東京暮色-映画「東京暮色」から- 公演情報 東京暮色-映画「東京暮色」から-」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    解体し再構成して見えてくる小津のシナリオの秀逸さ
    立教大学の授業の一環として学生たちによる上演である。

    ちょうど、神保町シアターで小津安二郎の全作品上映特集が開催中で、「東京暮色」も折よく上映され、

    数年ぶりに家人と鑑賞して、この上演にも同行した。

    ほのぼのと家族を描く穏和な小津監督には珍しく、悲劇味の濃い作品である。

    地味な内容だけに舞台化したら、どうなるのか、興味があった。

    映画は2時間を超えるが、1時間35分にまとめてある。

    シナリオを解体して立体的に再構成していく点が興味深かった。

    正直、映画を観ていないと細部などはわかりにくいかもしれない。

    この公演で改めて、小津のシナリオの巧さ、それに命を吹き込んだ名優たちの演技力を思い知った。

    脚色・演出の松田正隆氏は、小津の台詞は変えずに上演している点に好感をもった。

    会話劇を手掛ける小劇場の若い現代演劇作家には、小津の脚本から学べることは多いと思うので

    ぜひ、小津の映画を観てほしいと思う。

    授業ではこの前にギリシャ悲劇を上演しているので、同様に普段着で現代劇をと、選んだそうである。

    松田氏は「東京暮色」とギリシャ悲劇の共通点を感じたという。

    演劇化してみると、確かにそんな印象がある。小津を尊敬する後輩の吉田喜重監督もギリシヤ悲劇を意識した作品を手掛けているので感慨深かった。

    ネタバレBOX

    笠智衆の演じる父親の独特の台詞の間が、この劇でも生かされている。

    全体に、学生の演者たちは棒読みに近い平板な台詞のしゃべりかたをしていたが、笠さん自身が棒読み的なセリフ回しなので、違和感がないのかもしれない。

    映画では叔母役の杉村春子の達者な演技が印象的だが、何気ないセリフを杉村が生き生きとしゃべることのすごさを改めて感じる。

    事務員にお手洗いの場所を聞いて、小走りに急ぐ場面もカットなしに上演されたが、学生はただ走っているふうにしか見えないが、

    杉村さんは、それまでトイレを我慢していた女性の和服姿らしい走り方をしているのが憎らしいほどうまい。


    映画で中華屋の店主、藤原鎌足が驚いて酒をこぼす場面、若い観客からも同じように笑いが漏れた。

    一方、店の名前を看護婦に念押しする場面などは、映画ほど可笑しく聞こえないので、観客は笑わない。

    ここなども、親切そうでも、店主の商売人らしいちゃっかりした一面が出た台詞なのだが、さすが藤原さんの味なのだろう。

    山田五十鈴の実母が原節子の姉娘を心待ちに汽車の窓の外を気にする場面(結局、娘は見送りに来ない)も、学生の演技には映画のような哀愁は感じない。

    妊娠中絶した後に事故死した妹のさみしかった気持ちを父親とふたり、おもいやりながら、姉娘が離婚を思いとどまることを父に告げるラストが、演劇ではよりくっきりと迫ってきて、シナリオの秀逸さを改めて感じさせてくれた。

    学生さんたちには事前に映画を見せたのかどうか松田氏に尋ねたら、「けっこう、みな個々に観て知っていたようです」とのこと。

    個々の普段着で演じるのはかまわないとして、父親がネクタイを結ぶ場面など、赤のチェックのシャツではなく、白いシャツを着て実際にネクタイを結べばもう少し、自然に見えるのではないかと思った。

    見合い写真は台紙に貼ってあるものなのに、まるでスナップ写真を視るみたいに、掌でペラペラ扱うのも気になった。

    また、長テーブルを遣うのであれば、もう少し活用してもよい場面もあったと思う。

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