野良豚 Wild Boar 公演情報 文学座「野良豚 Wild Boar」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    7月に文学座アトリエで観た文学座附属演劇研究所研修科発表会『天保十二年のシェイクスピア』が最高だった。2000円でこんな凄いものを観せて頂いて申し訳ない程。御礼に次ここで演る作品を観ようとチケットを買った。
    8月に『5月35日』を観て、今作の作者が同じ莊梅岩(そうばいがん)さんと知って期待大。香港の現在進行形反骨作家。今作『野良豚〈いのしし〉 Wild Boar』は2012年に香港で初演されたもの。もう香港では上演出来ない。莊梅岩さんは今も香港で政府の締め付けと戦っている。母校・香港演芸学院に宛てた公開書簡が話題に。政府が「ソフトな抵抗」への警戒を呼び掛け、呼応した者達は重箱の隅をつつくように行動発言作品への監視を強めた。自主規制の名の下に阻害分断孤立を迫られるアーティスト達。それは芸術の殺戮だ、と。
    演出のインディー・チャンさんは香港出身の文学座の演出家、今作が文学座デビュー作。この二人が上演後にステージに上がった!

    高度に管理された都市。
    ある日、高名な都市工学の大学教授モナムが失踪する。事件性があるニュースなのにマスコミは何処もそれを報じない。「モナム教授に認知症の恐れ」など同じ方角に読者を誘導する情報操作の記事ばかり。大手新聞編集長ユン(清水明彦氏)はモナム教授とその日会う約束があった為、拉致されたと直感。だが書いた記事は空白にされた。義憤に駆られたユンは会社を辞め、自ら新しい新聞社を設立しようとする。妻でカメラマンのトリシア(上田桃子さん)はかつて有能な記者だったジョニー(山森大輔氏)に協力を依頼。ジョニーは相棒のハッカー(相川春樹氏)を呼び寄せ、モナム教授が告発しようとしていた事柄について調査する。そしてかつての女友達(下池沙知さん)とも彼女がウェイトレスとして働く店で再会。

    ロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』のようなハードボイルド風味。主演の山森大輔氏は俗なチンピラ・キャラからフィリップ・マーロウの苦味まで幅広く表現しとても魅力的。陽気な遊び人と信念に殉じる義士の同居した胸の裡。
    そしてMVPは下池沙知さんだろう。『廃墟』では若きパンパン役だったが今回は全くの別人。可愛くキュートな女からゾッとするもう一つの冷たい素顔まで。高層テラスでのデート・シーンは映画的。第一幕ラストの遣り取りこそ今作の心臓部になる。

    ある意味、『ブレードランナー』的なニュアンスも感じる作品。
    是非観に行って頂きたい。

    ※今の内に観といた方がいいぞ。もうこういうのは日本でも観られなくなる。ネパールの報道で確信した。

    ネタバレBOX

    四面に客席、囲まれたステージ。床には一面、沢山の新聞紙が敷かれている。新聞を一つ手に取ると床にマンホール状の穴が空いている。そこから4人の豚のハーフマスクを着けた者達が上がって来て新聞紙を丸め出す。丸まった巨大な新聞紙の塊を野良豚〈いのしし〉に見立てる。天井には垂れた網、罠にかけられてしまうぞ。早く逃げ出せ!

    相川春樹氏は『痕、婚』が強烈だったが今回は功夫で見せる。成龍から李小龍の流れ。おいもちゃん?

    静かな立ち上がりで居眠りも何人かいたが第一幕ラストで爆発的に盛り上がる。
    「PERFECT CITY 3.0」とは球体の街作り、新時代の都市計画。中心から富裕層が住居し、外縁部に行く程収入が低い層。更に地下にも都市を作り貧困層はそこに押し込める。貧富の差による明確な区分けがされた完璧な街。
    下池沙知さんは「それは良いことだ」と肯定する。自由やら正義やらは富裕層の嗜好品だ、と。あんたらはそんなもので遊んでいるだけじゃないか。何も選択肢を持たない貧しく弱い市民にそんなものは必要ない。弱者に必要なものは完璧に調和のとれた安定した世界。

    ラストは前日譚、テロに遭って入院しているユンの退院会見の原稿を考えるジョニー。気分転換に一日だけハッカーと野良豚狩りに出掛ける。まだ小さい野良豚が罠に掛かって檻の中。何度も何度も鉄の扉に突進してやめようとしない。その姿にふと扉を開けて逃がしてやるジョニー。それが当然のように何処までも駆けていく野良豚。「ああ、これだ!野良豚なんだ!」ユンが宣言すべき言葉が見つかった!

    尾崎豊、1984.3.15新宿ルイードでのデビューLIVE。
    「自由じゃなけりゃ意味がねえんだ!お前等本当に自由か?腐った街で埋もれてくなよ。俺達が何とかしなけりゃよお、何にもなんねえんだよ。」
    ラストはそれを思い出した。人間が自由を求めるのは本能だ。そこに善も悪もない。それこそが真実。

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    2025/09/11 00:24

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