泳ぐ機関車 公演情報 泳ぐ機関車」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.7
21-23件 / 23件中
  • 満足度★★★★★

    生きろ! 生きろ! 生きろ!
    機関車のように力強く、向日葵のように明るく。
    ユーモレスクに導かれながら。


    『泥花』『オバケの太陽』に続く炭鉱三部作の最終章。

    ネタバレBOX

    桟敷童子の良さがたっぷり詰まった作品。
    一番好きな作品かもしれない。

    ハジメは、母の死と引き替えにこの世に生を受けた。
    ハジメたち3姉弟は、「神様」と呼ばれ炭鉱夫たちにも慕われている炭鉱主を父(辰介)に持っている。
    父の義母は、町の有力者であり、炭鉱夫たちと仲良くしている辰介のやり方を気に入らない。

    ハジメは自分の殻に閉じこもりがちな少年で、家にある祠が恐いと感じていた。
    あるときその祠に願掛けをしていると、手作りの段ボール機関車に乗った少年が現れる。ハジメはこの孤児の少年を「神様」だと思い込む。

    父の炭鉱で落盤事故があり、さらにエネルギー政策が石炭から石油へと転換していくことにより、炭鉱主の父は追い詰められ、家を出てしまう。

    そんなハジメとその家族の物語。

    前の2つの作品(『泥花』『オバケの太陽』)に対して、一番最初のエピソードになる、ハジメたち親子が温かい環境の下ですごしていた時代のストーリー。

    ハジメの父は、「人は悲しみの上で生きている」、そして「炭鉱からわいてくる地下水が冷たいのは、炭鉱夫たちの涙だからだ」と言う。
    父はハジメに、だから、その地下にある冷たい海を温かくするような男になれと言う。

    ハジメは出会った神様(孤児の少年)と一緒に、泳ぐ機関車で海を温かくしようと思うのだ。
    「悲しみをぽかぽかにする」(温かい悲しみ)と。

    この設定自体が泣ける。

    悲しみ自体は受け入れても、そこに「温かさ」を少し足してあげることで、人は楽になるということなのだ。
    悲しみを直接癒すことはできないかもしれないが、温めてあげて、「そばにいる」「私がいる」ということを伝える。それは悲しみを背負った人に対してとても優しい態度であり、悲しみを和らげることができるだろう。

    「悲しみをぽかぽかにする」は、『オバケの太陽』で大人になったハジメが、同じような境遇の少年と出会い、自分のことを思い出してくるところのシーンと静かに共鳴してくる美しい台詞だ。

    しかし、ハジメには父との辛い別れがあり、唯一の友だちだった「神様」とも別れなくてはならなくなる。

    でも「生きろ!」と、ハジメの背中を強く押す声が非常にポジティブでいい。
    ストレートだけど、これがいい。
    ハジメには確実に届いている。
    そして、その声はハジメを通して『オバケの太陽』で出会った少年にも届くのだ。

    炭鉱・石炭と機関車、そしてハジメの母が好きだった向日葵、向日葵のように明るく笑う。

    ラストのシーンは、すでに想像の中にあるとおりだったが、それでも感動的であり、気持ちのいい余韻を強く残す。

    今回は、作・演の東さんも出演していた。単なるカメオ出演ではなく非常に意味のある位置づけだったと思う。
    彼は、3姉弟を引き取ることになる遠縁を演じている。

    彼が舞台に現れたときから醸し出された雰囲気から「いい人のところに行くんだ」という印象を受ける。ただし、それでも上っ面だけの可能性もまだある。しかし、倒産した鉱山の社員たちが社長宅(ハジメたちの自宅)に押しかけたときに、「いいか、人の浅ましさを見ておけ」と言う台詞から、この人(遠縁の男)は、そっち側の人ではないのだ、と確認でき、安心したのだ。
    この遠縁が現れ、いい人のようだと思ったときから、泣けてきてしまったのは、それぐらい感情移入していたからだろう。

    そういう意味で、この役は大切であり、それまで舞台の上ではどちらかと言えば、痩せてギスギスしていた人ばかりの中で、少し太った(笑)遠縁の男の登場は場の雰囲気も和らげてくれたように思う。

    役者は、三部作の他の作品では姉を演じていた板垣桃子さんが、ハジメのお祖母さんを演じていたが、台詞に気迫がこもり、カリスマ性のある女性を見事に演じきっていた。

    ハジメの父・辰介を演じた池下重大さんは、実はうっかりすればポキッと折れそうな弱さを秘めながら、ハジメに対しての父の威厳や人の良さ真面目さを好演していた。
    親族のダメ男を演じた原口健太郎さんは、そんな人に見えてきて、その妻でぐいぐいと押してくる、もりちえさんとのいつもの悪い(笑)黄金コンビを見せてくれた。

    また、登場シーンは少ないが、ハジメの母を演じた椎名りおさんには、妄想野球シーンで、ハジメに対する母性を感じるようだった。

    辰介の右腕・能嶋を演じた中野英樹さんは、辰介の自宅を漁りに来たあとのラストの表情の見せ方がとても良かった。

    かつてハジメを演じていた外山博美さんは、久々の子役復帰で、神様を演じていた。穢れを知らない真っ直ぐな子だけど、哀しさを背負っているように見え、とてもよかった。

    ハジメの姉たちも、中井理恵さん演じる長女は、美しくきりっとした長女で、徳留香織さんの次女は苦労を知らない次女という感じでそれぞれがいい味を出していたと思う。

    そして、ハジメを演じた大手忍さんは、これだけ大勢の濃いキャラの中で、ハジメを見事中心に立てていた。

    本当に良かった。

    今回も、劇団員が作るセットが素晴らしい。セットの展開、ラストのスペクタクルな感じも。
    草花が「墨」風になっているこだわりとか。

    また、毎回のことだが、客入れから客出しまで劇団員が総出で行うところも、好感度が高いのだ。

    次回は来年5月ということだが、今から楽しみだ。
  • 満足度★★★★

    引き込まれました
    淡々と進む物語。戦後の復興と炭坑街。
    キャラが立っていて「こういう人いるよなー」と脳内で身近な人にあたはめながら見ていて途中と最後で泣かされました。うるっときたな。
    熱いのと青いのが私のツボにはまります。よかった。

    ネタバレBOX

    なんとなく「このキャラはこうなるのかな」というとおりに進んでいたのですが、それが逆にスポッと気持ちにはまりました。欲しいところに球がくるみたいな快感が見ていてあるので、私は、こちらの劇団さんの青さ熱さ泥くささが好きなんだろうなと思います。
    途中で「いい加減、誰かハジメのバッティングのフォームの訂正してやれよ」「いや、むしろこれは訂正しないことでなにかを表しているの? ハジメが周囲からはおぼっちゃまとしてなんでもかんでもチヤホヤされていて、父はハジメのことはないがしろにしていることの表現?」などと思ったんですが、どうなんでしょうかね。
    ハジメのバット、途中で年月とともに薄汚れたものになってました? それは気のせい??
    ハジメが最初は斜視気味だったのがラストでまっすぐになってました?


    ラストで機関車くるのかなーと思ってたら「来た」ので、見たとき笑っちゃいました。ひまわりと機関車。あの大がかりさは、変な笑いが出てきました。

    やっぱり好きです。
    淡々と積み上げていくものがラストで気持ちよく崩壊する。でも崩壊しすぎないみたいなこの感じ。

    また次も見にいきます。
  • 満足度★★★★

    頑張れハジメ!
    昭和史の一部がグイグイと迫って来る感覚で、戦後の復興の陰にはこういう人達も少なからずいたのだろうななどと思う。
    また、大好きな『泥花』の前日譚…どころか「直前日譚」で、あちらの冒頭シーンが浮かんで来るくらい。
    いつか三部作の連続上演などあるといいなぁ。
    そして、頑張れハジメ!

    ネタバレBOX

    終盤、失意の底に沈みながらも立ち上がり歩き始めるハジメがとてもイイ。
    そして、遭遇した知人の「ラストのハジメはしっかり正面を見据えていた」との指摘に眼からウロコがボロボロと。

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