公演情報
「木ノ下歌舞伎「心中天の網島」アクセシビリティ版」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
満足度★★★★
何かイメージで今まで観なかった木ノ下歌舞伎。歌舞伎という時点で難解でマニアックな感じ、面倒臭そう。近松門左衛門の代表作『心中天網島』も興味なかったが、一回観ようと決めた。衝撃。もっと早くちゃんと観ておけば良かった。
舞台手話通訳の田中結夏さんは劇団銅鑼の『いのちの花』で初めて観て感銘を受けた。役に感情移入して一緒に演じながらの通訳。座・高円寺の『小さな王子さま』も良かった。今作では真っ赤なチョゴリのような袈裟を着て、ステージ中央に立ちスタート。上手や下手に動き時には涙ぐみながら手話通訳を熱演。最早出演者。
上手と下手に吊られた巨大なモニターで全台詞が投映されることが非常に大きい。耳では理解出来なかった台詞が漢字として視覚的に見るとよく分かる。意味が掴めず聞き流していた台詞一つ一つの意図を味わえる。これが常にあれば伝統芸能を観ることへの抵抗がなくなる。
アクセシビリティとは視覚聴覚障がい者が当たり前のように楽しめる観劇の場作り。それは特別なことじゃない、当たり前なんだという考え方。他者との関わり合い方に表現者が真剣に向き合うこと。他人に分かるだろうか?伝わるだろうか?作家の糸井幸之介(ゆきのすけ)氏は近松門左衛門と徹底的に向き合って「愛と死」に行き着いた。
「大慈大悲の普門品(ふもんぼん)、妙法蓮華きやう橋(京橋)を、越ゆれば至る彼の岸の、玉の台(うてな)にのりをへて、仏の姿に身をなり橋(成橋)」
どこまで向き合うか向き合えるか向き合うべきなのか、それは判らない。だが非常にその考えの方向性は愛おしい。
視覚聴覚障がい者の方の感想を聞きたい。
実演鑑賞
満足度★★★★★
2015年初演、2017年再演を経て、2026年が三度目の上演となった本作。今回は「アクセシビリティ版」と銘打ち、字幕、手話通訳、音声ガイドなど、多くの鑑賞サポートが導入されています。元々木ノ下歌舞伎は、古典の名作を現代の人々へどのように伝えるか? に注力してきた団体なので、アクセシビリティへの積極姿勢は容易に理解できます。
個人的に三度目の観劇になりますが、とても素晴らしい上演でした。全編を通して、各シーンの解像度が高く、ここで何を表現し、どう物語が紡がれていくのか? が客席へ明確に伝わってきます。現代口語、歌舞伎で使われる言葉、糸井さんが作詞した歌詞など、複数の言語で上演台本が構成され、いま思うと、全編リズミカルに流れていく心地良さ、緩急なども非常に効果的でした。俳優たちも素晴らしく、初演から「おさん」役で出演する伊東沙保さんが特に素晴らしかったです。遊女との恋愛にのめり込む夫・治兵衛への態度や対応など、価値観の異なる現代人に観てもらうのに、とても苦労しそうな役どころを、奇跡的なバランスで好演していました。
終盤のラスト15分ほどは、自然に涙が出てきました。テーマ曲も、ラストへ向けた演出も素晴らしかった。「清濁併せ吞む」という言葉がありますが、人間の存在を、懸命に許容・肯定しようとする名作だと思います。