公演情報
「野良豚 Wild Boar」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
満足度★★★★
久々に文学座アトリエを訪れた。今回は四方を囲む客席。香港の女性劇作家の本作は権力とジャーナリズムを描く。同じく香港出身の文学座座員の女性演出のデビュー舞台でもある。
翻訳劇としての難しさ、彼我の国情の差による状況描写の難しさなどあったようである。不眠気味の状態で観るにはハードルの高い内容だった(要は寝た)が、後半覚醒し、物語の大半の流れは掴めた。大国中国の統制とせめぎ合うジャーナリズムの現在進行形が劇に反映し、主人公の些か素行の悪い記者は、師と仰いでいた先輩記者ユンが撃たれた事を機に、民主勢力の闘争心に火を点け巻き返そうと熱を入れる。だが最終盤、退院したユンが変節した事を知る。この事が徐々に露呈していく過程が秀逸。「パーフェクトシティの建設」は社会の進歩を表わし、これの実現が社会のため人民のためである、という論理が、不正の暴露の使命の前に立ちはだかる。それは計画の中止を意味するゆえ、両論平行線、従って推進派は逃げ切ることになる。
冷静に考えれば、不正の事実を問題化した上で、シティ建設の是非を改めて問うても良いはずなのだが、二択しかないと思わされている(観ている自分も)。かくして悪は蔓延り、正義は二の次に追いやられる(という前例を一つ一つ作られて行く)。日本の政治家とくに権力の中枢に近い者は私は何らかの手段で「脅し上げられている」と推測しているが、それが可能な権力関係を日本は受け入れており、今更抗えない所にまで来ている事が想像されるにつけ、日本が真の民主主義を勝ち取るにはやはり一度血を流す必要があるのだろう・・そんな事を思う。
実演鑑賞
満足度★★★★★
中国国内では「人はいきなり行方不明になる」し(そして数年後何も具体的なことを言えない状態でひょいと帰って
くるまでセット)、メディアタワー内部からといわずSNSなども含めて各所監視されているし、そんな状況下で上演なんか
したら「あれ? これって現在の状況まんまじゃね?」って意識しちゃう人が続出しちゃうので絶対無理でしょう。
作品自体はいろいろ伏線が張られてて、本筋じゃない男女のいざこざ部分も含めて怖い劇だなあと。
実演鑑賞
満足度★★★★
無機質なシルバーの机と丸椅子、天井の金網、新聞紙など、シンプルだが印象的な舞台装置で展開する物語は香港の劇作家によるものだが、舞台となる街や登場人物たちの名前は何処とも限定されず一般化されている。中盤の編集長とウェイトレス、終盤の編集長と記者の間の激しい議論がこの作品の本質と思われるが、作者の今の香港を見る冷徹な目が感じられる。最後の2つのシーンも象徴的。決して体制批判一辺倒というような単純な作品ではないのだが、あちらではこの作家の作品の上演が可能な状況ではないらしい。なんと未成熟で浅はかなことか。
実演鑑賞
満足度★★★★
7月に文学座アトリエで観た文学座附属演劇研究所研修科発表会『天保十二年のシェイクスピア』が最高だった。2000円でこんな凄いものを観せて頂いて申し訳ない程。御礼に次ここで演る作品を観ようとチケットを買った。
8月に『5月35日』を観て、今作の作者が同じ莊梅岩(そうばいがん)さんと知って期待大。香港の現在進行形反骨作家。今作『野良豚〈いのしし〉 Wild Boar』は2012年に香港で初演されたもの。もう香港では上演出来ない。莊梅岩さんは今も香港で政府の締め付けと戦っている。母校・香港演芸学院に宛てた公開書簡が話題に。政府が「ソフトな抵抗」への警戒を呼び掛け、呼応した者達は重箱の隅をつつくように行動発言作品への監視を強めた。自主規制の名の下に阻害分断孤立を迫られるアーティスト達。それは芸術の殺戮だ、と。
演出のインディー・チャンさんは香港出身の文学座の演出家、今作が文学座デビュー作。この二人が上演後にステージに上がった!
高度に管理された都市。
ある日、高名な都市工学の大学教授モナムが失踪する。事件性があるニュースなのにマスコミは何処もそれを報じない。「モナム教授に認知症の恐れ」など同じ方角に読者を誘導する情報操作の記事ばかり。大手新聞編集長ユン(清水明彦氏)はモナム教授とその日会う約束があった為、拉致されたと直感。だが書いた記事は空白にされた。義憤に駆られたユンは会社を辞め、自ら新しい新聞社を設立しようとする。妻でカメラマンのトリシア(上田桃子さん)はかつて有能な記者だったジョニー(山森大輔氏)に協力を依頼。ジョニーは相棒のハッカー(相川春樹氏)を呼び寄せ、モナム教授が告発しようとしていた事柄について調査する。そしてかつての女友達(下池沙知さん)とも彼女がウェイトレスとして働く店で再会。
ロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』のようなハードボイルド風味。主演の山森大輔氏は俗なチンピラ・キャラからフィリップ・マーロウの苦味まで幅広く表現しとても魅力的。陽気な遊び人と信念に殉じる義士の同居した胸の裡。
そしてMVPは下池沙知さんだろう。『廃墟』では若きパンパン役だったが今回は全くの別人。可愛くキュートな女からゾッとするもう一つの冷たい素顔まで。高層テラスでのデート・シーンは映画的。第一幕ラストの遣り取りこそ今作の心臓部になる。
ある意味、『ブレードランナー』的なニュアンスも感じる作品。
是非観に行って頂きたい。
※今の内に観といた方がいいぞ。もうこういうのは日本でも観られなくなる。ネパールの報道で確信した。