに感謝した砂子は彼女に手紙を書き、やがて2人の間で文通が始まって、ナジマは文字の読み書きができるようになります。そんなほのぼのとしたエピソードを挟みつつ、心が痛む事件が連続します。砂子は「赤ちゃんに(自分以外の女性の)産道を通って欲しくない」という理由でナジマに帝王切開を強要し、ナジマはお腹の中の赤ん坊に情が湧いて、代理母ハウスから逃亡します。結局ナジマは無事に女児を出産しますが、生まれた途端に砂子に取り上げられ、一度も抱っこできないまま、代理母ハウスから姿を消しました。

     砂子の親友の女性ジャーナリスト那智とカメラマンが、インド人女性に代理母出産を依頼する日本人を探してインドに来ており、偶然、砂子とその夫に遭遇するという事件も起こりました。那智は経済格差を悪用した搾取だと砂子を批判し、砂子は「ごく普通の幸せを望んで何が悪いの?」と反論。未婚で子供を産む予定もない那智は、砂子が自分のことを「普通ではない」と見なし、蔑んでいるのだと言い返して、2人は決別します。

     カメラマンは「褐色の肌のインド人の母親から、黄色い肌の日本人の赤ん坊が生まれてくる写真を撮りたい。それぐらいインパクトのある写真が欲しい」と言います。これも代理母ビジネスと同様、人間が命を生み出す営みのネタ化、商品化です。真面目な日本人同士の胸がしめつけられるような対立の後に、砂子の夫が「もし日本人がほぼ絶滅して俺たちが最後の夫婦(つがい)だったとしたら、誰も代理母出産を非難しないんじゃないか」と言いました。種の保存というテーマが追加されて、ぐっと世界観が広がりました。人間に限らずあらゆる種の生殖、繁栄、衰退、絶滅を想像し、さらには地上から宇宙へと思考を飛ばすことが出来ました。

     念願の赤ちゃんを得て帰国した砂子は、普段の生活を再開します。朝起きて、着替えて、珈琲を淹れて、ベビーシッターがやってくる。そして以前どおりに出勤して「変わらない朝の風景」を繰り返すのです。妊娠も出産もせずに子供を得て、乳児期の子育てもしない砂子の姿を、冷やかに照明が照らして終幕。解釈は人それぞれだと思いますが、私は作者の鈴木さんが代理母出産に異議を唱えているのだと受け取りました。

     細かいですが、笑えたセリフを書き留めておきます。砂子の夫は食品を入れるパックやビニール袋などを製造している会社に勤めています。冷凍保存された砂子の卵子とともに彼の精子をインドに送ることになり、彼はその場で「新鮮な精子を提供」させれられることに。精子を入れる容器が彼の会社の製品だったというが可笑しかった!あと、「外は競争社会なんだろ?出るのが怖い」という精子のセリフも(笑)。

     ※セリフは正確ではありません。
  • 満足度★★

    「女の幸せ」というステレオタイプ
    ラスト間際の、日本語とヒンディー語のやりとりはよかった。いずれも日本語で行われていたものだが、俳優たちはお互いの言葉がわからないというすれ違いを演じていて、観客だけが味わえる妙があり、面白かった。

    インドの病院に関しては取材をしたこともあり、とても勉強になるし、リアリティがあった。しかし、そこに介入するフィクションがどうしても稚拙に見える。ドキュメンタリーを撮っている友人と、インドの街で偶然会う設定はどうしてもお粗末。女の幸せは子どもだけか、そうじゃないのか、問題提起するにしてもそれではやり方が甘いし、ステレオタイプの枠を出ない。それにしても、こんなに話し合いもしてくれて、理解もしてくれる旦那さんはうらやましいなあという感じ。

    ステレオタイプと書いたけれど、それはキャリアウーマンの主人公が結婚を思い立ち、お見合いをするところから細かく細かく描いていることにも原因がある。主人公の家族も、良くも悪くもステレオタイプ(こうるさい専業主婦の母と、尻に敷かれた父、夢を追う自由奔放な妹)で、代理母のメインテーマに必要なディテールとは思えない。すべてを平等に書きすぎているので、主人公の葛藤やインドの代理母の繊細な心情描写の邪魔になってしまう。

    精子と卵子の劇中劇は、Eテレのストレッチ番組みたいなかぶりものがださすぎると思った。選ばれた精子から命が生まれること、その大切さはもちろんわかるけれど、ださいのは感受の妨げになるので今後考えてほしい。

  • 満足度★★★★

    見応え十分の社会派エンターテインメント
    代理出産に関わる諸問題を余すところなく描いていて、問題提起的な内容ながら、芝居としても十分面白い。エゴとお金のことを考えさせられて、気分はちょっと重くなってしまうのだが。なんとなく唐突なラストが印象的。今後は提供された卵子や精子で生まれた子供たちのアイデンティティーについても舞台化して欲しい。

  • 考えさせられました
    重い内容になると思って行ったのですが、とても分かりやすく、テーマに引きずられて重々しくなってしまうこともなく、とても楽しかったです。
    ですが、考えるべき点はしっかりと伝わりました。
    演技もとても上手で、勉強になりました!!

  • 満足度★★★★★

    素晴らしい!!!
    難しい問題を自然な流れで筋道立てて描き、真面目にしかも面白く仕上げた秀作でした。

    ネタバレBOX

    代理出産という難しい問題について、依頼する側、受け入れる側、報道する側の立場から焦点を当てた素晴らしい作品でした。ついでに言うと、精子ちゃんや卵子ちゃん、胎児にもスポットが当たっていました。

    不自然さは全く感じられませんでした。結婚なんて全く考えていなかったキャリアウーマンの砂子が結婚に至る過程から代理母を依頼するに及ぶ経緯も自然な流れでした。

    インド取材もされたということで、インドにおける受け入れ側の事情やクリニックの様子も良く分かりました。自宅で静養しながら普段の生活を送っているのかと思っていましたが、クリニック内で食事や健康面を管理されながら暮らしていることを知り、まるでお蚕さんのようだと思いました。お腹の子に感情移入し過ぎないという心の持ちようには、胎児の成長には逆効果なような気もしますが、代理母の大変さが窺えます。

    報道側が指摘した搾取という言葉は重かったです。しかし、インド人に1百万円払うのが搾取で、アメリカ人に30百万円払うのは搾取じゃないのか、自宅が建てられるぐらいのお金を払っても搾取と言われるのかと考えてしまいます。

    そもそも論については本当に難しい問題だと思います。自分の遺伝子を残す方法があるのなら利用したいという気持ちは分かります。依頼する側が我が子には他人の産道を通ってほしくないからと帝王切開を希望するというのも良く分かります。しかし、そこまで行くと、餌を与えて太らせて、太ったら腹を切り裂いて取り出すまさにフォアグラ工場のようで、依頼する側も真摯な気持ちを持つことが大切だと思いました。

    インドから赤ちゃんと一緒に帰り普段の生活に戻った砂子ですが、日常生活に急に一仕事増えてしまったような負担感を感じ、本当は赤ちゃんに対して愛情を感じていないのではないかと示唆させるような一瞬の間がラストシーンにはありました。よっこいしょと言いながら動いたり、それこそ腹を痛めることがやはり母性の醸成には必要なことなのかとガツンとやられましたが、そんなことを言い出したら養子の親子関係は成立しなくなり、決してそうではない、これから真の母性が芽生えるのだと信じたくなりました。

    ところで、精子や卵子が登場すると、普通はおちゃらけてしまって失敗するものと思っていましたが、ストーリーに上手く溶けこんでいました。精子というと男性という発想になりますが、女性が演じたのも効果的だったように思います。簡潔な着ぐるみも良かったです。

    夫の勤務先が包装資材に関する会社というのも、子宮頸がんの説明や精子を採取する際の小ネタに利用されていて、考え抜かれた演出に感服しました。

    難しい問題をこんなに面白く描けるなんて本当に素晴らしいと思いました。
  • 満足度★★★

    ネタばれ
    ネタばれ

    ネタバレBOX

    劇団印象の【グローバルベイビーファクトリー】を観劇。

    高年齢で未婚の砂子は、結婚と孫というプレッシャーを日々感じながら、どうにかお見合いの末、結婚は出来たのだが、子宮癌の為に子供を産めない身体になってしまう。そして砂子はインドで代理出産という方法を取り、子供を作る決意をするのだが・・・。

    代理出産に焦点を当て、代理出産を依頼する側の本人と家族、低所得の為に代理出産を生活の糧にしているインド人、そして精子と卵子の結合と様々の視点から子供を作るという事に対する問いかけの作品である。 内容は大きな社会問題を扱っているのだが、展開の上手さもあってか、どの角度から見ても、この問題の根本は何か?という答えが自ずと導かれるように出来ていて、観客も全員が納得しながら観ていける。
    そして最後のオチが作家のメッセージでもあるのだが、これがどうにも分かりずく残念だった。ただそのオチは終演後の作家のトークショーで理解出来たのだが、今作は分かりやすい描き方だけに、劇中で理解出来なければ、傑作も駄作になってしまうなぁ~と感じた次第だ。

    場所が千川劇場だからか、観客の年齢層が高かった。
  • 満足度★★★★★

    明るいドキュメンタリー
    代理出産、しかも発展途上国インドの代理母。今後ますます取り上げられるだろうテーマを、小学生にもわかりやすくユーモラスに、かつ問題提起もしっかりで、そのバランスが実にすばらしい作品でした。脚本と演出がみごとにマッチし、キャストの皆さんものびのび演技していたように思います。
    精子と卵子のシーンがちょうど良く挿入され、代理出産を依頼するクライアントの立場、それを頼まれた体を貸して生む側のバランスもよかった。とにかくバランスが最高なのです!!代理母役の水谷さんの母性を感じさせる演技よかったです。とにかく強くお勧めしたい作品なのです。
    は~赤ちゃんを埋めない男の自分が悲しくなります。だってどんなに金持ちになっても、王様になっても唯一経験できない行為なんだから。
    出産を経験できる権利のある女性がほんとうらやましいです。

  • 満足度★★★★

    主人公の今後が気になる。
    オープニングはどんなお芝居になるのか想像がつかなかったが、よく出来た社会派のホームドラマ。

    取り上げたテーマがとても的確で、他人事に出来ない重さを持っていた。その重いテーマを主人公夫婦が好演。見終わった後になんとも言えない引っかかりが心に残るのは演出家の狙いだろう。

    この後の人生が気になってしょうがない。砂子の幸せを祈りたい。

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