満足度★★★★
マフムードの背景にあるもの
以下は、毎週非暴力抵抗運動を続けているパレスチナの農村の若者が、イスラエル兵士に惨殺された模様を書いた自作の詩だ。マフムードの背景にあるものの、参考までにと上梓する。また、タイトルの”ぞうさん”は惨殺された若者のあだ名。体が大きかったのでこのあだ名がある。
ぞうさん
ぞうさん あなたは その おおきな からだで たこをあげていたね
ちいさな むらの こどもたちの わのなかを ちょうちょのように まっていた
おっと こどもを うばわれ
ひとりやむ おばあさんの くらい へやを
あなたの おおきく あたたかい からだ と はじける えがおで
とびまわった
なぜ ぼくは かこけいでかたらなければ ならない
もじが かすむ くもって みえない
しはいされるものに むずかしい じせいを
いまは まだ なのることさえはばかられる みんぞくに
ときに あなたは せまった
ひぼうりょくこうぎこうどうの さいぜんれつで きけんなこうげきにさらされながら
ほかのなかまを あなたの おおきな こころ と
それに くらべて ちいさな からだで まもった おおきな おとこ
それで あなたの あだなは ぞうさん だった
なぜ ぼくは かこけいで かたらなければならない
にせんくねん しがつじゅうしちにち
あなたは いちども かかしたことのない
こうぎこうどうの さいせんたん に いた
いつもの ように
そこにゆくまえ あなたは むらの おばあさん に
おはよう を いいに ゆき
たった ひとり の あに を ころされ
みずから も きず ついた しょうじょ の ために
ちぇっくぽいんと を こえて
いちりんの ばらを かい しょうじょをみまった
まとわりつく こどもたちと あそび
なかまと みずぎせるを すって
こうぎに きた
なぜ ぼくは かこけいで かたらなければならない
へいしたちが すいへいうち を し
ひみつけいさつが すぱいかつどうを くりかえし
てきの きょうりょくしゃ が
ぐんじこうどうの ひきがね を ひくために
その ひとごろしを せいとうか する ために
まぎれこむ ことを
こしたんたん と ねらって いる
そのなかで あなたは よびかけていたね
なぜ ぼくは かこけいで かたらなければならない
こんなんな じせい を
あなたの いまは まだ
みずからの みんぞくの なを なのることさえ はばかられる なかまに
てきの もくぜんで
そのときだ やぎ(ひつじ)が はいってきたのは
てき と あなたのあいだに
とうせきすらしていないが こうぎする あなたがた と
すいへいうちを やめない へいしたち の あいだに
あなたは うつな と
いいつづけていた やぎ(ひつじ)がいるんだ と
へぶらいごで
あなたがた のうみんにとって
いのちを かけて まもるべき
なにも
いまは もたない
とちを うばわれた
のうみんに とって
たった いっぴきのやぎ(ひつじ)が
どれだけ おおきな いみを もつか
へいしたちにも わかった はずだ
だが へいしは うった
ぞうさんの ひだりむね を ねらって
かれの てきにさえ すかれて きた
あたたかい こころを
へいしのつみを たえがたい ものに したから
いっぱつ
たった いっぱつ
しきんきょりからの
しんがたさいるいだんによる
そげきが
おおきな おおきな こころに
たった ひとつ ちいさな あな を あけた
ぼくは なぜ かこけいで かたらなければ ならない
ちいさな さいるいだん が おおきな こころを ころしたあとにも
ちいさな むらに
あさは きた
ひとびとの こころには
わらいが たえたように おもわれた
わらい が うしなわれたことの いみは わからなかった
はじめ
むらの ひとびとは
まいにちの くるしみの なかで わらい の いみしたものが
だが ほどなく むらのものぜんいんが
うしなったものの おおきさに きづいた
なぜ ぼくは かこけいで かたらなければばならない
ぞうさん が なくなった
よくじつ
へぶらいご を あやつる ひとびとの “くに” でも
ぞうさんぎゃくさつ に こうぎ する こうどう が あった
しかも このような へぶらいびと は まだ まれである
ちからで おさえつけることで
みずからの はんえい を おうかするものは
みずからの つみから のがれるために
はじめに じぶん を あざむく
あとは うそを ぬりかためるのに いそがしい
“じぶん”たちが どれだけ おおきな
おおくの たいせつな ものを うしなったかを
きょえい で つつむ
ところで ぞうさん こころやさしい ゆうしゃ
ばっさむ いぶらひむ
らはま の おとうさん
これが
あなたを
いたむ
うただ
あなたを かこけいで かたらぬ ために
ぞうさん
あなたの えがおを
しいたげられたもの すべてのうえに
わけへだてなく
ふりそそぐ
ひかり の みなもととして
いま
われわれが ひきつぐ
ぞうさん
ぞうさん
あなたは
みもしらぬ わたしのこころにさえ
ほのおのたねを まいた
どんなに しいたげられても
どんなに おおいかくされても
けっして きえることも とだえることもない ほのおのたねを
このたねは おおきな ぞうさんに にあわず
とてもちいさい
ちいさすぎて ひとつ ひとつでは
ほたるのともす あかりにすら
およばない
しかし
この ほのおのたねは
ひとびとの こころのおくに
ふかく しずかに
そして
ちゃくじつに
ね を おろして いる
ぞうさん
いつか
あなたのように おおきく
あなたを こえて
さらに おおきく なってゆくさまが
わたしには みえる
だから
ぞうさん
あなたは
やすらかに
ねむりに
ついて
いいよ
あなたの あげた たこが
わたしたちの こころのなかに あり
わたしたちが きぼうを すてないかぎり
あなたは わたしたちの ゆめを つかさどるのだから
ぞうさん
あなたの うえに とじた そら
ぼくたちは そこから はじめる
はじめるより ほか
ないのだ
ぞうさん