見渡すかぎりの卑怯者 公演情報 見渡すかぎりの卑怯者」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-8件 / 8件中
  • 満足度★★★★★

    卑怯者の国
    「自分を評価するのは常に自分以外の人である」という事実は、時にひどく人を苛む。
    いくら自分を信じても、誰も正しいと言ってくれなければそれは勘違いに他ならない。
    精神病棟を舞台に「正しい人間」「正しい治療」「正しい選択」をめぐって
    患者・医師・家族全ての人々が自分を責めながら悩んでいる。
    まるでサイコサスペンスのような、ラストの衝撃が空恐ろしい。

    ネタバレBOX

    舞台正面に巨大なキャンバスを据えて、黒ずくめの男がひとり絵筆を握っている。
    彼の妻が、謝罪して頭を下げる担当医に投げつけるように言う。
    「謝らないで下さい!それじゃまるでこの選択が間違っていたみたいじゃありませんか!」

    画家の権田(若松賢二)は、どうして自分が精神病院などに入れられたのか判らない。
    誰かの首を絞めたらしいのだが覚えていないのだ。
    患者を平気でキチガイ呼ばわりして薬物治療を信じる院長(三浦浩一)は
    権田の担当医(内田亜希子)とことごとく意見が合わず衝突してばかりいる。

    権田の病室にはもう一人の入院患者、坂東(若松武史)がいる。
    彼は権田の絵の師匠で、権田は偶然の再会を喜ぶが
    坂東もまた妻の首を絞めてここに入れられたのだという。
    坂東の妻(佐藤真弓)は担当医と頻繁に話し合いにやって来る。
    ここには又、指示待ちタイプの看護師(若葉竜也)がいてぼんやり患者を見守っている。

    ここで言う「卑怯者」とは
    「うすうす感づいているくせに気付かないふりをしている奴」のことだ。
    精神病棟という特異な空間に慣れ切って感覚がマヒしているかのような院長が
    権田の錯乱をきっかけに深い洞察を見せるところが面白い。
    院長の「治るって何なんだろうな」という一言は
    患者にとって自然な状態を、「治療」と称して敢えて不自然な状態にすることへの
    強烈な違和感とそれに加担する職業のジレンマを表わしている。
    この「サイテー医師」から「立ち止まり悩む真摯な医師」への変化、
    患者の錯乱状態で目覚めたと言うだけではイマイチきっかけが弱い気もしたが
    三浦浩一さんの演技は、どちらもひとりの医師の中にある葛藤で
    根っこは同じなのだという人格の統一感が感じられた。

    一見正義感あふれるかに見える担当医が、実は「治してみたい」という
    自分の欲望に抗えず、院長に内緒で実験的な治療を施してみたりする。
    周囲の承諾を得たとは言え、結果的に彼女のエゴが権田の人格を崩壊させていく。

    夫が精神病院に入院した事によって経済的・世間的に大きな影響を受ける妻は
    「治って欲しいのか治って欲しくないのか」自分でも良く分からなくなっている。
    もう一度絵を描いて欲しいが、精神病患者の絵などもう売れないかもしれない。
    新しい治療をすることで国からの手当てがもらえなくなるのは困る。
    夫を追い詰めた要因のひとつは自分の言動であることに、彼女は気づいているのか。
    佐藤真弓さん演じる妻は“ひとりだけ素人”の立場からの発言が率直で可笑しい。
    なめらかな声で、天然のボケぶりとしたたかさを持ち合わせる妻を演じた。

    若松武史さんの、どこか泣き笑いのような表情が哀しい。
    抑圧された自己と向き合う為には、こういう方法しかなかったのか。
    飄々と軽やかな台詞回しの中に、追いつめられた者の叫びが聞こえる。

    松田賢二さんの、身体の動き・強張り方・苛立ちがリアルで
    人格の入れ替わりが良く分かった。
    どうして入院させられたのか全く思い当たらないという混乱ぶりに
    観ている私も自然と感情移入出来た。

    非常に興味深いのでネタバレするのが惜しいから敢えて書かないが
    脚本がとても面白くて謎も緊張感も尻上がりに高まって行く。
    箱庭円舞曲の作・演出である古川貴義さんは、台詞にメリハリがあって聴かせる。
    劇的な照明と共に、テンポの良い展開と場面転換でキメの台詞が際立つ。

    そしてラスト、冒頭と同じ場面が繰り返されるが、今度の画家は白ずくめだ。
    客席を振り向いて「卑怯者・・・」とつぶやく彼の視線の先には
    ここもまた見渡す限りの卑怯者が並んでいたことだろう。
  • 満足度★★★★★

    卑怯者はいったい誰なのか?
    「箱庭円舞曲」という劇団の作・演出を手掛けている古川貴義氏の
    手による、結構ブラックでシリアスな演劇作品。

    古川氏は、以前に『11のささやかな嘘』という作品の演出を
    手がけていたのを観て、これは! と思ってから、ずっと注目
    していた才能です。

    それだけに、ものすごく期待していたのですが、それをさらに
    上回る完成度で、すっかり大満足。今後の活動への期待も
    一気に高まりましたね。

    ネタバレBOX

    本作は、孤独な創作に苦悩し、周囲からの批判にも絶賛にも過敏になり、
    とうとう姿を見せないのにあれこれ言ってくる自分以外の存在がそのまま
    「見渡す限りの卑怯者」に映るようになってしまった画家が殺人未遂を
    起こして精神病院に強制入院させられるところから始まります。

    脚本は、かなり綿密に練られていて、幾つも伏線が張られていますね。
    そのなかで何が「正常」なのか、何が「狂気」なのか、観ている人の
    既成観念はどんどん揺るがされていきます。

    他には…こういう作品を観ると、つくづく自分に「表現する」「創造する」
    欲望が欠けていて良かったと思いますね。表現者、芸術家なら必ず
    襲われ続ける、過剰に肥大化し続ける自意識や他人の評価からの
    苦しみが、リアルに伝わってくる。

    身をよじって、「自分の作品」「芸術家としての生き方」の辛さや苦しみを
    絞り出すように叫ぶ様子が痛々しかったです。

    端々にブラックでビターなユーモアが挟み込まれているけど、正直
    笑いどころがちょっと… ラストの展開はかなり暗くて、しかもすごく
    怖かったですね。古川氏は、自分の劇団でホラーをやるべきだと
    思います。

    これからも、皆がつくらないような作品を生み続ける古川氏には
    大いに期待していきたいと思います。「箱庭円舞曲」もこれから
    チェックですね。今は駅前劇場ですが、すぐにトラムに進出出来ると思う。
  • 満足度★★★★★

    名作である
    遅くなりましたが、個人的には観てきた中ではかなり面白い作品でした。精神病棟という重いジャンル、差別用語連呼で嫌悪感もわきます。好き嫌いはあるかな。諸々考えさせられる内容が詰まっていたと思います。以下

    ネタバレBOX

    照明の怪しい感じや暗転のスムーズさがとても良かったです。役者さんの一人一人がレベル高く、中盤はダレそうな雰囲気を受けたがよく進めたと思います。統合失調症と解離性人格障害など、心理学の専門用語が出ていて、自分は大学で専攻したこともあるので話は分かった。逆に小難しい話に感じた方も多かったかもしれません。実は患者であった若者が職業療法で働いていたなど、実現は難しそうだけど話としては繋がっていたり、患者の記憶喪失も後々判明したり脚本の面白さがありました。脱ぐ必要があったのか。サービスカット要素にしか思えなかった。
    異常だと思う人たちの価値観は果たして健常なのか。これはとても真理をついていて考えさせられます。ニュースや世論、情報操作でAだと思い込んだいたものが実はBであっても、大半の人はAだと信じてやまないような。身の回りにも沢山あると思います。そんな歪んだ世の中の縮図を感じたのは、こういう芝居としては意義深いのではないでしょうか。実際に絵は描いて欲しかったです。ラストの人格が一つになり、「卑怯者」と言うシーンは鳥肌立つほど好きです。面白かった。こういうのを定期的に観たいです。
  • 満足度★★★★

    大人がじっくり満喫することができる作品
    プロデュース公演なので、作・演出の古川氏の劇団「箱庭円舞曲」での公演とは、当然ながら役者の質感や演出に違いがあり、最初のうちはその違いを楽しむつもりで臨んだ。だが、作品中盤あたりからはもうそういった余分な邪心なく素直に引き込まれていった。むしろ終幕にむかうにつれて、公演形態が変わってもけして揺るがない作家性の根幹がひしひしと感じられて、新鮮な感覚に。精神病棟というのは一見、映画や小説など物語の舞台になることが多い印象もあるが、今回の作品に既視感は無かった。描かれているのはその精神病棟の特異性を越えた、もっと普遍的なもので、人間の人生に対するあがきのようなものだったように個人的には思う。
    大人がじっくり満喫することができる作品。

    ネタバレBOX

    役者さんはみな真摯な熱演だったが、内縁の妻を演じた佐藤真弓さんの演技のさじ加減っぷりが作品によい膨らみを与えていたように思う。
  • 満足度★★★★

    タイトルも上手い!
    精神病棟でのやりとりは緊迫感に包まれていたのだが、若松さんが現れるとその飄々とした捉えどころのない口調で不思議な味わいがあった。
    病名が明かされ、ある治療(試み)が施されるとハラハラして思わず手に汗握る!ラストまでハッとさせられる、うまいなぁ。

  • 満足度★★★★

    普通に(正しく)生きるとは
    物語が動き出す中盤以降は、まさにタイトルに合ったテーマが語られ、ただただ圧倒、ただただ納得、ただし序盤は我慢が必要だったな、というのが個人的な感想です。僕は最後の台詞までオチがわからなかったので、序盤の一定の事実が伏せられたままの物語は疑問が多く素直に入っていけませんでした。観劇後の感想としてはテーマとエンタメ感が絶妙にうまい!でも共感の多いテーマで、とても豊かな演技で魅了された役者さんばかりだった公演だけに、作演の古川さんが敢えて一歩踏み込まずに留めているであろうテーマのその先が見たいなぁ、などと勝手に思ってしまいました。HPの室井さんや又吉さんとの対談も刺激的だったし、創り手の思いをもっともっと垣間見たかったなぁ。

    ネタバレBOX

    物語序盤に医師が口にするキチガイ、って言葉は便利だ。そう言って枠にはめて型通りのやり方ならば対応出来る。逆に言えば、枠にはめないと人の精神、脳の構造なんてわからない事だらけだ。劇中「富士山」を例に正常と異常の違いを説明した場所は非常にわかりやすいなと思った。人の正常と異常の境目のいかに曖昧なことか。

    劇の中盤、登場人物の権田と坂東が客席を見ながら発される(それは登場人物の主観的には世間一般に向けての視線だが)「卑怯者」も、最初と最後で同じシーンが繰り返され、最初は敢えて無声でわからなかった台詞の正体が「卑怯者」であった構造も、そこには自分を取り巻く周囲への「承認願望」が露呈されてるなぁと思う。この2つのシーンには非常にゾッとされるし、驚きも大きい。まさに見せ場だなぁと思う。ただ踏み込んで欲しいなと思うのは。私自身の身近にも心療内科や精神科に掛かってる人はたくさんいて、今やメンタルヘルスは日常的だ。昔の精神科に掛かる奴は狂ってる、一家の恥、みたいな風潮に比べれば、明らかにメンタルヘルスへのハードルは下がってる。でも、偏見は依然としてあるし、何より薬に頼っても、カウンセリングで勇気付けられても、最終的に自分自身を克服するのは自分自身だということだ。物語の面白さとしての、誰が異常で、誰が正常かわからない構造はエンタメとして非常に長けているし楽しく見れたけれど、現実に大なり小なりメンタルで苦しんでいる人への救いにはならないだろうなぁと感じてそこは残念だと思いました。
  • 満足度★★★

    緊迫感が、楽しめました!
    佐藤真弓さん目当てで行きました。
    途中で結末が見えても、最後まで楽しめました。

  • 満足度★★

    もったいない
    これだけの役者にこの内容(演出)では。演者(作者)から卑怯者呼ばわりされても全然そんな気にならなかったのは私がこの芝居を理解できなかったからだろう。作者と私とでは卑怯の定義(イメージ)が異なっていただけのことかもしれないが、理解できない芝居からは得るものがあまりない。全体的なまとまりのなさからは、作者の言わんとしていることを役者が100%理解し、納得して演じていたのかという疑問も浮上する。

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